傷痕~想い出に変わるまで~
懺悔 2
「門倉さんから聞いたけど、課長なんだって?」
「ああ……うん」
門倉から聞いたって、一体何をどこまで?
光に変なことを吹き込んではいないか心配で、妙な汗が背中を伝った。
「すごいな、瑞希は」
「……私には仕事しかないから」
ちょっとイヤな言い方だったかな。
私は光みたいに、他の人に心の拠り所を求めることは出来なかった。
光にはきっと、つらい時に支えてくれる優しい誰かがそばにいるんだろう。
離婚してからの5年間、誰とも付き合わず恋愛もしていないと言ったら、光は驚くだろうか。
このまま当たり障りのない会話をしていても埒が明かない。
直接会ってまで話したかったことはなんなのか、思いきって聞いてみよう。
「あの……」
「瑞希、あの時はごめん。本当に悪かった」
光は私の言葉を遮ってそう言うと、深々と頭を下げた。
予想外の展開に驚き、言葉が出てこない。
私は呆然と光のつむじを眺めている。
「うまくいかないことを、全部瑞希のせいにしてた。何も話さなかったくせに、なんで瑞希は俺の気持ちに気付いてくれないんだろうって。情けないけど、瑞希は俺のことより仕事が大事なんだって、子供みたいに拗ねてた。本当にごめん」
……なんで今頃になってこんなこと言うかな。
あの時ちゃんと本音をぶつけてくれていたら、もっと違う形におさまっていたかも知れないのに。
「あの……頭上げてくれる?」
そんなに派手に頭を下げられたら、周りの客にジロジロ見られている気がして居心地が悪い。
光は頭を上げてまっすぐに私の顔を見た。
「離婚してからしばらくして、やっと冷静に物事を考えられる状態になって……全面的に俺が悪かったって気付いたんだ。ずっと謝りたいと思ってたけど、瑞希の連絡先も住所も変わった後だったから、どうしようもなくて……」
「……うん」
離婚届を出してから2週間後に、二人で暮らしたマンションを引き払った。
それと同時に、私は携帯電話の番号を変えた。
離婚についての話は済んでいたし、もう光と会うことはないだろうと思ったから。
それ以外にも私の居所や連絡先を知る手立てはあっただろうに、そこまでは考えなかったのかな。
「もう会うつもりはなかったからね……。こうして光が目の前にいるのが、今もまだ不思議」
「瑞希の会社で偶然会った時は人違いかと思ったよ。ずいぶん変わったから」
そうでしょうとも。
光の好みとは真逆の女になろうとしたんだから。
「5年近くも経てば変わって当然だと思うよ。私は変わったって言っても、見た目は髪形変えて少し老けたくらいで、中身はたいして変わってない」
「昔は腰ぐらいまで髪伸ばしてかわいかったけど……瑞希はショートも似合うんだな。大人っぽいし……綺麗になった」
これは罪悪感から出たお世辞かな?
今更別れた元妻を誉めても何も出ないのに。
「離婚してから……瑞希はどうしてた?」
光はためらいがちに尋ねた。
これだけ見た目が変わったのだから、さぞかしいろんなことがあっただろうと思っているのかも。
「どうも何も……私には仕事しかないから。ずっと仕事して、2年前に課長になった」
「うん……そうか」
面白みの欠片もない私らしい返事に呆れたかな。
だけど本当のことだから仕方がない。
「……光は?」
「俺は……」
口ごもる光の目の前で、わざと光の嫌いなタバコに火をつけた。
ゆっくり煙を吐き出すと、光は少しだけ悲しそうな顔をしていた。
瑞希は俺のせいで変わっちゃったんだな、とか思ってたりして。
「ああ……うん」
門倉から聞いたって、一体何をどこまで?
光に変なことを吹き込んではいないか心配で、妙な汗が背中を伝った。
「すごいな、瑞希は」
「……私には仕事しかないから」
ちょっとイヤな言い方だったかな。
私は光みたいに、他の人に心の拠り所を求めることは出来なかった。
光にはきっと、つらい時に支えてくれる優しい誰かがそばにいるんだろう。
離婚してからの5年間、誰とも付き合わず恋愛もしていないと言ったら、光は驚くだろうか。
このまま当たり障りのない会話をしていても埒が明かない。
直接会ってまで話したかったことはなんなのか、思いきって聞いてみよう。
「あの……」
「瑞希、あの時はごめん。本当に悪かった」
光は私の言葉を遮ってそう言うと、深々と頭を下げた。
予想外の展開に驚き、言葉が出てこない。
私は呆然と光のつむじを眺めている。
「うまくいかないことを、全部瑞希のせいにしてた。何も話さなかったくせに、なんで瑞希は俺の気持ちに気付いてくれないんだろうって。情けないけど、瑞希は俺のことより仕事が大事なんだって、子供みたいに拗ねてた。本当にごめん」
……なんで今頃になってこんなこと言うかな。
あの時ちゃんと本音をぶつけてくれていたら、もっと違う形におさまっていたかも知れないのに。
「あの……頭上げてくれる?」
そんなに派手に頭を下げられたら、周りの客にジロジロ見られている気がして居心地が悪い。
光は頭を上げてまっすぐに私の顔を見た。
「離婚してからしばらくして、やっと冷静に物事を考えられる状態になって……全面的に俺が悪かったって気付いたんだ。ずっと謝りたいと思ってたけど、瑞希の連絡先も住所も変わった後だったから、どうしようもなくて……」
「……うん」
離婚届を出してから2週間後に、二人で暮らしたマンションを引き払った。
それと同時に、私は携帯電話の番号を変えた。
離婚についての話は済んでいたし、もう光と会うことはないだろうと思ったから。
それ以外にも私の居所や連絡先を知る手立てはあっただろうに、そこまでは考えなかったのかな。
「もう会うつもりはなかったからね……。こうして光が目の前にいるのが、今もまだ不思議」
「瑞希の会社で偶然会った時は人違いかと思ったよ。ずいぶん変わったから」
そうでしょうとも。
光の好みとは真逆の女になろうとしたんだから。
「5年近くも経てば変わって当然だと思うよ。私は変わったって言っても、見た目は髪形変えて少し老けたくらいで、中身はたいして変わってない」
「昔は腰ぐらいまで髪伸ばしてかわいかったけど……瑞希はショートも似合うんだな。大人っぽいし……綺麗になった」
これは罪悪感から出たお世辞かな?
今更別れた元妻を誉めても何も出ないのに。
「離婚してから……瑞希はどうしてた?」
光はためらいがちに尋ねた。
これだけ見た目が変わったのだから、さぞかしいろんなことがあっただろうと思っているのかも。
「どうも何も……私には仕事しかないから。ずっと仕事して、2年前に課長になった」
「うん……そうか」
面白みの欠片もない私らしい返事に呆れたかな。
だけど本当のことだから仕方がない。
「……光は?」
「俺は……」
口ごもる光の目の前で、わざと光の嫌いなタバコに火をつけた。
ゆっくり煙を吐き出すと、光は少しだけ悲しそうな顔をしていた。
瑞希は俺のせいで変わっちゃったんだな、とか思ってたりして。
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