話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

真昼の月

彩火透火

六ノ月 ひかり③

 七月一日。金曜日。雨。
 昼休み、藤は飯も食わずに学校を出て一人になれるところを探した。
 そして、昼休み中そこで座ってじっとしている。
 最近はずっとそうだ。毎日、同じ場所にいることはない。
 それなのにいつもスヴェルトはこちらの場所を見つけてきた。そして一メートルくらい離れた場所で独り言のように話していくのだ。

 今日もそうだった。学校を出て少し歩いたところにある灯台か展望台かよくわからない白い塔に登って、備え付けられていたベンチの隅っこに体育座りをして、海も見ずに膝に顔をうずめているとスヴェルトはやってきた。

「よう」

 手を上げて簡単な挨拶をしてくる。
 藤はじっとしていた。いつもはチラッとでも目を向けるが今日はそんな気にはならなかった。
 スヴェルトはかまわずに近づいてくるとベンチの藤とは反対の隅っこに腰をおろして海を眺めていた。

 波の音が聞こえてくる。この向こうは断崖になっていてとても降りられるような崖じゃない。はじめてその断崖を見た時、自殺するには恰好の場所だな、と思った。
 岩を叩く激しい音。リズムよく聞こえて、激しいのに、眠りを誘う。

「――」

 スヴェルトが何かを言っている。
 でも、聞こえない。
 波の音にかき消されてしまう。
 いつもの独り言だろうと思う。
 藤はじっとしている。
 暗闇が広がっていた。


 ■


 ●スヴェルト視点

 ――三十分が過ぎてもうそろそろ学校の方へ戻らないと次の授業に間に合わないだろうという時間になっていた。
 でも広沢は膝に顔をうずめたまま動かない。

 あまりにも動かないのでスヴェルトは少しおかしいと思った。いつものようにただ無視をしているのかと思ったがあまりにも動かなすぎた。
 気になったスヴェルトは慎重に藤に近づいた。

「……おい?」

 まず呼びかけてみる。
 広沢は動かない。
 寝ているのかと思った。

「……おい、広沢? ……寝てるのか?」

 さらに近づいてみる。逃げようとする気配はない。
 スヴェルトは揺さぶってみようと藤の肩に手を当てて――

「おい、ひろさ――」

 ずるっ――手が触れたとたん、藤の片足が滑ってベンチから落っこちた。
 スヴェルトは思わず動きも思考止めて見ひらいた目で藤を見下ろしていた。
 藤は動かない。
 片膝を抱えたまま動かなかった。


 ■■■
 六ノ月 ひかり④


 魔法使いにならないかい?
 そう言われたとき、僕は一も二もなく、なる、と決めていた。
 魔法使いはこの世界のエリートコースだったから。毎日疲れている母さんを少しでも助けてあげられると思ったから。

 その母さんは僕が魔法使いになることに反対してきた。
 一般的な魔法の使い道は闘いだ。当然危険な仕事も多い。いや、危険な仕事ばかりだろう。
 それでも僕はお母さんを助けたかった。

 一人でも大丈夫。
 一人でも大丈夫。
 一人でも大丈夫。
 一人でも……

 だいじょうぶじゃなかった。

 いたい。頭がいたい。心臓がいたい。
 助けて……
 誰か……
 助けて……

 僕は魔法使いになると決めた。
 でも……
 でも……
 でも……?

 ……光が、差し込んで、きた。


 ■■■

「真昼の月」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く