傷痕~想い出に変わるまで~
真実 6
二人の話では最初から本気だったのは藤乃の方で、光は私の身代わりを藤乃に求めていたらしい。
髪が長くて背格好が私と似ていたからというだけの理由で、藤乃に私の面影を重ねていたそうだ。
「あの時の光は病んでたからな。誰かと触れ合ってないと寂しくて耐えられなかったんだ。性依存って言うのか?」
そんなことも初めて聞いた。
光は寂しさを埋めるために、誰でもいいから抱きしめて欲しかったんだ。
すぐそばにいても触れられない私の代わりに。
その後、光は時間をかけて藤乃と別れたそうだ。
すっかり心が病んでしまい精神科に通院していたとも二人は言っていた。
それからしばらくして、生きる気力をなくした光は病院で処方されていた睡眠薬を大量に飲んで自殺を図ったらしい。
一命をとりとめた光を二人が見舞いに行った時、光は『瑞希に会いたい』と涙ながらに呟いたそうだ。
「こんなこと話しといてなんだけどな。職場でのこととか原因はいろいろあるけど……光はシノのことがホントに好きだったんだ。だから近くにいるのにシノが遠くなってしまったことに耐えられなかった」
「嫌われたくないから自分の弱さをシノにさらけ出せなかったんだよ。それが光とシノを離婚に追いやった一番の理由だと俺は思う。だからって浮気していいとは思わないけどさ。シノにも原因はあると思うぞ」
「うん……。ありがとう、話してくれて」
私は光のことを何も知らなさすぎた。
どれほど寂しい思いをさせていたのか。
どれほど光を傷付けていたのか。
今更だけど、妻として光に寄り添えなかったことを謝りたいと思った。
仕事と主婦業をこなすことで精一杯で、一番大事な妻としてのつとめを疎かにしてしまったのは未熟だった私だ。
帰り際、小塚は言った。
『二人とも先を急がないで、もう少し大人になってから結婚すればうまく行ったのかも知れないな』
それは私も何度も思ったことだ。
どんなに悔やんでも過ぎた時間は戻らない。
だけど……若かった日の過ちを心から悔やんでいるのなら、また別の未来へも踏み出せるのではないか。
やり直すことはもうできない。
だけどもし新たな道があるのなら、私は……。
自宅に戻りシャワーを浴びて床に就いた。
疲れているはずなのになかなか寝付けず、何度も寝返りを打った。
光のことを考えると自然と溢れた涙は、いつしか枕に染みを広げた。
本当に好きだった。
好きだったから、掴み合いの喧嘩をして罵り合って憎み合って別れたくはなかった。
だから何も言わなかった。
私も光も、お互いに自分の弱さや心の奥に潜む汚い部分をさらけ出すことができなかった。
どうして私たちはわかり合おうとしなかったんだろう?
あんなに好きで好きでどうしようもなくて、ずっと一緒にいるために結婚したはずなのに。
喧嘩して泣きじゃくる私の頭を何度も撫でてくれた優しい手と、いつかの仲直りの言葉を思い出した。
『ごめん、瑞希。泣かせてごめんな。俺には瑞希しかいないよ。好きだからずっと俺のそばにいて』
ずっと一緒にいたかったのは私も同じだったはずなのに。
無機的に一緒にいることで光を苦しめてしまったのだと思うとやりきれなくてまた涙が溢れた。
「ごめんね、光……」
光に届くことのないその言葉は夜のしじまに跡形もなく消え去った。
髪が長くて背格好が私と似ていたからというだけの理由で、藤乃に私の面影を重ねていたそうだ。
「あの時の光は病んでたからな。誰かと触れ合ってないと寂しくて耐えられなかったんだ。性依存って言うのか?」
そんなことも初めて聞いた。
光は寂しさを埋めるために、誰でもいいから抱きしめて欲しかったんだ。
すぐそばにいても触れられない私の代わりに。
その後、光は時間をかけて藤乃と別れたそうだ。
すっかり心が病んでしまい精神科に通院していたとも二人は言っていた。
それからしばらくして、生きる気力をなくした光は病院で処方されていた睡眠薬を大量に飲んで自殺を図ったらしい。
一命をとりとめた光を二人が見舞いに行った時、光は『瑞希に会いたい』と涙ながらに呟いたそうだ。
「こんなこと話しといてなんだけどな。職場でのこととか原因はいろいろあるけど……光はシノのことがホントに好きだったんだ。だから近くにいるのにシノが遠くなってしまったことに耐えられなかった」
「嫌われたくないから自分の弱さをシノにさらけ出せなかったんだよ。それが光とシノを離婚に追いやった一番の理由だと俺は思う。だからって浮気していいとは思わないけどさ。シノにも原因はあると思うぞ」
「うん……。ありがとう、話してくれて」
私は光のことを何も知らなさすぎた。
どれほど寂しい思いをさせていたのか。
どれほど光を傷付けていたのか。
今更だけど、妻として光に寄り添えなかったことを謝りたいと思った。
仕事と主婦業をこなすことで精一杯で、一番大事な妻としてのつとめを疎かにしてしまったのは未熟だった私だ。
帰り際、小塚は言った。
『二人とも先を急がないで、もう少し大人になってから結婚すればうまく行ったのかも知れないな』
それは私も何度も思ったことだ。
どんなに悔やんでも過ぎた時間は戻らない。
だけど……若かった日の過ちを心から悔やんでいるのなら、また別の未来へも踏み出せるのではないか。
やり直すことはもうできない。
だけどもし新たな道があるのなら、私は……。
自宅に戻りシャワーを浴びて床に就いた。
疲れているはずなのになかなか寝付けず、何度も寝返りを打った。
光のことを考えると自然と溢れた涙は、いつしか枕に染みを広げた。
本当に好きだった。
好きだったから、掴み合いの喧嘩をして罵り合って憎み合って別れたくはなかった。
だから何も言わなかった。
私も光も、お互いに自分の弱さや心の奥に潜む汚い部分をさらけ出すことができなかった。
どうして私たちはわかり合おうとしなかったんだろう?
あんなに好きで好きでどうしようもなくて、ずっと一緒にいるために結婚したはずなのに。
喧嘩して泣きじゃくる私の頭を何度も撫でてくれた優しい手と、いつかの仲直りの言葉を思い出した。
『ごめん、瑞希。泣かせてごめんな。俺には瑞希しかいないよ。好きだからずっと俺のそばにいて』
ずっと一緒にいたかったのは私も同じだったはずなのに。
無機的に一緒にいることで光を苦しめてしまったのだと思うとやりきれなくてまた涙が溢れた。
「ごめんね、光……」
光に届くことのないその言葉は夜のしじまに跡形もなく消え去った。
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