王が住む教室

文戸玲

あの日の話


 地方のニュースで速報で流れるほどの事件だったらしい。目撃者の証言によると,公園で騒がしくしているから注意をしようと近寄ると,大きいな木の棒を持っている少年が見えたから大声をあげたこと,少年たちが走り去った後には二人の子どもが血を流して倒れていたことが取り上げられたらしい。
 このニュースが流れた時点では二人の子どもの身元ははっきりと分かっていて,すでにおばさんに連絡が入った後だったということだ。

「お母さん,ひっくり返りそうになっちゃったわよ。喧嘩とは無縁で,人を殴ったこともない大介が血だらけで倒れているところを見つけられて搬送されたっていうんだから」

 わざとらしく肩を寄せて身震いをして,「でも無事でよかった」と言ってグラスに手を伸ばした。

「子どもたちって,他に誰かいたのか?」

 おばさんは伸ばした手をそのままにしてじっとこちらを見た。そして,音のないため息をついて「やっぱり黙っているのはおかしいわよね。でも,変なことを言って気にさせてもあれだし,向こうもそれを望んでいて・・・・・・」とおれの足元を見ながら言った。自分でも気づかないうちに,激しく貧乏ゆすりをしていた。

「黙っているのはおかしいわよね,じゃねえよ。当事者なんだから全部知る権利はあるだろ。言ってないこと,全部話してくれ」

 グラスの底を音を立てるようにしてテーブルにたたきつけた。ついきつい口調になってしまった。でも,言ってもらわないといけない。あの日,何があったのか。おれと大介はあの時・・・・・・。

 温厚なはずの息子の乱暴な振る舞いに,おばさんは一瞬身体をびくつかせた。ごめん,と心の中で謝る。でも,知りたいんだ。
 真剣な思いが伝わったのか,おばさんはもう一度グラスに手を伸ばし,一口お茶を口に含んだ。そして,あの日の話を始めた。


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