王が住む教室
仲良くしてやってくれ
「学校にスマートフォンを持ってきていいはずないよな?」
ニョロが眉間にしわを寄せて詰め寄ってくる。本人は溢れんばかりの威圧感を出しているつもりなのだろうが,漂っているのはあほのオーラそのもので変顔をしているようにしか映らなかった。
「今さらルールを主張しようってのか? 人間としてのルールを守れよ。その変な顔も鏡でチェックをしとけ。脅すときの表情とは程遠いぞ」
「黙れ,さっさとそいつをよこせ」
「よこしてどうするんだ?」
「壊す。もみあいになって壊れたとでも言い訳は何とでもなる」
「そうよ。こっちに証人は三人。犯罪者扱いされている人の言うことを誰が聞くのかしらね」
常友が加勢をする。こいつらほんとに馬鹿だ。今どきデータの修復なんていくらでもできる。修復された録音データを聞いたら大人たちがどんな反応を示すか,携帯を壊した動機まで裏付けられ失態を重ねるだけだという想像力すらも働かないらしい。進学校に進むといっても脳みその作りはたかが知れているな。
相良の方をちらりと見ると,こいつだけはやはり違った。どうすればよいのか,事態を冷静に分析している。才色兼備といっても,さすがに分の悪さを感じているようだ。
「いったい何を望んでいるんだ? この前も言ったが,おれはお前が種掛大介とは思えない。お前こそ,目的は何なんだ」
「龍樹,まだそんなこと言ってるの? 確かにこいつの豹変ぶりはおかしいけど,さすがにドラマの見過ぎだよ」
相良はじっとおれの目を見つめている。まるでその中に答えが隠されているはずだと信じているみたいに。
「おれはおれだ。狙いも何も,学校で偉そうにしているやつらに腹が立っただけだよ。別に主張したいことが明確にあったわけではない。ただ・・・・・・」
相良が眉間にしわを寄せた。
「ただ,なんだ? それこそがお前の望みなんじゃないか?」
真剣な表情で相良が近づいてきた。そこに高圧的な態度はなく,今から話される内容を一言も聞き逃すまいという真摯さが感じられた。
「別に大したことじゃねえよ。ただ,お前らの言うように最近調子がおかしいんだ。自分が自分じゃない見たいって言うか,分かるか? そこのあほそうな顔をしているやつには分からないだろうな。いや,別に分かんなくていいんだ。また近々,おれがおれじゃなくなる時が来るかもしれない。なんかおかしいなって気づくと思う。その時,その,なんだ・・・・・・」
「急になんだ。歯切れが悪い奴だな。はっきり言えよ」
部屋にいる全員を見渡した。相良も,常友も,あのニョロまでもが真剣に話を聞いていた。相手の話を心から受け入れようというその空間は,一方的に叱られ諭される生徒指導室という空間にはあまりにも不釣り合いだった。
「またさ,特別親密にってわけじゃなくても,仲良くしてやってくれ」
不思議なことを言うやつだな,と相良が口にし,全員で笑いあった。
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