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異世界ものが書けなくて

真曽木トウル

(15)ギブミー軍資金!

   ◇ ◇ ◇




「まだ世界観に不慣れな感じはあるけど、うん、稲穂ちゃんらしさ、すごい出てる!」


 スマホで第3話までを読んで、こくこくと、真織はうなずいた。
(まだ公開していないので、文章を真織の携帯あてにメールで送りつけた)


 必死で書き上げたものを人が読んでくれて、反応してくれるのが書き手として僕は一番嬉しい。カップを握る手に力が入った。


「このユリウス王子のモデルが土方さん?」
「……いや、主人公―――レイナートの方」
「そうなの?」


 今日僕たちは、住んでいるマンションからすぐ近くの喫茶店に来ている。


 真織の親も僕の親も、娘が何か自分の知らない趣味に没頭していると非行を疑う系の人間なので、家では充分に小説の話ができないのだ。
 コーヒー代の出費はちょっと痛いけど。
 そうか、自分では思い切り土方理宇のつもりで主人公を描いたんだけど、人が読めば、全然違う印象になるものだな……。


「それで、文芸部1年生からもらったダメ出しなんだけど……」


「え!? ちょっと待って。
 私より先に1年生に見せたの!?」


 真織が目をむいた。
 しまった、先に話すべきだった。


「ごめんごめん!!
 改善点について、真織と話したかったんだ。
 彼らにはこの先のプロットも見せたから、ネタバレにならないとこだけ、読んでいい?」


「うん、まぁ、どうぞ?」


 あからさまに、不機嫌な顔を作る真織。
 まぁ、これはワザとつくってみせてるな、というのがすぐわかる。長いつきあいだから。
 美人だから、これもかわいい。真織かわいい。


「えーと、まず、主人公のキャラが弱いっていう意見が多かった」


「うーん……たしかに、一言で言いがたいキャラだよね。
 もっとクールで無慈悲な主人公になるかと、私も思ってたけど、でも私は好きだよ?」


「表現の問題もちょっとあるかなって。
 レイナートは、ベルセルカが距離詰めるのうまいから、そばに置いちゃってるんだけど、、、それを出す前にもっと、周囲に壁を作ってるような孤立した感じや、周囲にバカにされてるような陰キャらしさを出すべきだったかな」


「ん? 孤立系陰キャなの?」


「……うーん、そこが伝わってなかったかぁ。
 母親が奴隷出身、ということを忌まれて、王族のなかで扱いが最下層。それに、絶対的な力を持っているのに、中世的世界の人間らしくない考え方のせいで蔑まれ、距離をおかれて。ひとり領地を守ってる、孤独な陰キャ。
 ……と、彼をなぜか気に入っている、中世的生命観ど真ん中、明るく楽しく惨殺する貴族令嬢ベルセルカ」


 真織が笑う。ベルセルカのことを気に入ってくれたようで良かった。


「レイナートって名前がイケメンっぽすぎて主人公らしくないのでは、という突っ込みもあった。
 それも確かに、とは思うけど、ベルセルカに何度も呼ばせてると、もう愛着がわいちゃって……」


「うんうん」


「まぁ、世界観もちょっと伝わりにくいって言われたなぁ。ほかの作品なら勇者扱いされるはずの転生者が忌まれ、殺されたり奴隷にされたりする世界観」


「稲穂ちゃんの作品らしくて好きだから、私はそこは変えてほしくない。むしろ、丁寧に見せてほしいな」


「ありがとう。
 とはいっても、作り込みが甘いなって思うところもあったから、全体的にもうちょっと詰めるよ。
 世界を丁寧に見せる、ねぇ。
 そういえば、細部の描写をもっとしっかり見せてって意見もあったなぁ」


「そうだねー。
 続きは図書館で話す?」


 僕はうなずきながら、スマホの画面を軽くいじった。


「……資料になる本があるのかなって調べてみたら、いま、ファンタジー創作用の本って、たくさんあるんだね。アマゾンとか見ると」


 僕は、画面をスクロールさせながら真織に見せた。
 衣装設定や、武器、創作のヒントになるエピソード集、果ては戦場における戦略など。
 ファンタジー小説や漫画のために、いまは、多岐にわたる資料本が出ているのだ。


 すばらしい。
 ぜひ、僕もその恩恵に預かりたい。
 だけど、ひとつ問題がある。
 資金だ。


「まず、カードがないからアマゾンは使えないし、使えても、本は高いし、、、
 切実に、軍資金がほしいね。。。」


 うめく僕に、真織が笑った。


「ねぇ、やっぱり、続きは図書館で話をしようよ!
 創作系の本はわからないけど、もとになった時代の資料はきっとあるよ!!」


 そうだね。
 僕はうなずき、コーヒーを飲み干して、立ち上がる。


 ――――お金をそれぞれ払って、炎天下の外に出た僕たちは、図書館行きのバスが出るバス停でふたり並んで待つことにした。
 のだけど。






 ……僕は真織の前に出る。
 地元はこういうことがあるから、油断できない。




「よぉ、久しぶり」




 先日、土方理宇にやられた同級生の男が、僕たちに向かって歩いてきていた。

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