スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。
第22話 据え膳は食わない権利がある!
◇ ◇ ◇
ところで、僕は、異性を取り合ってケンカする、なんて、マンガのなかでしか起きないことだと思っていた。
多少険悪になったりとかはあるかもしれないけど(それぐらいなら僕の周りでも起きたけど)、ケンカなんてしたら、目の前の、自分が好きな相手からは大概ドン引きされるだろう。
そんなこと、現実には、わざわざやったりはしないんだろうな、と。
だけど、僕が明王寺さんから約束を取り付けられてしまった日の夜。サークルのあとはみんなで学食で夕御飯を食べるという慣習があって、今日も僕たちはそうしていたのだけど。
とつぜん、パァンッという平手打ちの音とともに、「根性悪すぎよあんたは!!」という罵声が飛んできた。
(なんだ、なんだ?)
みんな、ざわざわとする。
運悪く。何かあったら真っ先に飛んできて止めてくれる、主将や三条先輩、そして僕より先に入部していた一回生の今井くんが、今日は用事があるからと先に帰っていた。
新橋先輩がおろおろとして、水上さんが、「どうしたん?」と話しかける。
ほかの先輩たちは顔を見合わせている。
平手打ちした女の子は、顔を真っ赤にして、つづける。
「こいつが、こいつが、嘘ばっかり……」
「嘘じゃないし! 神宮寺くんの家に押しかける計画、あんたたててたじゃん!!」
「え? そんなこと言ったら、あんた神宮寺くんの髪の毛拾ってたよね、何に使ったんだかー」
「てっ!適当なこと言わないでよ!! いま神宮寺くんのことなんて何とも思ってないし!!!
あんたこそどっちかというと本当は神宮寺くん派なんじゃないの!?」
「はぁ!? そんなわけないでしょ!?」
―――ええと?
要約すると、数人の女の子たちが鈴鹿くんを巡って言い争いをしていて……。
お互い、攻撃しあうのに、以前僕に対してどういう好意を持っていたか、を使っている、そういうことか。
いや、家に押しかけるとか髪の毛拾うとか『好意』と呼ぶにはわりと身の危険を感じるんだけど。
―――口論でポツポツ、僕をさりげなくディスる流れ弾が飛んでくる。
いやこれ、本人たちは本人たち同士での闘いに夢中なんだろうけど、流れ弾をくらう身としては、けっこうメンタルにくるね。
「バカばっかり」
嘲笑する明王寺さん。
間に入ろうとした水上さんが、止めあぐねて突き飛ばされた。女の子にしても水上さんは小柄だから。
いかん、ここは、男の僕が、加勢をせねば。
そう思って、席を立とうとした、そのとき。
ため息ひとつついた鈴鹿くんが、学食のテーブルの上に置いていた、自分のペットボトルの水を手に取ると、
ぶわっ……!!
と、言い争ってる女の子たちにぶっかけた。
―――みんな、水をかけられた方も、周囲の人たちも、唖然として、鈴鹿くんを見つめた。
鈴鹿くんは、学食の出口(手洗い場がある)をまっすぐ指差す。
「全員、今すぐ頭冷やしておちついてこい」
凛とした低音の美声で言う。
鈴鹿くんの奇跡の美貌に、静かな怒りを浮かべて言われると、みんな、さっきまで怒っていたのが嘘のように引っ込んで、ビクビクとしながら、素直に手洗い場に向かったのだった。
・・・・・・うわぁ。すごい。
「す、すずか?
食事の場で、水をぶっかけるのはどうかと……」
と、新橋さんが鈴鹿くんに注意している。
同様に、わりとサークルのみんなは引いている様子だったけど、僕は一連の鈴鹿くんの言動に思わず見惚れていた。
おろおろと、何もできなかった僕とは大違いだ。
ちゃんと食事にかからないよう避けて水をかけているし。
すごい。鈴鹿くん、すごい。
「鈴鹿尋斗って、ああいうところがボク嫌いなんだよね……」
とか、知った顔で呟いている明王寺さんがいたけど、正直かけらも気にならなかった。
―――――だけど、ある意味、この日の本番は、ここから後だった。
……しばらくして、言い争ってた女の子たちが、席に戻ってくる。
おとなしく、でもどこか互いによそよそしい様子で、席につく。
彼女らの顔を見つめ、「水をかけてすまなかった」と謝ったあと、しばし、考えていたようすの鈴鹿くん。
おもむろに、口を開いた。
「俺は、うまれてこの方、女に恋愛感情を抱いたことが一度もない」
全員が、鈴鹿くんの方を見た。
やる気がなかった明王寺さんでさえ。
目を見開いて鈴鹿くんを見ている。
「女が恋愛対象にならないかもしれない。
だから、さっきみたいな話は正直不毛だと思っている。
ただ、縁があった仲間だとも思う。
仲間として、仲良く飯を食いたいって、そう希望してはダメか?」
彼の言葉に、誰も答えられない。
僕の目に、熱が集まっていた。
率直に思いを口にし、流されず、腹をくくって意思を貫く強い鈴鹿くんがうらやましくて、まぶしかった。
対する僕は、どうだろう?
明王寺さんから押されて断りきれないということを言い訳に、本音では、童貞を恥ずかしく思う感情とか性欲が入り込んで、恋愛感情もわからず、据え膳に流されようとしている。いやむしろ食べられようとしている?
情けない。
こんなんじゃ、正直、情けなすぎる。
「神宮寺クン?」
「ごめん、あのさ、明王寺さん………」
僕が鈴鹿くんをずっと見つめていたのに気づいた明王寺さんが、恐々と僕に声をかけた。
なにかの変化が起きたことを、敏感に察知したらしい。
「………あとで、少し、話をさせて」
僕は、腹を決めながら、ゆっくりと明王寺さんに言った。
◇ ◇ ◇
ところで、僕は、異性を取り合ってケンカする、なんて、マンガのなかでしか起きないことだと思っていた。
多少険悪になったりとかはあるかもしれないけど(それぐらいなら僕の周りでも起きたけど)、ケンカなんてしたら、目の前の、自分が好きな相手からは大概ドン引きされるだろう。
そんなこと、現実には、わざわざやったりはしないんだろうな、と。
だけど、僕が明王寺さんから約束を取り付けられてしまった日の夜。サークルのあとはみんなで学食で夕御飯を食べるという慣習があって、今日も僕たちはそうしていたのだけど。
とつぜん、パァンッという平手打ちの音とともに、「根性悪すぎよあんたは!!」という罵声が飛んできた。
(なんだ、なんだ?)
みんな、ざわざわとする。
運悪く。何かあったら真っ先に飛んできて止めてくれる、主将や三条先輩、そして僕より先に入部していた一回生の今井くんが、今日は用事があるからと先に帰っていた。
新橋先輩がおろおろとして、水上さんが、「どうしたん?」と話しかける。
ほかの先輩たちは顔を見合わせている。
平手打ちした女の子は、顔を真っ赤にして、つづける。
「こいつが、こいつが、嘘ばっかり……」
「嘘じゃないし! 神宮寺くんの家に押しかける計画、あんたたててたじゃん!!」
「え? そんなこと言ったら、あんた神宮寺くんの髪の毛拾ってたよね、何に使ったんだかー」
「てっ!適当なこと言わないでよ!! いま神宮寺くんのことなんて何とも思ってないし!!!
あんたこそどっちかというと本当は神宮寺くん派なんじゃないの!?」
「はぁ!? そんなわけないでしょ!?」
―――ええと?
要約すると、数人の女の子たちが鈴鹿くんを巡って言い争いをしていて……。
お互い、攻撃しあうのに、以前僕に対してどういう好意を持っていたか、を使っている、そういうことか。
いや、家に押しかけるとか髪の毛拾うとか『好意』と呼ぶにはわりと身の危険を感じるんだけど。
―――口論でポツポツ、僕をさりげなくディスる流れ弾が飛んでくる。
いやこれ、本人たちは本人たち同士での闘いに夢中なんだろうけど、流れ弾をくらう身としては、けっこうメンタルにくるね。
「バカばっかり」
嘲笑する明王寺さん。
間に入ろうとした水上さんが、止めあぐねて突き飛ばされた。女の子にしても水上さんは小柄だから。
いかん、ここは、男の僕が、加勢をせねば。
そう思って、席を立とうとした、そのとき。
ため息ひとつついた鈴鹿くんが、学食のテーブルの上に置いていた、自分のペットボトルの水を手に取ると、
ぶわっ……!!
と、言い争ってる女の子たちにぶっかけた。
―――みんな、水をかけられた方も、周囲の人たちも、唖然として、鈴鹿くんを見つめた。
鈴鹿くんは、学食の出口(手洗い場がある)をまっすぐ指差す。
「全員、今すぐ頭冷やしておちついてこい」
凛とした低音の美声で言う。
鈴鹿くんの奇跡の美貌に、静かな怒りを浮かべて言われると、みんな、さっきまで怒っていたのが嘘のように引っ込んで、ビクビクとしながら、素直に手洗い場に向かったのだった。
・・・・・・うわぁ。すごい。
「す、すずか?
食事の場で、水をぶっかけるのはどうかと……」
と、新橋さんが鈴鹿くんに注意している。
同様に、わりとサークルのみんなは引いている様子だったけど、僕は一連の鈴鹿くんの言動に思わず見惚れていた。
おろおろと、何もできなかった僕とは大違いだ。
ちゃんと食事にかからないよう避けて水をかけているし。
すごい。鈴鹿くん、すごい。
「鈴鹿尋斗って、ああいうところがボク嫌いなんだよね……」
とか、知った顔で呟いている明王寺さんがいたけど、正直かけらも気にならなかった。
―――――だけど、ある意味、この日の本番は、ここから後だった。
……しばらくして、言い争ってた女の子たちが、席に戻ってくる。
おとなしく、でもどこか互いによそよそしい様子で、席につく。
彼女らの顔を見つめ、「水をかけてすまなかった」と謝ったあと、しばし、考えていたようすの鈴鹿くん。
おもむろに、口を開いた。
「俺は、うまれてこの方、女に恋愛感情を抱いたことが一度もない」
全員が、鈴鹿くんの方を見た。
やる気がなかった明王寺さんでさえ。
目を見開いて鈴鹿くんを見ている。
「女が恋愛対象にならないかもしれない。
だから、さっきみたいな話は正直不毛だと思っている。
ただ、縁があった仲間だとも思う。
仲間として、仲良く飯を食いたいって、そう希望してはダメか?」
彼の言葉に、誰も答えられない。
僕の目に、熱が集まっていた。
率直に思いを口にし、流されず、腹をくくって意思を貫く強い鈴鹿くんがうらやましくて、まぶしかった。
対する僕は、どうだろう?
明王寺さんから押されて断りきれないということを言い訳に、本音では、童貞を恥ずかしく思う感情とか性欲が入り込んで、恋愛感情もわからず、据え膳に流されようとしている。いやむしろ食べられようとしている?
情けない。
こんなんじゃ、正直、情けなすぎる。
「神宮寺クン?」
「ごめん、あのさ、明王寺さん………」
僕が鈴鹿くんをずっと見つめていたのに気づいた明王寺さんが、恐々と僕に声をかけた。
なにかの変化が起きたことを、敏感に察知したらしい。
「………あとで、少し、話をさせて」
僕は、腹を決めながら、ゆっくりと明王寺さんに言った。
◇ ◇ ◇
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