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王が住む教室

文戸玲

そこに浮かぶ少年



起きて。ねえ,起きて。

 はるか遠くの方で声がする。身体がふわふわする。まるで無重力。エレベータが目的地に到着する瞬間のような,ジェットコースターで急降下する刹那のような,臓器がふわっと浮かび上がるような感覚がしたかと思えば,身体がくるくると回転をして一方方向に流されているような心地もする。これは夢の中だ。無意識って気持ちいい。生き物は無意識を至福の時間としている。だから眠っているときは気持ち良いし,教師や親にその思考の時間から現実に無理やり引きも出されると爆発的な怒りが込み上げてくる。誰にもこの時間は邪魔されたくない。

起きてったら!

 わあ,と叫ぶ。「おれは心臓が悪いんだ! びっくりさせるな」快眠から起こされた腹いせも相まって大きな声を張り上げたつもりだったが,思ったほど声は響かない。ここはどこだ? 辺りは見渡せるのに真っ暗で,まるで宇宙空間みたいだ。宇宙? そう思った途端に息苦しくなった。宇宙には酸素がないらしい。宇宙と頭が認識してすぐに酸素がないという反応を身体が起こしたが,呼吸は普通にできる。単なる思い込みで酸欠で危うく死ぬところだった。
 辺りを見渡すと何もない。体がふわふわと浮いている。数日前には,身体が入れ替わっているんだから,もう何が起こってもそれを事実と受け入れるしかない。きっとおれは,いま宇宙にいる。なぜかは分からない。

やっと起きたんだね。

 後ろから声がしたので身体をそちらへ向ける。意外と身体は素直に言うことをきいた。

「誰だよお前。ここはどこだ」

 初対面の相手には出来るだけ偉そうに,声を張って,横柄な口を利く。舐められたら終わりだ。そうして腰の引けた相手に,自分の方が上だと直感的に分からせてやる。それがおれのやり方だったが,声が尻つぼみになってしまった。そこにいた少年は,病室で手渡しされた手鏡の中にいた少年と同じ顔だったからだ。

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