スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。
第41話 罵詈雑言に耐えるスキル。
「……ここじゃお店の迷惑になる。
用があるなら、外にしてよ」
からからの喉には唾の一滴もない。
顔が引きつったりしなかっただろうか。
平静を必死で装いながら、僕は3人の同級生たちにそう返した。
「冗談!
なんでお前ごときのために、クソ暑い外に出なきゃならんのよ」
ひとりが、鼻で笑う。
ちょっと気を抜けば、冷静じゃなくなる。
頭が恐怖で動かなくなる。
3人とも、僕にとってそういう相手だ。
だけど、いま優先すべきは、僕と一緒にいる人たちの安全。
この間、この3人は、橋元サキさんに絡んできた。
いま、個室のなかにいる女の子たちに、危害を加えない保証はない。
僕がいたのはどの部屋か、気づかれてはいけない。
「……わかった。何か用?」
オドオドしたら悟られると、お腹に力を入れて、僕は彼らをにらんだ。
なんだよ、その目。という、いちゃもんオブいちゃもんを吹っかけた奴が、ドンと僕の肩を押す。
体幹の力でギリギリふんばったけど、相手は、険しい顔をして、さらに僕を押す。
「……だから、何の話があるの?」
ひゅっ、といきなり足が延びて僕のすねを蹴ってきた。
ばちんと汚い音が響く。痛い。
「うるせぇんだよ。
そっちが勝手に俺らの視界に入ってきてんだろうが、生ゴミが」
「痩せようがなにしようが、かわんねぇんだよ、お前の、馬が腐ったような顔は。服で色気出してたらよけい吐きそうだわ」
ばちん、ばちん、横の奴にも蹴られた。
正面のヤツは、今度は足を踏んできた。
痛い。
痛い上に、なんか、醜い。
鈴鹿くんや三条先輩みたいに綺麗な蹴りじゃない。
なんだろう、とても見苦しい。
てゆうか、馬が腐るって何。
「…………」だけど、突っ込みが、口から出てこない。
彼らは、僕の容姿をさして、差別用語まじりで次々と罵詈雑言を浴びせる。
僕がそのマイノリティに該当しようがそうじゃなかろうが、本当はどうでもいいんだろう。
耐える。
小中高の日常のように。ただ、彼らがいなくなるのを待つ。
聞こえよがしの悪口、存在を無視。
色んなバリエーションで
でも、どうしよう。
タイミング悪く、水上さんが帰ってきてしまったら………。
飲み込もうとしたつばがなく、乾いた口の中で舌が貼り付いた、そのとき。
「神宮寺くんー?」
水上さん、ではなく、この場に一番来てはいけない人の声がした。
「どうしたのー? 神宮寺くん?」
おそるおそる僕は、そちらに顔を向ける。
特に深刻な様子もなく、カツカツと、軽やかにヒールの音を響かせて歩いてくる。
「戻って! 橋元さん!!」
「ん?」
首をかしげる彼女に、同級生たちは僕など忘れたように突進した。
「逃げて!!」
3人同時にかかろうとする。
女の子に、いったい何を。
どうして、こんな店の真ん中で。
混乱しながら同級生たちを止め損ねた僕はその背を追う。
橋元さんがあとずさった。壁を背にしてる。逃げられない。
血の気が引いた、次の瞬間。
同級生のひとりが、廊下をぶっ飛んでいた。
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