スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。
第43話 ありがとう、ご都合主義。
「………うん、神宮寺くん、仕方ないよ、これは」
「え?? 危ないよ! 橋元さん!?」
軽く笑い、僕の横から前に出ようとする橋元さんに、僕はぶんぶんと、首を横に振った。
「暴力は暴力を呼ぶみたい。
これは自己責任だもん。自分でけりをつけるよ」
「…………?」
「おい、そこのクソビッチ。てめぇ……」
最初にいた同級生3人のうち生き残ったひとりが、僕を押しのけ橋元さんに詰め寄った。
「よくも土砂降りん中、アスファルトに叩きつけてくれたな」
「あらら。
自分がやられたこと、みんなに広めちゃったの?」
にこりと微笑む。
うるせぇ!と頭に血が昇った同級生が乱暴に迫ってくるのに、橋元さんは動かない。
「あがぁっ!!?」
なんと彼女はその鼻っ柱に頭突きし、そのまま首を絡めとると鋭い膝蹴りを同級生の腹に突き刺した!さらに、ぐるんと回すように投げてしまい、同級生はなすすべなく地面に転がる。
女の子の華奢な腕がしたとは、とても信じられない。
膝蹴り。
ってことは、ムエタイとか?
でも投げがあるっていうのは。。。。
格闘技に詳しくない僕が知っているのは、あとは、授業でやった柔道と鈴鹿くんがやっている伝統派空手と、三条さんがやってるテコンドーぐらいだ。
でも、なんだかどれとも違う気がする……!!
いや、それより、だ。
「明王寺さん!!
なんで、こいつら呼んだの……?」
自分でもびっくりするぐらい、おもいっきり大きな声が出た。
何だ何だと、周囲の個室から他のお客さんが顔を出す。
人数的に、自分たちが囲まれる側になり、同級生たちの動揺が見てとれる。
「え、あ、いや、その………」
ん。
なぜか橋元さんが慌てだした。
「どうしたの、橋元さん」
「あ、あのね!?
神宮寺くん頼むから、訊かないで………!!!」
橋元さんが僕に手を合わせる。
いったいどういうこと?
僕が明王寺さんに再び目を向けると、ふるふると肩を震わせてうつむいて、拳をぎゅっと握っている。
何かをしようとしている?
いや、何かを言おうとしている?
「橋元サキは……」
「やめてぇーーーーーーーー!!!!!」
「え、何なん、これ?」
最後の声がした方に、僕は、バッ、と顔を向けた。
まずいまずい!!
戻ってきた水上さんだ。
僕の関係者だと察したらしい同級生が、ふたりがかりで水上さんを押さえ込もうとしてる!?
「………は、な…」
もがく水上さん。
離せと彼らに駆け寄ろうとした僕は、おもいっきり足払いを食らって、派手な音を立てて廊下に転倒した。
大笑いが起きる。恥ずかしい。そんな場合じゃない!!
起き上がる僕。
後ろで悲鳴が上がる。
振り向くと、橋元さんもまた、同級生たちが4人がかりで押さえ込もうとしていた。
僕は止まる。
――――いったいどうしたらいい!?
「…………モウシワケゴザイマセン、オキャクサマ」
ずいぶん棒読みな低い声がした。
機械の声かと思ったら、水上さんにつかみかかってた男が奇声を発しながら引き剥がされた。
もう一人は、後頭部をつかまれるや、壁に顔面をぶつけられる。
「店内で乱闘を起こされる方は、客とは定義いたしません」
ぱん、と手を払いながらするりと僕の横を通り抜けた、居酒屋の店員の制服を着た彼。
橋元さんにのしかかる同級生たちの手を次々とひねりあげてはポイポイと引き剥がす。
その背中、安心感半端ない。
「鈴鹿くん………」
「ああいうときは止まるな、間違ってもいいから」
なぜか本当に運よくこの居酒屋でバイト中だったらしい鈴鹿くんが、背中で僕をたしなめるけど、もはやありがたすぎて後光がさして見える。
なにこの友達、頼れすぎですよ。
同級生たちはもはや劣勢なのを悟ったみたいで、ばらばらと、店の外に向けて逃げ出していってしまった。
ちからが抜けたらしい橋元さんが、ぺたん、と床に座り込んだ。
それを見て、鈴鹿くんが近寄り手をさしのべる。
(鈴鹿くんが、女の子に手を貸すなんて珍しい???)
と僕が思い、橋元さんがその手をとろうとした、その時。
「大丈夫ですか? 橋元先生」
という一言が。
他の誰でもない、鈴鹿くんから漏れた。
え、鈴鹿くんが、先生と呼ぶ?
僕の二つ上の鈴鹿くんが?
ははは、と、乾いた笑いを漏らして、橋元さんが鈴鹿くんをにらんだ。
「いまキミがいった言葉が、一番大丈夫じゃないかな……」
うぐ、と詰まる鈴鹿くん。
どういうこと、と、僕が問おうとしたその前に、
「橋元サキは、年齢詐称してる」
と、明王寺さんが呟いた。
「5年間陸上自衛隊にいた。
彼女の本当の歳は、24歳」
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