王が住む教室
変な事
「おいおい,あの女とはいったいどういう関係なんだよ」
最近,夢の中でこいつに会うのを楽しみしている自分がいる。大介は不敵な笑みを浮かべてこっちを見ている。
「なんとか言えよ。まさかお前に話しかけてくる女がいるとはな。おれが話しかけられているとは思わなかったぞ」
「それで帰ってからも何も手が付かずにぼーっとしていたんだ。あれ,もしかして恋しちゃってる?」
全身がかーっと熱くなった。
「何言ってやがる! おれがあのイモ臭い女に恋なんかするか!」
「そう。それならよかった。恋にうつつを抜かしているとこれからに影響したらいけないからね」
笑いをこらえながら言う大介にムッとしたが,これ以上ムキになると相手の思うつぼだと思うと,問い詰める気にはならなかった。
「気になるんだね。ぼくと常友さんの関係が」
なんだよ,話すのか,と拍子抜けしていると,大介は間の抜けたことを言いだした。
「でもね,ぼくにも分からないんだ。常友さんが何を考えているのか。ぼくと深い関係があるわけではないよ。もちろん,付き合っているなんてことはありえない」
「なんだそりゃ。ずいぶん親しそうだったぞ」
「それは仁の醸し出す雰囲気は大きかっただろうね。身体はぼくのものでも,立ち振る舞いは仁そのものなんだから。常友さんは仁に惚れていると言っても過言ではないかもね」
「それはあるな」
冗談めかして返したつもりだったが,心の底から浮足立っているのが分かる。表に出ていなければいいのだが。
ただ,と大介は続けた。
「常友さんは入学したころから優しかった。本当にいい人だよ。警戒する必要はないと思う。いじめられていたぼくにそっと声を掛けてくれたり,先生に相談したりすることを進めてもくれた。結局何もうまくいかなかったけどね」
そうなのか,とつぶやいた。悪い奴じゃなさそうなことは何となく分かっていたけど,正義感が相当強いらしい。おれみたいな不真面目でろくでもないやつの正体を知ったら蛆虫でも見るような目で見られるのだろうな,と思うと少し寂しかった。せめて,大介が常友と・・・・・・,となぜか余計な考えが頭によぎった。その考えを打ち消すように,慌てて首を左右に振った。
「なんか変なことを考えてない?」
「なんだよ,変なことって」
「まあ,別にいいんだけどさ。明日もよろしくね」
「おい,勝手に話を終わらせるな」と言いかけたが,視界がぼやけてくる。くそ。言いたいことばっかり言いやがって。
どんな時でも,自分の思い通りにならないと気が済まなかった。腹の立つことがあれば激しく自己主張をしてきたし,言うことを聞かないやつには力でねじ伏せてきた。この世界ではちっともおれの思い通りにはならない。でも,悪い気はしないな。そんなことを思いながら意識を失った。
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