王が住む教室

文戸玲

仲間


 久しぶりに気持ちのいい時間を過ごしたと思ったものの,頭を悩ませる問題が変わらずあり続けていた。演説の原稿をどうしようか,実際の選挙はどうしているのかと思考をめぐらすものの,たいして中身のない話を交差点でスピーカーを使って騒音を発している姿しか思い浮かばなかった。
 半ば投げやりになったところへ,思いがけない話が転がり込んできた。

「種掛くん,すっごくかっこよかった。ちょっと言葉は怖かったけど,私,すっきりしちゃった」

 ショートカットの髪の毛を揺らしながら話しかけてきた女の胸元には,常友と印刷されていた。こいつにも話しかけてくる人間がいるんだな,と思うと少しだけ嬉しくなった。自分の身体でもないのに,大介のことを思って喜ぶなんて,俺も変わったな。
 そんな思いとは裏腹に,ついきつい言葉を口にしてしまった。

「は? 誰だよお前」

 常友は一瞬おびえたような表情を見せたが,すぐに表情を柔らかくした。

「何よ。せっかく頼りになる助っ人に名乗り出ようとしたのに」
「助っ人?」
「そう,助っ人。種掛くん,作文得意だったっけ? 私はわりと得意。国語は5以外の通知表を取ったことないし。それに,サイト会長に立候補するのなら応援演説者もいるんじゃないの?」

 立て続けに質問を投げかけられ,整理が追い付かなかった。

「もしかして・・・・・・,お前,手伝ってくれるのか?」
「お前じゃなくて,常友ね。ちゃんと名前で呼んでください。協力を頼むならね」

 きっと,間抜けな面をしていたに違いない。思わぬ申し出に,しばらく開いた口がふさがらなかった。

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