スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。

真曽木トウル

第34話 告白前に玉砕する。





 ぐいぐい進む三条さんの背中を、僕は追う。
 その背は、細い横道に入り込んだ。


「……すみません、水上さんっ!」


 聴こえてきたのは三条さんの鋭い声。そして。




「お、おい来やがっ……ぅぐ!!」
「何だ、おわぁ……!?」
「!? ……ぅ、ぅわぁぁぁぁっ!!!」
「や、……ぁ!?」




 アニメの雑魚悪役みたいな声が、路地から漏れてきた。
 声と物音は、3つ数えるか数えないかの間に消えていく。




(なに、何が起きてる!?)




 遅れて路地にたどりつく。
 目に入ったのは、こちらに背中を向けている、髪の乱れた水上さん、立っている三条さん。
 そして、まわりにぐったりとして転がっている、四人の見知らぬ男性。


 いま、ようやく飲み込んだ。
 ――――水上さんは、襲われかけていた。
 急に寒気に襲われる。夏なのに。
 浴衣の隙間から冷たいものが、首筋を這い上がってくる。


 三条さんが、水上さんに頭を下げる。


「ごめんなさい、遅れてたことに気づかず。
 お怪我はありませんか?」


「いや、あの……」




 白い喉から、ひゅっ、と息が漏れる。
 水色の、浴衣の体が、震えている。
 と……




「え、大丈夫ですか!?」




 力が抜けたようにへたりこみそうになる水上さんに、僕は駆け寄り、両手を伸ばして支えた。




(……………………)




 気がつけば、脇の下に腕をがっちり通して、後ろから抱えあげている体勢になっていた。




(……………え、っ、と…………?
 ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………!?)




 何に謝っているのかわからないけど、僕は脳内で謝る。
 浴衣の生地ごしに、水上さんのやわらかい体の感触。
 それを、ほぼうしろから抱き締めてる。
 僕より頭ひとつぶん以上に小さい背。
 鼻に入ってくる、ほのかにやさしい体温の匂い。
 やってしまった、んだけど、でもどうしたらよかったかもわからないし、ここからどうしたらいいかわからない。


 どう言えばいい。
 水上さんの顔が見えない。
 水上さん、怒ってる……のかな?


 口を開くと、喉がかすれてた。




「……だ、だいじょうぶ……ですか?」




 口をついて出た言葉はそれだった。


 乱れてる髪。どんな顔をしている?
 銃をつきつけられた時みたいに、僕がその体から両手をゆっくり離すと、水上さんはこちらを見て、うなずいた。




「……ごめん。お騒がせして」


「いえ、そんな!」




 ふと地面を見ると、倒れてまだ動けず、ぴくぴくしている男性、いや、男たちがいる。
 どうして?
 この人たち、いったいなんで、水上さんを襲おうと?




「とりあえず、早めにここを離れましょう。慶史と鈴鹿とうちの家主さんは、念のために逆に向こうに進んで行ってもらっているので、我々が少し急いで合流しますよ」


「う、うん」




 思い切り修羅場慣れしている台詞が三条さんの口から出て、僕の思考は力業でぶったぎられた。


 え? いつそんな声かけを?
 って、僕のところに来る寸前か。
 あれですか、これって、ついこの間までやんちゃしてた修羅場慣れなんですか?


 いや、それはそれとして。
 女性ひとりで大の男四人瞬殺って、、、なんか漫画みたいな強さだ、この人。


 僕だったら、何もできなかった。
 危機だとさえ、気づかなかった。
 水上さんの顔色はまだ悪い。恐かったんだろう。
 もし、三条さんじゃなくて僕だったら。
 僕しかいなかったら。
 問うまでもない。何もできなかった。
 水上さんの身に、何かが起きてしまっていたら。


 水上さんの肩が、微かに震えている。
 僕は、思わず、手を差し出した。




「…………ん?」


「水上さん、行きましょう?」




 手を差しのべていた。
 震えてるその肩。
 こんなときぐらいは、僕が支えになりたかった。
 水上さんが、不安げに、困ったように、僕の手と、顔を見つめる。




「あ、あの……?」




 一瞬、ふたりの動きが止まる。


 意味を、僕は察した。




「……あ、ごめんなさいっ」手を引っ込めた。




 何やってんだ僕は!
 女性が僕なんかに、神宮寺賢一郎に手なんて、とられたいわけないじゃないか!
 世界で一番きもい見た目の僕なんかに、いったい、誰が。


 水上さんだって………
 ただ、先輩として、僕に優しくしてくれただけなのに。




「すみません調子に乗りましたごめんなさいっ!!」




 顔が熱い。
 恥ずかしい。
 消えてしまいたい。
 ちょっとイケメンにしてもらって、調子にのってた。
 僕は何も変わらない、最底辺男なんだ。


 呆れたような三条さんの視線に背をむけて、僕は、大通りへ駆け出した。




   ◇ ◇ ◇




 そのあとで、三条さんから、水上さんと新橋さんが付き合っているというのは以前サークル内で発生した誤解だとか、新橋さんには最近彼女ができたとか教えてもらった。


 たとえ水上さんに相手がいないとしても、選ぶ権利もある。
 あのとき、僕が差し出した手に、困ったような顔をしてた。
 それが答えだ。




 思った以上にショックを受けている。
 恋愛なのかどうなのか、悩んでいた自分がバカみたいだ。
 僕はもう、とっくに好きだったんだ、水上さんのこと。


 でも、水上さんが困るなら、その気持ちを押し付けたりなんかできない。


 いま、僕は、告白されること、相手が恋愛感情をさらけ出しこちらの答えを求めてくるやりとりが、心を削ってくる負担だと知っている。自分が告白するほうにばかりいたときは、それに気づけなかった。僕は思いやりのない男だ。




 だから僕は、スクールカースト最下層男なんだ。




 好きな人に、僕はふさわしくない。




 初めて僕は、告白する前にそう、結論を出した。




   ◇ ◇ ◇

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