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異世界ものが書けなくて

真曽木トウル

(11)あとから来た子に追い越され。

「こんにちは」
「珍しいですね、尾嶋さん?」
「どうぞ、ここ空けますね!」


 男子3人、女子が4人。
 先輩の僕に気を使ってか、微笑みながら場所をススッと空けるのに、ちょっと居心地の悪い思いをしながら、僕は作り笑いで椅子に座った。


 僕らの学年に比べ、妙にプロ志向が強い彼らは、夏休み中もこうして、プロットや小説を持ち寄って読みあい、感想を言い合っている。
 その上で、こんど部員の家のひとつに泊まり込み、勉強合宿もしようというのだ。


「……このまえ、5月の文化祭で部誌に載せた小説の読み合いと意見の出し合いをしたので、今回はそのブラッシュアップ版を持ってきてます」


「へぇ……」


「でも、みんなかなりみっちり加筆してきてますし、ネタ自体大きく変えた人もいるから、もうわりと新作を読んでる気分で面白いですよー。
 どうぞ、これを」


 僕に、紙の束を一式渡す部員。
 君のぶんがなくなるのでは、と思ったら、隣の子と半分こして見るということをしている。
 気を使われてるなぁと思いながら、僕は一番上の紙に目をとおした。




 ―――――何これ………




 一番上の小説は、純文学にあたるのだろう作品だった。
 現代日本の高校生が主人公。
 いじめ被害の後遺症で、時々教室という空間にいることが耐えられなくなり、なんども学校を抜け出してしまう。
 けれど、その先で、綺麗な石や、好きなかたちの建物など、ほかの誰も知らない宝物を見つけては大切にする。そんな日々を送っている――――と、そういう導入だった。


 同じような設定の小説はきっと、星の数ほどあるだろう。
 ただ、目を見張ったのはその文章だ。
 僕が到底使いこなせない語彙ごいを、多彩に駆使している。


 読み心地よい、どころではない。一文一文が、目にするだけで快楽であり、ごちそうのような美味しさなのだ。
 でも文章に凝りすぎて、ストーリーはどうだろう。そう思いながらも、なぜか僕は、2枚目以降読み進めることができなかった。


 そんな中、ひとりの男子が声を上げた。


「――――文章はめちゃめちゃきれいなんだけど、凝りすぎててストーリーが頭に入ってこないとこがちょっと私は気になった」


「えーそう? そうかなぁ…」


 指摘の声に不満げな声をあげた女子は、多分この小説の書き手なのだろう。


「緩急、が大事なんじゃないかなと思うんだ。
 私たちはみんな田中ちゃんの小説面白いってわかってるから、期待して読み進めるけどさ。
 でも、初めましての読者さんには、ひといきつける、力抜いたポイントがあった方が優しいと思う」


「私はこのままが好きだけど、でも、読み手に『さぁ読むぞ』って心構えを要求する小説ではあるねー。あとはどの層に読んでほしいかじゃないかなぁ」


「文は俺も好きだから、そんなに変えてほしくないな。
 ただ、欲を言えば、頭空っぽにして読んでも話の流れが掴めるような作りだと、なおいいかなー。何度も読み返したくなる小説って、どんなコンディションの自分でも受け入れてくれる感じがしない?
 ああそうだ、モノローグや台詞となるべきものが結構地の文に入ってる。これ、切り出して普通のモノローグや台詞にしていいんじゃないかな。主人公の目線が追いやすくなるよね」


「うーん。。。。そっかぁ」


「待って。この小説の味でもあるからそこは。
 切り出すところを作ってもいいけど、ぜんぶだと私は嫌だ」


 話を聞きながら僕は、目の前の、隙のない作品にも粗があったことに安心していた。
 同時に、恐かった。


 批評は、次々に進んでいく。
 純文学だけじゃなく、ライトな時代小説や、ジュブナイル小説、ミステリー、ハイファンタジーなど、さまざまなジャンルの作品たち。


 長編しか書けない僕と違い、どの作品も、短編で見事にオチをつけてまとめていた。
 結局何が言いたいの、という作品はひとつもなかった。
 悔しいけれど、面白い。


 なのに。


「漢字が多いのは雰囲気が出ていいけど、それだけで敬遠する読者がいると思うから、助詞副詞は全部ひらこうよ。あと『頷く』とかも」


「冒頭にここのシーン持ってこない? そんなにネタバレにはならないし、ぐっと心掴まれるよ」


「ボケはちゃんと突っ込みを入れないと、ボケだと気づかれずスルーされちゃわないかなぁ」


「主人公以外のキャラにそれぞれすごい思い入れを感じるんだけど、その結果、主人公が一番影が薄くなってる気がする」


 指摘は容赦なく入り続ける。
 僕、そんなこと気にしたことない、そういうポイントをズバズバ切る。


 僕は自分の小説にこんな批評を受けて、メンタルがもつだろうか?
 そもそも。僕の小説を俎上にあげたら、どれだけの指摘があるのだろうか?


 ――――いやいやおかしい。
 僕は、本来、真織のためだけに小説を書いていたはずだ!
 一般受けとか、書籍化とか、そんなのどうでもいい。


 ………いや、はたして、そうか?
 真織のためといいながら、単に僕は努力を怠っているだけじゃないのか?
 ここにいるみんなと同じくらいの努力を、真織を楽しませるためにしているだろうか? 


「尾嶋先輩は、今日は何か自作小説とか、お持ちじゃないですか?」


 無邪気に尋ねてくる後輩の言葉が恐ろしかった。
 カバンのなかのプロットノート、とても見せられない。何て言われるかわからない。


 苦笑いを浮かべながら、後輩たちが僕のずっと先をいっているという現実に、心臓が痛くなるばかりだった。


   ◇ ◇ ◇

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