王が住む教室

文戸玲

秘められた目的


 体育館がお祭り騒ぎになったのを鎮めるために教員は苦慮していた。数学の教員に「とりあえず全員生徒指導室に来なさい」と言って四人とも一つの部屋に詰め込まれた。

「本当は一人ずつ個別で話を聞きたいところなんだが,分かるよね? すぐに戻ってくるから静かに待っていなさい。分かっているね? 種掛くん」

 めんどくさいことをしやがって,とでも言いたそうに明らかに見下した目で言い放った。「なんでおれだけなんだよ」と口答えしたときにはもう背中を向けており,そのまま部屋を出て行った。
 そして今,一つの部屋に舞台に立っていた四人が適当に座っている。

「どういうつもりだ? 説明できるんだろうな?」

 目の前の机を蹴り飛ばして凄んだ。言われた本人はぴくりとも動かない。

「おいおい,そういうのは静かに待っているとは言わないんじゃないのかい?」
「怖い顔しちゃって~。さっき先生に名指しされたんだからいい子にしてないと。反省してるところを見せなきゃ。そうだよな,常友」

 くねくねしながらニョロは常友に話しかけた。常友は椅子をくるりと回転させてこっちを見た。常友は職員室に置いてあるような仕事の用の椅子に腰を掛けていた。

「種掛くん,私にキスしようとしたよね。まじできもかった」
「おいおい,あれは・・・・・・」

 常友の家での出来事を思い出した。確かに発情しなかったと言えばうそになる。だが,先に覆いかぶさってきたのは常友の方だった。覆いかぶさったまま動かず,胸をあててくるような仕草まで見せたじゃないか。
 そこまで考えると,背筋に冷たいものが通った。鳥肌が立つのが分かる。

「もしかしてお前,はめたのか?」

 つばを飲み込んだ。ニョロがかみ殺すような笑い声を立てているが聞こえる。

「何が目的だ」
「ちょっと何を言っているのかよく分からないんだけど,でも勘違いをされる間に行っておくわ」

 常友は相良の方を見た。優しくて,甘えるような目だ。

「私,龍樹と付き合っているの」

 散らばっていたピースがあるべき場所にはめられていくような錯覚に陥った。きっと完成したパズルは,奥行きが分からないほど重たくて深いものに違いなかった。


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