王が住む教室

文戸玲

高校デビュー


 そこそこ大きな学校なので,校舎は二つに分かれていて,さらにプレハブまで増設されている。特別棟と呼ばれる本校舎とは別の建物の二階に,「生徒会室」と仰々しく木の板に文字が刻まれた部屋がある。

「本当に立候補するのか? まあ,立候補するのは自由だ。せいぜい頑張れよ」

 扉を開けると,パイプ椅子にふんぞり返って威圧するように待ち構えている教員が一人。窓際に立って外を眺めているくまのような体格の教員が一人いた。偉そうにしている方は大栗で,横柄な態度とともに紙を一枚音を立てるようにして差し出してきた。

「ずいぶんと積極的になったな。高校デビューとかの方が違和感がなくていいんじゃないか? まあ,やるだけやってみろ。同じことを言うようだが,結果は気にするなよ」

 情けない奴だ。生徒にこんなことを言うかよ。腹が立つというより,あきれるような気持ちで目の前の大人を見た。
 奪い取るようにして差し出されたプリントを手にした。窓際から,低く太い声がした。

「人は変われる。いい瞬間に立ち会えそうだ。必ず味方はいるから」

 頑張りなさい,と顔をしわくちゃにして微笑んだ。ずんぐりとした身体のせいか,少し小さく見える顔はやはりくまみたいだった。童謡で聞いた森のくまさんを思い起こさせる。
 ありがとうございます,と軽く頭を下げたときには,にらみつけるようにして大栗の背中に視線を向けていた。大栗はふてくされたような顔をしている。この二人はどちらも生徒会の担当なのだろうが,全く馬が合わないのだろうなと感じさせる雰囲気があふれ出ていた。

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