スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。

真曽木トウル

第24話 女の子からのキスも強制猥褻と呼んでいいらしい。

   ◇ ◇ ◇




「…………なんか、色々大変なことになってたんだな、お前も」


「う、うん………」




 その週の、日曜日。


 なぜか、僕は、同級生でありいまやサークル仲間にもなった鈴鹿くんの家の、畳の上で体育座りしながら、出された温かい丹波黒豆茶を飲み、話をしていた。


 お茶うけは、鈴鹿くんの地元近くの銘菓らしい、炭酸煎餅たんさんせんべいという、薄く平べったいお菓子。


 ちなみに、この場にいるのは2人だけじゃない。




「ご愁傷さま?と言えばいいのかな、神宮寺。
 俺の方には、昨日の夜、女子経由で、明王寺さんがこんなこと言ってたってLINEで回ってきてたよ。
 1回生にはだいぶ広まってるのかも」


「……今井いまいくん、笑顔で恐いこと言わないでくれる?」


「うん、俺も正直、和希さんのリアクションが恐いから、2回生には伝えない」




 メガネの奥で苦笑するのは今井慶史いまいけいしくん。


 この間、新歓コンパの幹事をしていた三条和希先輩(女性)を手伝って、明王寺さんからお酒を取り上げた1回生男子だ。
 三条さんとやたら仲がよく、常に一緒にいる。
 だから男ばかりの場に彼がいるのは、実はちょっと珍しい。




 今僕たちがいる鈴鹿くんの家は、吉田神社の東にある、家賃2万円台のアパートだ。
 古いと言えば古いのだけど、とても雰囲気がある建物で。
 京都を舞台にした二時間ドラマの撮影にもよく使われる、有名な物件らしい。




 僕はため息をつきながら、炭酸煎餅を手にとった。
 表面には、漢字の魔方陣みたいな不思議な模様が描かれている。
 パリ、っとかじる。
 小麦粉系の洋菓子みたい。
 食感がぱりぱりしていて、甘い。おいしい。




 ―――――木曜日の夜、僕はサークル仲間の明王寺まほろさんにキスをされた。
 彼女は、それをサークルのみんなに広言すると言う。


 明王寺さんは、誰がどう見ても美人な女の子だ。
 だったら男としては喜ぶべきなのか?
 勲章として誇るべきなのか?
 でももやもやする。スッキリしない。
 いつもの僕なら、そのまま、誰にも話をできず、腹のそこに気持ちを押し込めていたところだっただろう。


 ――――ただ、この間。
 金曜日と土曜日にとある事件と用事が発生した。
 鈴鹿くんと今井くんと、連日顔を合わせることになり。
 しばらくまともに鈴鹿くんと話もしていなかった僕は、否応なく彼と話した。
 鈴鹿くんは僕が避けていたことには触れない。
 ただ、他愛のないことを話すうち、わだかまっていたものがだんだんと解けていくのを感じた。


 僕の鈴鹿くんへの嫉妬がなくなったわけじゃないけど、そのままの流れで誘われ。


 今日、鈴鹿くんのうちに遊びに来ている。
 ついでに、今井くんも一緒に来た。
 1回生、男ばかり。今なら話せる、と、そう思った。




「――――あ」


「どうした?」


「いま、俺の携帯に、和希さんからメッセージきた。
『明王寺まほろを強制猥褻わいせつで訴えるなら警察官と弁護士紹介するって神宮寺に伝えて』
って。和希さんまで伝わったねこれは」


「……………うぉぉ…………」


 明王寺さん終了のお知らせ入りました。


「で、えーと、もうちょっと続きがあるから読むね。
『もし神宮寺本人が警察沙汰を望まないなら、私の方で明王寺に制裁を』」


「やめて明王寺さん死んじゃう」


「確かに。
 三条さんは女にもまったく容赦がないからな……。
 俺の方でシメておこうか?」


「やめて鈴鹿くん捕まる」




 なんだか、どんどんおおごとになっていくのに、冷や汗をかく。


 それでも、ひとりで抱え込んでいたときよりも胸はちょっと楽になっていることに、僕は気づいた。




 キスが嫌だったとか、明王寺さんが嫌だったとか、そういうわけじゃない。
 たぶん、僕の意思を無視されるのが、嫌だったんだ。
 僕にも感情があって意思があって、しなきゃと思うことがあって、こうありたいと思うものがあって、それを無視されるのが。
 でも、鈴鹿くんも、今井くんも、僕の意思や気持ちを尊重して話を聞いてくれている。
 ありがたい。




(水上さんにも、今回の件は届いてしまうかもしれないけど………)




 僕は今後どうするべきなのだろう?
 迷いながら僕は、炭酸煎餅をもう一枚、たべた。
 炭酸煎餅、めっちゃおいしい。
 京都でも買えればいいのに。




「……ありがとうね。
 僕なんかの話を真面目に聞いてくれて。
 嬉しいよ」


「それはまぁ。友達だからな」




 ―――――ん? いまなんて?


 そっちに気を取られた一瞬、飲もうとしていた黒豆茶が気管に入ってめっちゃむせる。
 僕は思いきり咳き込んだ。




「おい、大丈夫か?」




 鈴鹿くんが背中をさする。今井くんがティッシュをとってくれる。幾度も咳をして、どうにかこうにか、落ち着いた。


 鈴鹿くんの手はまだ、僕の背中を、様子を見るようにさすってる。


 聞き違いじゃない。


 さっき、鈴鹿くんは、僕のことを友達だって言ってくれた。
 うまれてはじめてだ。
 うまれてはじめて友達って言っていい相手ができた。
 嬉しい。すごく嬉しい。




「―――――けど、明王寺とほかの女子がトラブルにならないかは気になるな」


「ん?
 ほかの女の子はいま、みんな、鈴鹿くんが好きなんじゃないの?」


 友達ができた高揚感でぼーっとしながら、僕は適当なうけ答えをした。


「いや、そんな単純な話でもない――――
 そうだな。ちょっと迷ってたんだが、新橋さんからあった、あの話を受けてみるか」


「新橋さんから?」




 鈴鹿くんに何の話があったのだろう、と、僕が首をかしげると、鈴鹿くんが続けた。




「うまくいけば、明王寺まほろを牽制けんせいできるはずだ」




 ――――と、この場では鈴鹿くんが説明してくれなかった『話』だけど。
 あとから詳しく説明されて、僕は愕然とすることになる。




   ◇ ◇ ◇

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