王が住む教室
作戦会議はまた後で
「お前がおれの原稿を作ってくれるっていうことで良いんだな? 二言はないぞ」
「常友! もう,やめたっていいんだからね」
「悪い悪い。常友ね。まあ,よろしく頼むよ。その,ブラックライター的なやつ」
「もしかしてゴーストライターのことを言ってるの? 本当に言葉を知らないんだね。お先真っ暗って感じ」
言葉とは裏腹に,常友は倒しそうに笑った。
色白の肌をした身体のラインは細いが,スポーツをしている人間の筋肉質な体つきをしている。眼鏡の奥の瞼は綺麗な二重でぱっちりとしてるし,何かつけていてもおかしくないほどにまつげが長く伸びている。こいつは,いい女だ。
「ちょっと,変な目で見ないでくれる? あなた本当に種掛くんなの? 戻ってきてからずっと思っていたんだけど,本当に別人みたいね」
「ちげえよ。こんな貧相な体は俺だってうんざりだっての」
しまった。つい口を滑らせてしまった。さっき初めて認識して話をしたばかりだというのに,協力者ということで完全に気持ちが緩んでいた。
常友は口をあんぐり開けて不思議そうにこっちを見ている。変奴だと気味悪がっているに違いない。協力を拒まれたら,どう説得しようか。
そんな心配とは裏腹に,常友はふふっと笑った。
「大介くん,冗談まで言うようになったんだね。病院でそんなリハビリでもあったの?」
常友の笑顔に思わず引き込まりそうになる。返す言葉が思い浮かばない。もしかして,おれはこいつにドキドキしているのか。いや,そんなことはありえない。
授業を知らせる予鈴が鳴った。
「じゃ,作戦会議はまた後で。大介も考えといてよね」
くるりと振り返って,弾むように去っていった。
途中から,常友は名字ではなく名前を呼ぶようになった。そのことに気付いたとき,なぜか少し誇らしい気持ちにもなり,大介を妬ましくも思った。
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