スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。
第21話 ズルいことすると天罰が待っている。
◇ ◇ ◇
「ごめんなー神宮寺くん。
ここんとこ遅刻とか早退多くて」
「いえ、全然。
ずっとお忙しかったんですか?」
「うん、バイトの方が、元々忙しくてー」
ほわほわとした水上先輩の笑顔に、僕は癒される。
梅雨のど真ん中で、奇跡的に晴れたこの日。
僕たちのサークルは、グラウンドのひとつで走法の練習をしていたのだけど、その時間の終わりがけに水上さんがやってきてくれて、僕に声をかけてくれた。
しっかり話せたのは、ずいぶん久しぶりだった。
……後ろで明王寺さんがにらんでるのは、まぁ仕方がないとしよう。
「それにしても、神宮寺くんの友達すごいなぁ」
「……えーと、鈴鹿くんのことですか?
そうですね」
いつ、友達ということになったのかはわからないが、鈴鹿くんは走るのがとても得意らしく、かなり本気モードで女の子たちに教えている。女の子たちも、真剣な顔で教わっている。(ただし明王寺さんはやる気がない)
「なんか、今日は真面目にみんなトレーニングやれてる気がしません?」
「あはは。
確かにふだんは真面目ちゃうよなぁ。
三条ちゃんがときどきキレ気味なんよね」
「あ、でも僕今日は三条さんにフォーム見てもらいました」
「そうなん?
あの子もめっちゃ速いからねぇ」
三条さんは、2回生の先輩。この間の新歓コンパでキレ気味に幹事をしていた女性だ。テコンドー出身で格闘技が強く、週一ペースで鈴鹿くんと組手をしている。目下、鈴鹿くんファンが一番敵視しているのは三条さんらしい。
「――――それにしても。
今日も橋元さん来てないねぇ」
「え?あ、そう……ですね」
言われて、僕はうなずいた。
橋元サキさんが、最近、サークルに顔を出していない。
運動好きそうだったし、今日みたいな日はめちゃめちゃはりきりそうなものなのに。
思い返してみれば、鈴鹿くんが見学に来た頃と前後して、彼女はサークルに来なくなったようだ。
いったいどうしたんだろう?
僕がいまさらなことに思いを馳せると、そのタイミングで、もういいでしょうとばかりに僕の腕を抱え込む人物がいた。
「先輩。あんまり先輩の権力で、神宮寺クンをひとりじめしないでくださいよぉ?」
「……それはごめんな。
けど、そっちは神宮寺くんにセクハラしすぎやで、明王寺さん。
自分が女の子やからいいって問題ちゃうから」
穏やかな口調で諭す水上さんに、明王寺さんははいはい、と言いながら顔を背ける。
呆れてきびすをかえす水上さん。
「あ、水上さん…っ」
もう少し、水上さんと話したかった僕は、その後ろ姿に手を伸ばした。
明王寺さんは、ぐりりっ、と胸を僕の肘にこすりつけて、「時間切れだよ」とささやく。
「水上さんに気持ちがあったとしても、限られた時間のなかで行動できない時点で、もうキミの負け」
「…………………」
「気を揉ませた罰として、今夜、ボクのうちに来なよ?」
今度こそは逃がさない。
そういう口調で明王寺さんは僕を捕らえる。
これはもう、余地を残した物言いをした僕が、悪い。
誘われても断れないくせに。
半ば観念しながら、僕は、
「………サークルのみんなでごはん食べたあとでもいい?」
と、問い返した。
◇ ◇ ◇
コメント