スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。
第31話 僕は女の子がわかりません!
ほかでもない、僕の部屋の僕のベッドの上に、2人でいる。
「あ、おはよー神宮寺くん」
僕の腕のなかで、ぱちっ、と目を覚ました橋元サキさんは、特に驚くことなく、布団の中をずずっとのぼってきて。
その綺麗な顔が、僕の前まできた。
僕のからだと手に触れるのは、たおやかな体と、すらりとしながら筋肉で締まったふとももの感触。
すっぴんでもやっぱり美人。
至近距離。
はだきれい。
目のやり場に困る。
着ているのは……僕のTシャツ。昨日の夜寝るときに、Tシャツと、運動用のハーフパンツを貸していた。
「橋元さん、確認したいことがあるんですけど」
「ん?なに?」
「確か僕、昨日、床に寝てたよね?」
昨日の夜、自分のベッドを橋元さんに明け渡し、僕は床で眠りについたはずだ。
まさか、寝ぼけてベッドに入っちゃった?
「ああ、神宮寺くん、眠ってる時になんだか寒そうだったから。
ベッドまでひっぱりあげちゃった」
「へ!?」
ひっぱりあげたって!?
その細腕で!?
僕、体重67キロあるんですけど!?
しかも、ひっぱりあげられた記憶もないって、僕はそこまで眠り込んでたってこと?
「まぁ気にしないでよ。梅雨で微妙に冷えるしさ。
一緒に眠ったほうがあったかいじゃない」
「いや、気にしますよ?」
布団の中で橋元さんを抱くかたちになっている、僕の手。
壊れ物みたいな女の子の感触には、まだ慣れない。
すすすっ、と、僕は手を引く。
「……起きる、ね」
「そうだね」
僕が体を起こすと、ごく自然に僕によりかかるように橋元さんが上半身を起こす。
もたれかかられ、宙に浮いた手が泳ぐ。
「……あの、橋元さん? 近くないですか?」
「んー? まだちょっと眠くって」
……………だから、あの、そういう距離感やめてください?
いま朝だし、その。下半身が朝なのでね?
それにしても、ここからどうしようか、と困った僕の目に、ベッドの下に落ちた携帯が目に入った。一件連絡が入ってる。
手を伸ばして、携帯を拾う。
「どうしたの? 誰かから連絡?」
あたりまえのように、橋元さんが寄っかかりながら、僕の顔をのぞきこむ。
「ああ、うん……なんか、サークルの、柴田さんから連絡。
今日講義が終わったあと会わないかって」
「おお?
それって、告白というやつですか?」
なんか橋元さんが楽しそうに言ってくる。
ラーメンを一緒に食べに行った時も、水上さんのことを友達の恋バナみたいなノリで聞いてきたし。
単にこういう話が好きなのだろうか。
「いや、それはないと思うよ……?」
「なんで?」
「だって――――」
柴田さんは、鈴鹿くんがサークルに来る前は、僕をちやほやする一人だったけど、鈴鹿くんが来始めて以来、柴田さんはわかりやすく、完全に鈴鹿くんに夢中になっていた。
先日柴田さんは鈴鹿くんに告白したそうで。鈴鹿くんは断ったそうだけど、少なくとも彼女の好きな人は鈴鹿くんなんだろう。
……とは、さすがに、橋元さんには言えない、か。
「もし告白だったとしたら、OKする?」
「え?」
「ここまで神宮寺くんを見ていて、誰のことが好きか、わからないんだよねぇ。
唯一、この人かなって思った人は、神宮寺くん自身に否定されちゃったし」
「………」
橋元さんが言ってるのは水上さんのことだ。
そして僕はまだ、水上さんにどんな気持ちを持っていると明確に言葉にできない。
正確に言えば、橋元さんにも現在進行形で揺さぶられている。
「告白だったら、OKする?」
「……しないよ」
「そっか。よかった!」
橋元さんは笑顔を見せて、ベッドから立ち上がった。
「顔洗ってくるね」
すらりとした後ろ姿に、昨日から僕は翻弄されてばかりだと感じた。
橋元さんについてわかったこともあるけど、もっとわからないことが増えた。
なんか僕は、『ちゃんとした恋愛』とは違う道でばかり迷っているような。
ふうっと力が抜けて、ベッドに背中をつけた。
僕が未熟なんだと思うけど。女の子が、わからない。
◇ ◇ ◇
その日の5限終了後。
「最初に会った時から、好きだったの。
どうか、付き合ってください。お願いします」
(注※柴田さん)
人生初めて自分が受ける告白は、3日前に僕の友達に告白して断られた女の子からでした。
――――――僕には女の子がわかりません!!!
◇ ◇ ◇
コメント