傷痕~想い出に変わるまで~

櫻井音衣

真実 2

深夜の公園で、私は涙を浮かべながら力なくブランコに座っている。
門倉はブランコのそばのベンチに座って黙り込んだままタバコを吸っている。

やっぱり聞かない方が良かったかな。
私は光の妻だったはずなのに、何も知らなさすぎた。
いや、夫だったはずの光から何も知らされていなかったんだ。
信頼されていなかったから本当の意味で夫婦になれなかったのかな。

門倉が地面で火を消したタバコの吸い殻を携帯灰皿にしまって立ち上がった。

「篠宮、ずっとここにいると風邪ひくぞ。そろそろ帰ろう」

泣き顔を見られるのがカッコ悪くて、うつむいたまま少し作り笑いを浮かべた。

「ごめんね、遅くまで付き合わせて。私はもう少し酔いが醒めたらタクシーで帰るから、門倉は先に帰っていいよ」
「やっぱりバカだな、篠宮。こんな時間にこんな場所でおまえを一人にできるわけないだろ」

門倉は私の手を引っ張って強引に立ち上がらせ、その長い腕で私を抱きしめた。

「酔ってなんかないくせに。一緒にいてやるから泣きたきゃ好きなだけ泣け」

門倉の体温が体に伝わってくる。
温かくて優しくて涙がこぼれた。
こんな弱ってる時に平気な顔してこんなことするんだもんな。
思いきり泣いてしまいたいとか思っちゃうじゃないか。
これはちょっとずるい。
門倉の優しさに流されて崩れ落ちないように、甘えたがる弱い心にブレーキをかけた。

「泣かないよ……。門倉ってやっぱり天然だよね……」

門倉の胸を両手で押し返そうとすると、門倉は更に強い力で私を抱きしめた。

「はぁ?もう天然でも養殖でもなんでもいいよ!つらいことは自分の中に溜め込んでないで全部吐き出せ。俺がいくらでも聞いてやる」
「やっぱり知りたくなかったな……。今更だけど……ショックだった」
「篠宮……」

無理に聞かせて悪かったとでも思っているのか、それとも同情しているのか。
門倉はなかなか私を離そうとしない。

「もう大丈夫だから離して」
「一人になるのがつらいなら……うち、来るか?」

いつもより少し低い声で門倉が尋ねた。
門倉の家に行ったことなんかないし、そこまでしてもらう理由はない。
それに今は早く一人になりたい。

「行かない。ちゃんと帰るから安心して」
「一人でホントに大丈夫か?」
「大丈夫。明日も仕事だし、帰ってお風呂入って寝る」
「うん……そうか」

門倉は私からゆっくりと手を離した。
急に夜風の冷たさが染みて身震いがした。

「確かに寒いね。早く帰ろう」

家まで送ると門倉は言ってくれたけど私はそれを断って、駅前のタクシー乗り場から別々のタクシーに乗った。
タクシーに乗ってドアが閉まり、門倉の姿が見えなくなった途端に涙が溢れた。
こんな時はあんまり優しく抱きしめたりしないで欲しい。
光に抱きしめられた時のことをまた思い出して泣いてしまうから。



タクシーのシートに身を預けてぼんやりと窓の外を流れる景色を眺めた。
岡見と小塚から聞いた話が次々と頭の中に蘇り、胸が痛くて窓の外の景色が涙でにじんだ。

前に別の友人から聞いた話より、岡見と小塚から聞いた話は私にとってとてもショックだった。
そして光本人から聞いたあの時の彼女の話もまったく違うものだった。
光は私に本当のことを隠したくて嘘をついたんだ。



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品