傷痕~想い出に変わるまで~
追憶 2
私は光と別れてから誰とも付き合っていない。
思いきって新たな恋に踏み出してみる?
……と言ってもそんな相手はいないから、下手したら光が私の最初で最後の人になるのかも。
まだ32歳なのにそれではあまりにも寂しい気がする。
恋ってどうやってするんだっけ?
そんなことさえ忘れてしまった。
ビールを飲みながら、光との恋の始まりはどんな感じだったかなと考える。
……どんな?
一目見てビビッと来た!とか?
この人こそ運命の人だと思った!とか?
いや、そんなんじゃなかったな。
初めて会ったのは大学のサークルだったし、知り合ってすぐに付き合い出したわけでもない。
サークル仲間と一緒に過ごして行くなかでなんとなく気になり始めて、お互いを意識するようになった。
初めて二人だけで会ったのは知り合ってから2年近く経ってからだった。
サークル仲間と一緒に観たい映画があると話した後、帰り際に呼び止められて『今度の土曜日、二人で観に行かない?』と誘われた。
それからサークル以外のことで連絡を取り合うようになり、二人で出掛ける機会が増えて気が付けば隣にいたとか、そんな感じ。
好きだとか付き合おうとかハッキリした言葉もなく二人でいることが2か月ほど続くと、なんとなくモヤッとし始めた。
私と光は付き合ってると言ってもいいのかな、とか。
彼氏いるの?って誰かに聞かれた時はどう答えればいいのかな、とか。
その頃には私は光のことを好きになっていたから、光もそう思ってくれているのか、もしかしたらただの気の合う女友達くらいにしか思われてなかったりして……と不安だったけれど、ハッキリと聞く勇気がなかった。
そんなある日、サークルでOBの先輩を数人交えた飲み会が開かれた。
私の隣に座ったその先輩はお酒が入るとやけに馴れ馴れしく距離を詰めてきて、程よく酔いが回ると次第に口説き文句を連発し始めた。
だけど先輩だからあまり無下にはできないし、席を立つこともできず愛想笑いを浮かべて耐えていた。
『瑞希ちゃんかわいいね。マジで俺と付き合おうよ』
先輩がそう言って私の肩を強引に抱き寄せた時、突然光がすごい勢いで立ち上がり、先輩から私を奪うようにして抱き寄せた。
『触らないでください!!瑞希は俺の大事な彼女ですから!』
光はそう捨て台詞を残し、私の手を引いて店を飛び出した。
好きだとか付き合おうとかなんにも言わなかったくせに、勝手に彼女にされてることには驚いたけど、やっとハッキリ『彼女』だと言ってくれたことが嬉しかった。
その後、ちゃんと言ってくれたっけ。
『瑞希が好きなんだ。俺の彼女になって下さい』
あの時の少し緊張した真剣な光の顔を今でも覚えてる。
嬉しくて何も言えず黙ってうなずいた私を、光はおずおずとぎこちない手付きで抱きしめた。
照れくさくてくすぐったくて、でも温かくて嬉しくて、お互いが同じ気持ちだとわかっただけで舞い上がるような気持ちだった。
初々しかったな、二人とも。
帰り道で、ものすごくドキドキしながら手を繋いだ。
それから少しずつお互いを知って距離を縮めた。
何もかもが初めてで、ゆっくり時間をかけて触れ合うことを覚えて、目の前のハードルをひとつずつ二人で乗り越えて行くような、そんな感じだった。
ずっと手を繋いで二人で歩いて行けると信じていたのに、気付かないうちに別々の道を歩いていて、振り返った時にはもうお互いの姿は見えなくなっていた。
あんなに愛し合っていたはずなのに、ずっと一緒にいようと何度も約束したはずなのに、いつの間に私たちは手を離してしまったんだろう?
思いきって新たな恋に踏み出してみる?
……と言ってもそんな相手はいないから、下手したら光が私の最初で最後の人になるのかも。
まだ32歳なのにそれではあまりにも寂しい気がする。
恋ってどうやってするんだっけ?
そんなことさえ忘れてしまった。
ビールを飲みながら、光との恋の始まりはどんな感じだったかなと考える。
……どんな?
一目見てビビッと来た!とか?
この人こそ運命の人だと思った!とか?
いや、そんなんじゃなかったな。
初めて会ったのは大学のサークルだったし、知り合ってすぐに付き合い出したわけでもない。
サークル仲間と一緒に過ごして行くなかでなんとなく気になり始めて、お互いを意識するようになった。
初めて二人だけで会ったのは知り合ってから2年近く経ってからだった。
サークル仲間と一緒に観たい映画があると話した後、帰り際に呼び止められて『今度の土曜日、二人で観に行かない?』と誘われた。
それからサークル以外のことで連絡を取り合うようになり、二人で出掛ける機会が増えて気が付けば隣にいたとか、そんな感じ。
好きだとか付き合おうとかハッキリした言葉もなく二人でいることが2か月ほど続くと、なんとなくモヤッとし始めた。
私と光は付き合ってると言ってもいいのかな、とか。
彼氏いるの?って誰かに聞かれた時はどう答えればいいのかな、とか。
その頃には私は光のことを好きになっていたから、光もそう思ってくれているのか、もしかしたらただの気の合う女友達くらいにしか思われてなかったりして……と不安だったけれど、ハッキリと聞く勇気がなかった。
そんなある日、サークルでOBの先輩を数人交えた飲み会が開かれた。
私の隣に座ったその先輩はお酒が入るとやけに馴れ馴れしく距離を詰めてきて、程よく酔いが回ると次第に口説き文句を連発し始めた。
だけど先輩だからあまり無下にはできないし、席を立つこともできず愛想笑いを浮かべて耐えていた。
『瑞希ちゃんかわいいね。マジで俺と付き合おうよ』
先輩がそう言って私の肩を強引に抱き寄せた時、突然光がすごい勢いで立ち上がり、先輩から私を奪うようにして抱き寄せた。
『触らないでください!!瑞希は俺の大事な彼女ですから!』
光はそう捨て台詞を残し、私の手を引いて店を飛び出した。
好きだとか付き合おうとかなんにも言わなかったくせに、勝手に彼女にされてることには驚いたけど、やっとハッキリ『彼女』だと言ってくれたことが嬉しかった。
その後、ちゃんと言ってくれたっけ。
『瑞希が好きなんだ。俺の彼女になって下さい』
あの時の少し緊張した真剣な光の顔を今でも覚えてる。
嬉しくて何も言えず黙ってうなずいた私を、光はおずおずとぎこちない手付きで抱きしめた。
照れくさくてくすぐったくて、でも温かくて嬉しくて、お互いが同じ気持ちだとわかっただけで舞い上がるような気持ちだった。
初々しかったな、二人とも。
帰り道で、ものすごくドキドキしながら手を繋いだ。
それから少しずつお互いを知って距離を縮めた。
何もかもが初めてで、ゆっくり時間をかけて触れ合うことを覚えて、目の前のハードルをひとつずつ二人で乗り越えて行くような、そんな感じだった。
ずっと手を繋いで二人で歩いて行けると信じていたのに、気付かないうちに別々の道を歩いていて、振り返った時にはもうお互いの姿は見えなくなっていた。
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