スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。
第28話 魔改造が…効かない…だと!?
「………………こっち見た。
あいっかわらず、ぶっさいくな顔してるわ」
「何、服とか髪とか、大学デビューのつもりであれ?」
「ぶさいくの面食いって、一番たち悪いやつじゃん。
おとなしくブスにしときゃいーのにさぁ」
「女の顔、どんなの? 誰か見てこいよ」
いったい、なんで3人も、うちの高校から京都に来てるんだ。京都のどこかの大学にそろって入ったのか?
心臓がバクバクと鳴ってきゅうっと喉が締まって、息が止まるかと思うほど苦しくなって、恐い。
死にたい走馬灯が頭のなかを占領する。
恐い、恐い、恐い。
恐い。
「………どうしたの? 神宮寺くん」
柔らかくほほえんで、橋元さんが声をかけてきた。
僕は、ほとんど口に残っていなかった唾を、無理矢理飲む。
橋元さんにも、アイツらの会話が聞こえていないわけはない。
だけど彼女は何事も起きていないかのように、パフェを食べている。堂々と。ぱくぱくと。美貌と優しいほほえみのわりに豪快に。
その姿を見ていると、だんだん毒気が抜かれてしまって。
思わず僕も、パフェを口にする。
宙に浮いたままだったスプーンの上のアイスは、ほぼ融けていた。
元同級生たちが聞こえよがしな罵倒を続けてる。
その中で、僕たちはパフェを食べる。
そういえば、ぶさいく、と2回言われた。
新橋マジックも水上マジックも、うちの同級生たちには通じなかったようだ。
やっぱり、僕はぶさいくのままなんだなと、胸が詰まる。
………きつい。
こんなじゃ、橋元さんも絶対不快な思いをしているだろう。
(パフェは惜しいけど、ここから出た方が良いんじゃないだろうか?)
でもそとは雨、人けはない。
安易に外に出て、元同級生たちが僕たちを追ってきたら、何かされるかもしれない?
僕ひとりなら、まだしも。橋元さんに、なにかがあったら。
―――――そんなことを考えているうちに、橋元さんが早くも食べ終わった。
動くなら、いまだ。
僕は間髪入れず立ち上がる。
「橋元さん、もう出よう?」
「まだ、神宮寺くんのぶん残ってるよ」
「大丈夫だから、早く」
彼らに捕まらないうちに、すぐ出てしまおう。
僕の家も近くにあるし。このへんは土地勘もあるから。
そう思い、彼女を促そうとした僕は、焦っていて気づかなかった。
「あれー? もう帰っちゃうのー?」
元同級生たちが僕らのテーブルのすぐ近くまで来ていたことに。
いやーな感じの笑みを浮かべて、僕を囲むように立つ3人。
「なにずっと無視してんの。
紹介してよ、そこの美人な彼女?」
ソファにかけたままの橋元さんを背にして、僕は、息を飲み込む。
やっぱり、橋元さんに目をつけられた!!
雨だし、最悪だ。もっと店のなかに人が多ければ。
「なに黙っちゃって」
「あ、はじめましてー。俺たち神宮寺くんの友達でーす」
「で?
なんでキミみたいな子が神宮寺なんかとお茶してんの?」
「まーさか彼女じゃないでしょ……。
でも、神宮寺みたいなんと一緒にいたら、女の価値下がっちゃうよー」
(失敗した!)
僕が橋元さんの通路側に立ったことで、橋元さんにも、逃げ場がなくなってしまった。
どうしよう。どうする?
でも、この店のなかにいる限りは、店員もいる。店の外に出なければ、身の危険はないはず。
どうにか………ここで耐えて……。
ぽん、と僕の背中に橋元さんが手を置いた。
「神宮寺くん、ごめん、ちょっと退いてくれる?」
「へ……?」
僕が動くまでもなく、僕の横をすり抜けるように、橋元さんは通路に出た。
「橋元さん?」
「ちょっと私に用があるみたいだから、外で話をつけてくる」
「へ、え!?」
男たちが呆気にとられている間に、橋元さんは足早に店の出口の前へ。
ドアに手をかけ、そこで彼女は振りかえって「来ないの?」と元同級生たちに言う。
「え、ええ!? や、もちろん!?」
「神宮寺なんかよりは全然マシですよ、俺たちのほうが!!」
そう言って、同級生たちは橋元さんを追って店の外に出た。
え、………ええ??
―――さらに驚いたのは、それから、ものの1分も立たないうちに。
「お待たせー」
笑顔で橋元さんが帰ってきたということだった。
「……え? あいつらは?」
「丁重にお引き取り願いました。
続き、食べなよ神宮寺くん?」
「え、……ええ?」
ちらっと窓のそとを見ると、雨のなか、傘もささず逃げるように走っていく元同級生たちの姿が見えた。
ひとりが僕と目が合うと、口パクでおもいっきり何か叫んできたけど、何を言っているか、まったくわからなかった。
(………………?????)
あいつら…………いったいどうしたんだ?
「気にしないでいいよー? 神宮寺くん」
「いや、ええと、あの、ごめん……」
「忘れちゃえ、忘れちゃえ。嫌なものは。
昔の知り合いなんて、他人も一緒だよ」
そんな軽口を叩きながら橋元さんがパフェ2つめを頼んでしまったので、僕も引き続き自分のぶんのパフェを食べ、コーヒーを追加で頼んで飲む。美味しい。なんだこれ。
そういえばあいつらのお会計、すんでたならいいんだけど、大丈夫かな、と、ちらっと、気になった。
◇ ◇ ◇
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