傷痕~想い出に変わるまで~
葛藤 2
「篠宮課長……結婚って甘くないですね。私は結婚に対する考えが甘かったみたいです」
「そんなもんでしょ。初めての経験なんだから、始まってみないとわからないことはいっぱいあるよ。私たちはもっと甘かったからね」
光と肩を寄せ合って結婚情報紙をめくりながら式場を選んだことや、結婚式前の衣装合わせでウェディングドレスを初めて着た時に二人とも感極まって泣きそうになったことを思い出した。
その先には二人で歩く明るい道が続いていると信じてやまなかった。
若かったな、二人とも。
一緒にいられたらそれだけで幸せだったんだ。
それ以上の幸せなんてないって思ってたはずなのにな。
「離婚した私の意見なんて参考にはならないかも知れないけどね。二人が同じ方向を見てるうちは、いろいろわからないなりに頑張ってうまくやってたと思う」
「うまくいかなくなった理由って……」
「私は仕事に没頭し過ぎて相手が弱ってることに気付けなかったから見切りつけられたけど……早川さんならうまく両立できるかも知れないし、もう一度よく考えてみたら?」
食事を終えて店を出る前に、彼ともう一度話し合ってみますと早川さんは言った。
二人がどんな答を出すのかはわからないけれど、二人にとって少しでも良い方向に向かえばいいなと思う。
3時を過ぎた頃。
少し手が空いたのでひと休みしようと、小銭入れとタバコを持って自販機コーナーへ足を運んだ。
自販機の前では飲料メーカーの若い男性が自販機の扉を開けて中を覗き込んでいる。
故障かな?
別の自販機まで買いに行こうか。
だけど熱いコーヒーの入ったカップを持って喫煙室まで歩くのは面倒だ。
すぐに使えるようになるなら少しくらいは待ってるんだけど。
「すみません、もう終わりますんで少しお待ちください」
背後で立ち尽くして自販機の方を見ている私の存在に気付いたのか、その男性は背を向けたままで私に声を掛けた。
「はーい……」
どことなく聞き覚えのある声だ。
若い男性の声なんて似たようなもんか?
「どうぞ。お待たせしてすみませんでした」
その人がにこやかな笑顔でクルリと振り返った。
「ありがと……う……」
その人の顔を見た途端頭が真っ白になり、手に持っていた小銭入れとタバコケースを床に落としてしまった。
ファスナーが開いていた小銭入れからバラバラと小銭が飛び散った。
「大丈夫ですか?」
声を掛けられ我に返った私は、それを拾うふりをしてしゃがんでうつむき、咄嗟に顔を隠した。
「大丈夫です……」
どうしてここに光がいるんだろう?
私に気付いていないってことは他人の空似?
とにかく早くこの場を立ち去りたい。
っていうか、むしろ立ち去って欲しい。
拾い集めた小銭をうつむいたまま小銭入れにしまっていると、手のひらに乗せて小銭を差し出された。
「はい、向こうの方にも転がってましたよ」
「あ……ありがとう……」
しゃがんでうつむいたまま小銭を受け取る。
髪を短くしてあの頃と見た目が多少変わったとは言え、こんな近くにいて会話をしていても気付かないんだな。
このまま私に気付かず立ち去ってくれたらいいのに。
「あと、これも」
「……これ?」
他に何を落としただろうと思わず顔を上げると、タバコケースを差し出した光が私の顔をじっと見た。
「……瑞希?」
気付かれてしまった……。
どうしよう、気まずい。
あんな形で離婚した相手なんて、光だって本当は顔も見たくないはずだ。
その証拠に離婚して諸々のことが片付いた後は一度も連絡を取っていない。
お互い話すことなんてないだろうから、他人のふりをしよう。
「そんなもんでしょ。初めての経験なんだから、始まってみないとわからないことはいっぱいあるよ。私たちはもっと甘かったからね」
光と肩を寄せ合って結婚情報紙をめくりながら式場を選んだことや、結婚式前の衣装合わせでウェディングドレスを初めて着た時に二人とも感極まって泣きそうになったことを思い出した。
その先には二人で歩く明るい道が続いていると信じてやまなかった。
若かったな、二人とも。
一緒にいられたらそれだけで幸せだったんだ。
それ以上の幸せなんてないって思ってたはずなのにな。
「離婚した私の意見なんて参考にはならないかも知れないけどね。二人が同じ方向を見てるうちは、いろいろわからないなりに頑張ってうまくやってたと思う」
「うまくいかなくなった理由って……」
「私は仕事に没頭し過ぎて相手が弱ってることに気付けなかったから見切りつけられたけど……早川さんならうまく両立できるかも知れないし、もう一度よく考えてみたら?」
食事を終えて店を出る前に、彼ともう一度話し合ってみますと早川さんは言った。
二人がどんな答を出すのかはわからないけれど、二人にとって少しでも良い方向に向かえばいいなと思う。
3時を過ぎた頃。
少し手が空いたのでひと休みしようと、小銭入れとタバコを持って自販機コーナーへ足を運んだ。
自販機の前では飲料メーカーの若い男性が自販機の扉を開けて中を覗き込んでいる。
故障かな?
別の自販機まで買いに行こうか。
だけど熱いコーヒーの入ったカップを持って喫煙室まで歩くのは面倒だ。
すぐに使えるようになるなら少しくらいは待ってるんだけど。
「すみません、もう終わりますんで少しお待ちください」
背後で立ち尽くして自販機の方を見ている私の存在に気付いたのか、その男性は背を向けたままで私に声を掛けた。
「はーい……」
どことなく聞き覚えのある声だ。
若い男性の声なんて似たようなもんか?
「どうぞ。お待たせしてすみませんでした」
その人がにこやかな笑顔でクルリと振り返った。
「ありがと……う……」
その人の顔を見た途端頭が真っ白になり、手に持っていた小銭入れとタバコケースを床に落としてしまった。
ファスナーが開いていた小銭入れからバラバラと小銭が飛び散った。
「大丈夫ですか?」
声を掛けられ我に返った私は、それを拾うふりをしてしゃがんでうつむき、咄嗟に顔を隠した。
「大丈夫です……」
どうしてここに光がいるんだろう?
私に気付いていないってことは他人の空似?
とにかく早くこの場を立ち去りたい。
っていうか、むしろ立ち去って欲しい。
拾い集めた小銭をうつむいたまま小銭入れにしまっていると、手のひらに乗せて小銭を差し出された。
「はい、向こうの方にも転がってましたよ」
「あ……ありがとう……」
しゃがんでうつむいたまま小銭を受け取る。
髪を短くしてあの頃と見た目が多少変わったとは言え、こんな近くにいて会話をしていても気付かないんだな。
このまま私に気付かず立ち去ってくれたらいいのに。
「あと、これも」
「……これ?」
他に何を落としただろうと思わず顔を上げると、タバコケースを差し出した光が私の顔をじっと見た。
「……瑞希?」
気付かれてしまった……。
どうしよう、気まずい。
あんな形で離婚した相手なんて、光だって本当は顔も見たくないはずだ。
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