傷痕~想い出に変わるまで~
結実 3
「瑞希ちゃん、この2年間ありがとう。何度も会いに来てくれて嬉しかった。光も喜んでると思う」
「いえ……」
「でもそろそろ自分を解放してあげて。光はもう瑞希ちゃんを幸せにはしてあげられないけれど、瑞希ちゃんを幸せにしてくれる人はいるでしょ?」
別れ際に光のお母さんが言った。
「ついさっき、瑞希ちゃんの同僚だっていう背の高い男の人が光に会いに来てくれてね。光の分まで瑞希ちゃんを幸せにしたいって。食事を勧めたんだけど遠慮されて……これから光のお墓参りに行くって言ってたわ」
光のお墓の前に背の高い後ろ姿を見付けた。
久しぶりに見るその姿は、紛れもなく門倉だった。
ゆっくりと近付くと、門倉は手もあわせず何かを語りかけるような目で光のお墓と対峙していた。
「お墓の前なんだから手くらいあわせたら?」
門倉は少し驚いたように私の声に振り返る。
「なんだ、いたのか」
「今来た」
門倉の隣に立って光のお墓に手をあわせた。
「今日が3回忌だったんだってな」
「うん。さっき終わった。門倉は?」
「小塚さんから連絡もらってな。なんとか都合ついたから寄ってみた」
「ここに来る前に光の実家に寄ったんだって?お母さんから聞いたよ」
風が吹いて私の長い髪がなびいた。
辺りの木がざわざわと葉を揺らす。
「一応けじめとしてな。そろそろ篠宮を俺に任せてくれって、こいつに言いに来たんだよ」
「……忘れてたんじゃなかったの?」
「忘れるか、バカ。そろそろ行くぞ」
駅までの道のりを並んで歩いた。
門倉と会うのは今年のお正月以来だ。
「ずっと忙しかったの?」
「ああ。盆休み返上するくらいな。おまえは?」
「相変わらず」
交わす会話は以前より言葉少なく感じる。
門倉が隣にいることがなんだか不思議だ。
駅の自動券売機の前で、門倉は運賃表を見上げた。
「おまえいくらの切符買うんだ?」
「420円。門倉は?」
「とりあえず420円だな」
とりあえずってなんだ?
電車に乗って私の自宅の最寄り駅に戻った。
門倉はこの後どうするつもりなんだろう?
「おい」
「ん?なに?」
「久しぶりに禊でもするか」
禊はもう必要ない。
私はもう光と過ごした日々を悔やんではいないし、次の一歩を踏み出してみることにしたから。
「それはいい」
「禊はもう済んだのか」
「光のお母さんに言われた。そろそろ自分を解放してあげてって。それで、私の同僚の背の高い男の人が、光の分まで私を幸せにしたいってさ。誰だろうね」
立ち止まって見上げると、門倉は大きな手で私の頭をポンと叩いた。
「誰だろうな」
歩き出した門倉の手が私の手を握った。
私の手をスッポリと包む大きな手だ。
「お腹空いたね。焼肉行こうか」
「おー。おまえのおごりで高い肉な」
「任せとけ」
手を繋いで歩きながら、門倉との間に起こったいろいろな出来事を思い出した。
何度も励ましたり、背中を押したりしてくれた。
いつも私を一番近くで見守ってくれた。
つらい時は抱きしめて頭を撫でてくれた。
私を一番わかってくれるのは、いつも門倉だった。
「なぁ篠宮」
「ん?なに?」
「俺んとこ来るか?」
「え?」
俺んとこってどこだ?
門倉は今、神戸に住んでいるはずだけど。
「……神戸?」
「いや、俺また来月から本社に戻るから」
「そうなの?」
それは初耳だ。
しかし転勤が多いな、門倉は。
「もう部屋決まったの?」
「これから」
部屋も決まってないのに俺んとこ来るか?って……何?
それじゃあ行きたくても行けるわけがないのに。
「じゃあまだ門倉んとこ行けないじゃない。部屋決まったら呼んでよ。引っ越し祝いくらいは持ってくからさ」
私がそう言うと門倉は立ち止まり、呆れた顔をしてため息をついた。
「いえ……」
「でもそろそろ自分を解放してあげて。光はもう瑞希ちゃんを幸せにはしてあげられないけれど、瑞希ちゃんを幸せにしてくれる人はいるでしょ?」
別れ際に光のお母さんが言った。
「ついさっき、瑞希ちゃんの同僚だっていう背の高い男の人が光に会いに来てくれてね。光の分まで瑞希ちゃんを幸せにしたいって。食事を勧めたんだけど遠慮されて……これから光のお墓参りに行くって言ってたわ」
光のお墓の前に背の高い後ろ姿を見付けた。
久しぶりに見るその姿は、紛れもなく門倉だった。
ゆっくりと近付くと、門倉は手もあわせず何かを語りかけるような目で光のお墓と対峙していた。
「お墓の前なんだから手くらいあわせたら?」
門倉は少し驚いたように私の声に振り返る。
「なんだ、いたのか」
「今来た」
門倉の隣に立って光のお墓に手をあわせた。
「今日が3回忌だったんだってな」
「うん。さっき終わった。門倉は?」
「小塚さんから連絡もらってな。なんとか都合ついたから寄ってみた」
「ここに来る前に光の実家に寄ったんだって?お母さんから聞いたよ」
風が吹いて私の長い髪がなびいた。
辺りの木がざわざわと葉を揺らす。
「一応けじめとしてな。そろそろ篠宮を俺に任せてくれって、こいつに言いに来たんだよ」
「……忘れてたんじゃなかったの?」
「忘れるか、バカ。そろそろ行くぞ」
駅までの道のりを並んで歩いた。
門倉と会うのは今年のお正月以来だ。
「ずっと忙しかったの?」
「ああ。盆休み返上するくらいな。おまえは?」
「相変わらず」
交わす会話は以前より言葉少なく感じる。
門倉が隣にいることがなんだか不思議だ。
駅の自動券売機の前で、門倉は運賃表を見上げた。
「おまえいくらの切符買うんだ?」
「420円。門倉は?」
「とりあえず420円だな」
とりあえずってなんだ?
電車に乗って私の自宅の最寄り駅に戻った。
門倉はこの後どうするつもりなんだろう?
「おい」
「ん?なに?」
「久しぶりに禊でもするか」
禊はもう必要ない。
私はもう光と過ごした日々を悔やんではいないし、次の一歩を踏み出してみることにしたから。
「それはいい」
「禊はもう済んだのか」
「光のお母さんに言われた。そろそろ自分を解放してあげてって。それで、私の同僚の背の高い男の人が、光の分まで私を幸せにしたいってさ。誰だろうね」
立ち止まって見上げると、門倉は大きな手で私の頭をポンと叩いた。
「誰だろうな」
歩き出した門倉の手が私の手を握った。
私の手をスッポリと包む大きな手だ。
「お腹空いたね。焼肉行こうか」
「おー。おまえのおごりで高い肉な」
「任せとけ」
手を繋いで歩きながら、門倉との間に起こったいろいろな出来事を思い出した。
何度も励ましたり、背中を押したりしてくれた。
いつも私を一番近くで見守ってくれた。
つらい時は抱きしめて頭を撫でてくれた。
私を一番わかってくれるのは、いつも門倉だった。
「なぁ篠宮」
「ん?なに?」
「俺んとこ来るか?」
「え?」
俺んとこってどこだ?
門倉は今、神戸に住んでいるはずだけど。
「……神戸?」
「いや、俺また来月から本社に戻るから」
「そうなの?」
それは初耳だ。
しかし転勤が多いな、門倉は。
「もう部屋決まったの?」
「これから」
部屋も決まってないのに俺んとこ来るか?って……何?
それじゃあ行きたくても行けるわけがないのに。
「じゃあまだ門倉んとこ行けないじゃない。部屋決まったら呼んでよ。引っ越し祝いくらいは持ってくからさ」
私がそう言うと門倉は立ち止まり、呆れた顔をしてため息をついた。
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