傷痕~想い出に変わるまで~
困惑 4
「なんか悔しい……」
「何が?」
「門倉より早く次の恋を見つけたかったのに先越されちゃうし、恋の仕方なんて忘れちゃったしな……」
「はぁ?なんだそれ」
門倉は怪訝な顔をして首をかしげながら店員を呼び止め、ビールのおかわりを2つ注文した。
「門倉は結婚する前、奥さん以外の人と付き合ってた?」
「まぁ……それなりに?」
「離婚した後も?」
「付き合ってた……とまではいかないけど、それらしい相手がいたこともある」
それらしい相手ってなんだ?
付き合ってたような付き合ってなかったような、曖昧な関係の相手のことをいうのか?
『いたこともある』ってことは、今はその人とはもう『それらしい』関係ではないのかな。
なんにせよ、門倉が私よりずっと恋愛経験が豊富なことには違いない。
「いきなり好きとか付き合おうとか言われてもさぁ……どうしていいのかわからないんだよね。私の恋愛の基準は光だから」
ビールを飲んでいた門倉がジョッキを置いて顔を上げた。
「恋愛の基準?」
「初めて付き合った人が光で、そのまま結婚して離婚して、その後は仕事一筋で光としか付き合ったことがないから、他の人だとどうするとかわからない」
「恋愛に基準なんか必要か?過去に誰と付き合おうが、大事なのは今の自分の気持ちだと俺は思うぞ」
今の自分の気持ちがわかっていたら、最初から悩んだりしない。
大人になれば恋愛ももっとうまくできるもんだと思っていたのに、大人になるほど恋愛以外にも大事なものが増えて、好きとか嫌いで割り切れるほど簡単じゃなくなっていく気がする。
このままじゃ私、一生一人のままなんじゃないか?
今はそれで良くても将来のことを考えると『今の自分の気持ち』だけを考えているわけにもいかなさそうだ。
「光とのこと、考えてみようかな……」
「えっ」
「昔と同じってわけにはいかないけど……あんなに好きだって言ってくれてるし……」
門倉は険しい顔をしてタバコに火をつけた。
一度失敗している相手となんてやめとけとか思ってるのかな。
「篠宮は好きだって言ってくれるやつなら誰でもいいのか?」
予想外の門倉の言葉に少し驚いた。
一度別れた相手とは言え、私を好きだと言ってくれている人と付き合うのはそんなに悪いこと?
「そういうわけじゃないけど……今の光を見もしないで断るのもどうかと思うし、離婚した原因の半分は私にもあるんだし……。もう一度やり直せたらって思ったのは私も同じだからね」
「俺がやめとけって言っても?」
「え?」
「人間の本質なんてそうそう変わるもんじゃない。篠宮は仕事のことになると他のことは後回しにするだろ?あいつも最初のうちは我慢するだろうけどな、そんなことが続いてまともに相手してもらえなくなると、また同じことくりかえすんじゃないか?」
それは私も思わなかったわけじゃないけれど、門倉に言われるとなぜか無性に腹が立った。
「そんなのわからないよ。でも私だって昔のことは後悔してるし、光もすごく後悔してたって。それにもう二度と私を悲しませるようなことはしないって言ってくれたから」
どういうわけか私は、門倉に対して自分と光を擁護するようなことを言った。
迷っていたから門倉に相談したはずなのに、これでは私が光ともう一度付き合うことを決めているみたいだ。
門倉は舌打ちをして伝票を手に立ち上がった。
「だったら好きにしろよ。俺に相談なんかしなくたって、篠宮の中でもう答出てんじゃん。禊はこれで終わりだな」
「ちょっと門倉……」
門倉はひどく苛立たしげな様子で私に背を向けた。
私も荷物を手に立ち上がり、店を出ようとする門倉の後を追った。
「門倉、ちょっと待ってよ」
店を出てさっさと歩いて行く門倉の腕を掴んで引き留めると、門倉はゆっくり振り返った。
その顔があまりに冷たくて一瞬たじろいでしまう。
「俺が何言っても篠宮はあいつをかばうだろ?そんなにあいつが好きなら、同じ失敗をくりかえさないようにお互いの顔色窺いながらうまくやれば?じゃあな」
「何が?」
「門倉より早く次の恋を見つけたかったのに先越されちゃうし、恋の仕方なんて忘れちゃったしな……」
「はぁ?なんだそれ」
門倉は怪訝な顔をして首をかしげながら店員を呼び止め、ビールのおかわりを2つ注文した。
「門倉は結婚する前、奥さん以外の人と付き合ってた?」
「まぁ……それなりに?」
「離婚した後も?」
「付き合ってた……とまではいかないけど、それらしい相手がいたこともある」
それらしい相手ってなんだ?
付き合ってたような付き合ってなかったような、曖昧な関係の相手のことをいうのか?
『いたこともある』ってことは、今はその人とはもう『それらしい』関係ではないのかな。
なんにせよ、門倉が私よりずっと恋愛経験が豊富なことには違いない。
「いきなり好きとか付き合おうとか言われてもさぁ……どうしていいのかわからないんだよね。私の恋愛の基準は光だから」
ビールを飲んでいた門倉がジョッキを置いて顔を上げた。
「恋愛の基準?」
「初めて付き合った人が光で、そのまま結婚して離婚して、その後は仕事一筋で光としか付き合ったことがないから、他の人だとどうするとかわからない」
「恋愛に基準なんか必要か?過去に誰と付き合おうが、大事なのは今の自分の気持ちだと俺は思うぞ」
今の自分の気持ちがわかっていたら、最初から悩んだりしない。
大人になれば恋愛ももっとうまくできるもんだと思っていたのに、大人になるほど恋愛以外にも大事なものが増えて、好きとか嫌いで割り切れるほど簡単じゃなくなっていく気がする。
このままじゃ私、一生一人のままなんじゃないか?
今はそれで良くても将来のことを考えると『今の自分の気持ち』だけを考えているわけにもいかなさそうだ。
「光とのこと、考えてみようかな……」
「えっ」
「昔と同じってわけにはいかないけど……あんなに好きだって言ってくれてるし……」
門倉は険しい顔をしてタバコに火をつけた。
一度失敗している相手となんてやめとけとか思ってるのかな。
「篠宮は好きだって言ってくれるやつなら誰でもいいのか?」
予想外の門倉の言葉に少し驚いた。
一度別れた相手とは言え、私を好きだと言ってくれている人と付き合うのはそんなに悪いこと?
「そういうわけじゃないけど……今の光を見もしないで断るのもどうかと思うし、離婚した原因の半分は私にもあるんだし……。もう一度やり直せたらって思ったのは私も同じだからね」
「俺がやめとけって言っても?」
「え?」
「人間の本質なんてそうそう変わるもんじゃない。篠宮は仕事のことになると他のことは後回しにするだろ?あいつも最初のうちは我慢するだろうけどな、そんなことが続いてまともに相手してもらえなくなると、また同じことくりかえすんじゃないか?」
それは私も思わなかったわけじゃないけれど、門倉に言われるとなぜか無性に腹が立った。
「そんなのわからないよ。でも私だって昔のことは後悔してるし、光もすごく後悔してたって。それにもう二度と私を悲しませるようなことはしないって言ってくれたから」
どういうわけか私は、門倉に対して自分と光を擁護するようなことを言った。
迷っていたから門倉に相談したはずなのに、これでは私が光ともう一度付き合うことを決めているみたいだ。
門倉は舌打ちをして伝票を手に立ち上がった。
「だったら好きにしろよ。俺に相談なんかしなくたって、篠宮の中でもう答出てんじゃん。禊はこれで終わりだな」
「ちょっと門倉……」
門倉はひどく苛立たしげな様子で私に背を向けた。
私も荷物を手に立ち上がり、店を出ようとする門倉の後を追った。
「門倉、ちょっと待ってよ」
店を出てさっさと歩いて行く門倉の腕を掴んで引き留めると、門倉はゆっくり振り返った。
その顔があまりに冷たくて一瞬たじろいでしまう。
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