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王が住む教室

文戸玲

あたりまえ


「黙って言うこと聞いてりゃ・・・・・・てめえぶっ殺してやる!」

 大介の胸ぐらを掴みに駆け出した。とっちめて,一発ぶんなぐってやる。自分の立場を利用して好き勝手言いやがって。どっちが上かを教えてやらないと今後さらに横暴なことをいいかねない。こんな関係はもう終わりだ。
 だが,思いとは裏腹に大介との距離は一向に縮まらない。しまいには大介が腹に手を当ててけらけらと笑い始めた。

「カエルが泳いでいるみたい。チンアナゴの方がうまく泳げそうだね」
「何を言いやがる!」

 必死で足をバタバタさせてはいるものの,どうもこの無重力空間には慣れない。平泳ぎのように空気をかき分け足を曲げ伸ばししても,一向に前に進まない。時には後ろに下がってしまう始末だ。

「スポーツ,苦手なんだね」
「何言ってやがる! スポーツテストはいつもトップだ。お前やチンアナゴみたいに,根性のない奴はクラゲよりも上手にプカプカ浮かべるかもしれねえけど,おれはそういうのは性に合わねえんだよ」
「じゃあ,現実世界ではチンアナゴに勝てるの?」

 もちろん大介は宮坂のことを言っている。おれとあいつのやりとりを知っているのだろう。

「見ていたんだろ? どうみてもおれの圧勝じゃねえか。サポーターがいたらリングにタオルを入れているだろうな。あの相良ってやつは宮坂を守るタイプじゃなさそうだけど」

 ふと,気になることが思い浮かんだ。

「どうして宮坂なんだ? どう考えても,あのクラスで,いや,あの学校で頭を張ってるの相良だろ?」

 すごいね,と大介はでこにしわを寄せて言った。本当に驚いているみたいだった。そして,背筋を伸ばして襟を整えた。。

「やっぱりわかるんだね,そんなに長い時間を過ごしたわけじゃないのに。仁の言う通り,みんな相良くんには逆らえない。同級生も,先輩も,先生でさえもね」

 そして,と大介は続けた。

「相良くんは,宮坂くんに生徒会長に立候補するように指示を出した。きみは彼に勝たないといけない。できるよね」

不安そうにも試すようにも見える表情で大介は言った。
 あたりまえだろ,なぜかおれはそう答えていた。大介のつかみどころのない表情が少しだけ引っかかった。


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