王が住む教室
パニック
「黙れ! 後ろを向いているやつはすぐに姿勢を整えろ!」
体育館に怒声が響いた。大栗の声だ。パニックになるほどの騒ぎになりかけた生徒たちは一瞬で静かになる。したり顔の大栗はどこか嬉しそうだ。自分の力を見せつけたことへの優越感ではなく,演説の続きを聞きたくて仕方がないようにも見えた。きっと,このニョロの演説は原稿にあるものではないはずだ。もしそうならば,予行演習で通るはずがない。
生徒が静まり返ったのをわざとらしく確認して,くねくねした動作で咳払いをして続けた。
「驚くのは無理もありません。だってこれは犯罪なのですから。どういう心理状況で種掛くんが生徒会長に立候補しようとしたのかは分かりません。でも,種掛くんは本校の女子生徒を襲おうとしました。幸いなことに,その女子生徒は大事には至りませんでした。でも,その時の恐怖と言ったら夜も眠れなくなるほどだと言っています。訴えたくても仕返しが怖くてできないと。知っている人は何人かいるのではないでしょうか。最近の種掛くんは依然と違って荒々しいことを。ぼくは先日,廊下で二人の先生につかみかからんばかりの勢いでまくし立てているところを見ました」
大栗が満足そうにうなずいているのが見える。廊下で二人の大人と言い争った時のことを見ていたのか。
「被害者は話すのが怖い,と言っていましたが学校のために勇気を振り絞ることを決意してくれました。種掛くんに被害を・・・・・・」
目の前で適当なことを言っている男,満足げに肯定する大栗,興味深そうに聞く生徒たちすべてに腹が立った。怒りのあまりパイプ椅子から立ち上がった。
「適当なこと・・・・・・」
「いい加減なことを言うな!!」
おれの抗議の声と別の声が重なった。声は職員席の方からいた。椅子から立ち上がって肩で意思をしてる郷地先生が目に入った。
「適当なことを言うんじゃない。いったい君は何がしたいんだ!」
有無を言わさず叱りつけるような雰囲気で舞台に歩み寄ろうとする郷地先生を大栗が止めた。
「まあまあ,適当かどうかは続きを聞けばわかるんじゃないですか? 話に先がありそうでしたけど」
「こんなところで話をするものじゃないだろ!」
大きな声で訴える郷地先生を,大栗は小ばかにするように見た。
「あれ~,もしかして郷地先生,種掛くんのことを信用していないのですか? もし適当なことを言っているのだとしたら,むしろ続きを全校生徒に聞かせてやった方がいいと思うのですが。その方が種掛くんも変な噂が立たなくていいでしょ。郷地先生はそうではないとでも?」
郷地先生は何か言いたそうにしていたが,ちらりとこっちを見た。
「おれは先が聞きたい。おれは後ろめたいことをしていないと胸を張って言える。だから大丈夫だ」
体育館から拍手が起きた。「決まったね~」とはやし立てる生徒と「どっちが本当のことを言っているんだ?」と興奮している生徒で体育館はまたざわつき始めた。
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