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葦と歯車~へんてこ少女たちの終末神話~

渡莉鴉

憂愁の花Ⅲ



コンクリートで出来た建物の内部はびっしりと植物で覆われていたが、全て同じ種類のものだった。そして違和感を覚えるほど太い蔦が一部蔓延っており、どこかへ続いているようだ。
「普通の生態系じゃこんなことには絶対ならない」
「生き物の強さと数は反比例してバランスを保っているはず…これは外来種なのかしら?」
しゃがみこんで植物を観察する。葉は紫蘇のように大きいがふっくらと分厚く、古い葉と新しい葉が重なってより足の踏み場のなさを印象付けていた。ところどころ小さなピンクや白の花が咲いている。
「古代の植物に似たようなものがあったわね」
「古代の…?」
「西暦2000年あたりにはまだ全く絶滅の兆候がなかった植物で…要するに以前の生態系に存在した植物ってこと」
ヒエダが空中にホログラムを出して何度か画面をスクロールすると、「サクラソウ」という植物の画像が表示された。春の始まりに咲く古典植物として紹介されている。
「耐寒に優れた花ではあるけど雑草ってレベルの繁殖力はないみたい」
「見た目そっくりだけど全然違う植物とか?」
「うん、それはあるかも。あるいは…」
ヒエダは何かを言いかけたが、少し考える様子を見せてから首を横に振る。
「いや…そうでないと願いたいわ…」
まとめた髪を結びなおした彼女の表情に幼さはなく、ウミは自分より年下の娘には到底思えなかった。
「ヒエダ、ウミ。こっちにも草続いてるよ」
ひとつ部屋を抜けるとそこもまた謎の植物が生い茂っていたが、壁にまで生えた部分が盛り上がり部屋の中を狭くしている。床は既にふかふかの絨毯と化していた。
「ここは連絡通路?みたいに部屋を繋げてるっぽいんだ。地図で見るとこの先が温室みたいで…」
「ぎぇっ」
草を踏み抜きバランスを崩したヒエダが転んだ。なぜか顔面から突っ伏して転んでいる。
「ひ、ヒエダちゃん大丈夫ですか!?」
「ヒエダは転び慣れてるから大丈夫だよ」
「な、なによ…人をドジっ子みたいにっ」
「僕が先に歩いて壁を広げるから。ふたりはゆっくりついてきて」
降り積もった雪の上を歩いているような感覚で、気を抜けばすぐに転んでしまいそうだった。器用に歩きながら草を薙ぎ払うシナダに、ウミがヒエダの手を引いて続く。昔絵本で読んだ子供たちの冒険とは、こんな感じなのだろうかとウミはぼんやり思った。
「…ふふっ」
「どうかした?」
「いえ、楽しいなって思って」
すると、奥の重そうな黒い扉の前に着いたところで、ウミの肩で静かにしていたイトが電子音で鳴いた。
「ウミ、待テ」
「イト?」
「ココ危ナイ」
イトのデータを確認すると、エネルギーを感知するメーターが振り切れてしまっていた。
「そういえばこの探知してるものは何?」
「これは、生命力の強さというか…生き物がたくさんいると反応するんです。だから、この先は…」
何かを堅く守るようにそびえ立つ扉を三人は見つめる。そして、そっと互いに顔を見合わせた。
「…行ってみる?」
「でも、ウミちゃんは…」
「いえ…気になるのは確かですし…」
ウミは悩んだ。生命力を探知するシステムは自分の身を守るために設計したものだ。わざわざ危険な場所に行くというのが間違っていることくらいはわかる。しかし、自分と歳の近い少女たちと探検をすることに密かにわくわくしていたのも事実だ。
「………行きましょう!」
なぜか、このふたりとは乗り越えられるような気がした。ずっとイトとふたりきりで生きてきた自分も、もっと世界のことを知りたい。
「大丈夫?」
「はい…!お二人となら、行ってみたいです!」
「あ、話まとまった?」
ふと見ると、先程から足を上げ下げしていたシナダがカンフーのように足を高く上げていた。
「…シナダちゃん?」
「あ、ちょっと…!」
「じゃー行くよー」
シナダの飛び蹴りが重そうな扉に炸裂すると、大きな音を立ててガラガラと崩れていった。風が勢いよく吹き抜けていき、思わず目を瞑る。
「う…うわあああ!」
「事前に言ってからにしなさいシナダ!」
しばらくして風が収まると、そこで生命力が強く反応を示していたことを思い出してサッと血の気が引く。ウミは恐る恐る目を開いた。

「…………………え?」

それは赤く白く、見たことのないほどの大輪の花だった。誰もが見惚れてしまうような美しい花弁は太陽の光でキラキラと輝き、花の中心からは酔いそうなほど強く芳香を放っていた。何より驚いたのは、その花は首が痛くなるほど見上げないと視認できないほどの大きさであり、茎にあたる部分は何重にも蔓が巻き付き柱のようになっていたことだ。ふっくらとした葉は何かの粘液にまみれ、てらてらとした触手のように変化した蔓はこちらを捕まえようとするようにゆらゆらと揺らめいていた。




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