王が住む教室

文戸玲

酸っぱいジュース


「ねえ,うちの女子どう? 気になる子とかいるんじゃないの? 結構かわいい子もいるし」
「は? 何言ってんだ急に。だいたい,おれはまだこの学校に来てそう長くないんだ。女の顔なんていちいち見ていねえよ」
「えー,でも女の子好きそうなのに」
「それなら大介に伝えとく。なんてったってこれはあいつの身体なんだからな」
「いやいや,種掛くんはそんなことなかったよ。きっと,内側から溢れ出るオーラがそう感じさせるんだろうね」

 常友は心底楽しそうに笑った。悪い気はしない。むしろ,この時間がいつまでも続けばいいのにと思う。

「それでさ,誰が気になるの? 同じクラスで言ったら,佐藤さんとか?」
「誰だよ,そいつ。顔も知らねえよ」

 事実だった。どこに座っているのか,どんな顔だちをしているのか,基本的な情報が全く思い浮かばない。
 これ以上突っ込まれるのもめんどくさくなって,窓の外を見ながら言い放った。

「別にいねえよ。気になるやつもかわいいと思うやつも」

 これは半分は事実だ。「お前の他にはな」というキザったらしい言葉を胸の奥にしまい,オレンジジュースに手を伸ばした。その時に飲んだジュースは,今までで一番甘酸っぱかった。


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