スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。
第39話 公開処刑の場につれられて。
◇ ◇ ◇
「皆様集まっていただいてありがとうございます。
これから、神宮寺クンについて大事な話があるので、皆さん最後までいてくださいね?」
高音なのにどこかねっとりと鼻にかかるような明王寺さんの声を、甘い声だと言う男の先輩は多い。僕はどちらかと言うと、弱った獲物をいたぶる猫のように感じる。
ともあれ、急遽明王寺さん仕切りで集められた女の子ばかりの会には、サークルの女の子たちが10人以上も集まった。
居酒屋の個室に詰め込まれるように座り。
隣にはきっちり、明王寺さんが陣取り、僕の片腕を拘束している。
びっくりする話だけど、2回生の三条さんについては連絡先を誰も知らなかったらしい。
いまこの場にいるのは、みんな1回生。
明王寺さんを挟んで、橋元サキさん、それから柴田さん。
ほかにも、サークルの女の子たちが。
基本的には鈴鹿くん派を明言してる子たちばかりだけど……。
柴田さんは心なしか、熱を帯びた目でこちらを見ている気がする。
水上さんは遅れてくるそうだ。
むしろ、ずっと来ないでくれていい、とさえ、僕は思う。
なんでこんなことになったんだっけ?
僕はただ、少しはマシな見た目になりたかった。
気持ち悪がられ、敬遠される人生がつらかった。
居場所をもらえて、肯定された。
嬉しかった。だから、与えられた『役割』を果たそうと思った。
(そうだ、ちょっと見た目がマシになったからって、アイドルみたいな仕事が僕にできるわけがなかった。
女の子たちが鈴鹿くんに夢中になった。それでよかったんだ)
その鈴鹿くんは僕の友達になってくれた。
いまの僕には、居場所がある。
これ以上、望んだら、欲張りだ。
大事な相手に迷惑をかけるぐらいなら。
うっかり抱いた恋愛感情なんて、消し去ってしまいたい。
でもそしたら、
『………………どうせ諦めるのなら、ボクがいるでしょう』
という明王寺さんの言葉に、どう返せばいい?
明王寺さんや他の女の子を拒む、強い言葉を、僕は今持っていない。……恋愛感情とは、抱いた者勝ち、押しつけた者勝ち、相手の感情を考えた者負けなのだろうか?
ため息をつくと、ふと僕は、あることに気づいた。
以前の明王寺さんは、僕の好きな人を水上さんだとほぼ断定したような物言いをしていた。でも今日の明王寺さんは違う。
水上さんだと確信しているなら、そう言いそうなものだけど。
もやもやと考えているうちに、明王寺さんが何か言っていたらしい。心ここにあらずだった僕に、明王寺さんが肘撃ちしてきた。まったく痛くない。
「ねぇ、何考えてるの? 神宮寺くん」
「え、あ、いや………」
腕にグッと胸を押しつけてきても、明王寺さんの方を、僕は見ない。
見たら好意があると思われるだろう。
こちらから話しかけたら好意があると思われるだろう。
だから、それをしないことが、せめてもの僕の抵抗だ。
「…………あ、ごめん、遅なって」
目を閉じた僕の耳に、ずっと聴きたかった声が届いて、おそるおそる僕は目を開いた。
どんな顔をしてるだろう、それが恐かったのだけど。
視界に入った水上さんは、僕と目を合わせると、かるく微笑んで、小さく手を振った。
いつもと変わらない、ホッとする。
だけど、1回生他の女の子たちに紛れて座っても、そこにいる女の子たちのなかで、明らかに水上さんだけ違う。
なぜか水上さんだけに目がいく。
一団のなかで、水上さんだけ輝いてさえ見える。
好きだと自覚してしまったからなのか。
存在だけで、いとおしい。
――――って、見すぎたしまった!
僕はすっと目をそらしながら、ちらりと明王寺さんに目を走らせた。
明王寺さんは、一切気づいていなかったようだ。
なぜなら、現在進行形で、強く橋元さんをにらんでいる。
(………………?)
なんでそっち?
と思い、一瞬のち、気がついた。
どうやら、明王寺さん、僕の本命が橋元さんだと思い込んでいるのらしい?
「…………もう一度言います。
ボクは、神宮寺クンをもてあそんだ女を、絶対許しません。
それがいったい誰なのか、ここで白黒つけてやる」
…………………なんで、そうなるの!?
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