スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。

真曽木トウル

第46話 初めて黒歴史を語る。









 ――――知られたくなかった黒歴史を、僕も語った。


 ずっと黙っておきたいものだと自分では思っていたのに、知らず知らず一人で抱え込むのが重荷になっていたのかもしれない。語りだすと、次々に言葉が出てきた。


 物心ついたときから、見た目が気持ち悪いと言われ始めた。
 小学校に入ったときにはもう、『神宮寺くんはキモいもの』扱いだった。
 高学年で背が伸び始めると、今までこちらをバカにしていた女の子たちに恐がられ始めた。
 中学生からは、『犯罪者予備軍』『将来こどもを刺しそう』『不細工』『視界に入れたくない』『絶対ペド』と言われてきた。
 などなど。


 段々聞いているうちに、橋元さんの顔が険しくなってきた。




「………その人たち、いったい何様なの?
 なんで人の見た目だけで、そんなこと言えるの?」


「ああ………やっぱりおかしかったんだ?」


「おかしいよ!
 どんな見た目の人だってそんなことを言われる筋合いは一切ないし、中身のことを決めつけられるなんておかしすぎる。見た目で人を排除していい正当な理由なんか、この世には一切存在しない」




 強く強く言い切った橋元さんが、
「あ、……神宮寺くんの顔はかっこいいと思うけど」と、忘れていたように補足して、僕は笑ってしまった。
 鈴鹿くんが加える。




「………話を聞く限り、10年以上にわたるいじめ、モラハラだったように聞こえるんだが」


「え、あ、うーん……?
 僕の見た目は実際キモかったんだと思うけど、それも若干あったのかもしれない」


「第三者がそうされていると思って想像してみろ。
 いじめ以外の結論が出ないと思うぞ」




 普段の、目の前の人間にあわせて好感度高く振る舞う橋元さんなら、先に『神宮寺くんはそんなことないけど』とか、一度僕へのフォローを入れただろう。それも忘れて怒ってくれた橋元さんが、嬉しかった。
 寄り添わないけど自分なりに沈着冷静に真摯に考えて答えを出してくれる鈴鹿くんが、嬉しかった。




「――――鈴鹿くんは、なんで大学入り直したの?」




 橋元さんがふと、小首をかしげて尋ねてくる。
 僕はその理由を知っているので、大丈夫?と思って鈴鹿くんと目をあわせたのだけど、鈴鹿くんは口を開いた。




「ストーカーです」


「……そっか。
 大変だったね。鈴鹿くんもいつも……」




 橋元さんは口をつぐむ。
 かつて、女の子同士のトラブルが続いて鈴鹿くんが道場を出禁になってしまったという、その過去のことを思い出しているのかもしれない。


 鈴鹿くんも、ある意味自分の容姿の被害者だ。
 いや、違う。
 うまれもった顔が、容姿が、悪いんじゃない。
 容姿で人を判断し差別すること、その差別によって人そのものを踏みにじる、容姿差別ルッキズムが悪いんだ。




「橋元さん、今後だけど……」


「……まぁ、鈴鹿くんを避けてた理由はなくなったね。でも、6歳上なんですね、ってみんなに距離をおかれるのもつらいから。サークルには……」


「僕は距離をおかないよ」


「…………いま、そう思ってくれてるだけでありがたいよ?」




 時間がたてばわからない。
 暗にそう言ってる。
 僕は、首を横に振った。




「年齢で人を排除するのも、おかしいと思う。
 鈴鹿くんは2歳上で受け入れられてて、男と女で差があるのもなんか嫌だし、いや、年齢の区別自体は必要な場面もあると思うけど、何て言うか、その……」




 言いながら、僕は自分のことばに無理があることにも気づいていた。僕は距離をおかない、そう決意しても、ほかの人を同じように動かすことはできない。でも。だからって。理不尽すぎる。


 ことばに迷い、僕がぐるぐる考えていると、「こいつ、意外と諦めが悪いし頑固なので、たぶん思いつくまで折れませんよ」と鈴鹿くんが勝手に僕について酷いことを言う。
 橋元さんが笑う。まぁいいけど。


「わかった。じゃあ、ひとつお願いがあるの」


「……お願い?」


「私のこと、サキって、下の名前で呼んでくれるかな。
 それで馴染むようなら、サークルにもたまに顔を出す」


「…………ほ、え!??」




 ――――それからしばらく僕は、橋元さんのことを『サキちゃん』と呼ぶ練習を、鈴鹿くんは橋元さんに敬語を使わない練習をさせられたのだった。
 結局、橋元さんは手練れだということがよくわかった。




 ――――加えてもうひとつ。
 この夜、ひとつ新たな嵐の予兆があった。
 僕の携帯に一報入った連絡。
 それは、僕を『いじめていた』はずの同級生の女の子から。




 『週末、会おうよ』




 かつて僕が告白して玉砕し、それを学年中に言いふらした女の子からだった。




   ◇ ◇ ◇

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