スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。
第19話 明王寺まほろさんを見ていると時々チェシャ猫を思い出す。
◇ ◇ ◇
「おはよう、神宮寺」
朝、1限めの教室に入ったら、もう一番前の席に陣取っていた鈴鹿くんから涼やかに声をかけられる。
手元には新しい文庫本。
まだ、彼のファンの女の子たちは来ていないから、読書にいそしんでいるのらしい。
「………うん、おはよう」
あいまいにうなずいた僕は、そそくさと一番うしろの席を目指した。
あれから二週間。
サークルの見学に毎回来ている鈴鹿くんと、僕はほぼ会話をしていない。
鈴鹿くんも僕に避けられていると感じているだろう。
露骨なことをして、悪いと思う。
でも、会話したくない。
何か情けない、ひどいことを言ってしまいそうで、いやだ。
「おっはよー! 鈴鹿くん!!」
僕が席に着いたのとほぼ同じくして、彼のファンの女の子たちが教室に入ってきた。
「鈴鹿くん、あのね――――」
「7月の、祇園祭なんだけど――――」
口々に鈴鹿くんに話しかける、女の子たち。
毎日話しかけては、目も合わせない彼の生返事を喜んで拝受している彼女たちは、鈴鹿くんのことをどれぐらい知っているのだろう?
僕はぼんやり考える。
少なくとも僕は、同じクラスにいたけれど、サークルに彼が来るまで、出身もなにも知らなかった。
兵庫県西宮市出身、身長172センチ。
前に通っていた大学を何かの事情でやめ、この大学に入り直したので、本当なら3回生になっている年齢。
空手の黒帯。
どれも、サークルの中で人づてに聞いて、あるいは自由時間に先輩と組手してるのを見て、知った。
たぶん、彼女たちはそれを何も知らないはず。
何も知らない相手なのに、好きになるのか?
それでいいんだろうか?
いや、僕も同じだ。
中学高校の時の自分をおもいかえしたら、他人のことは言えない。
かわいい女の子に惹かれていたし、その上で、一定以上の美少女は好きにならないように最初から自分で戒めていたし(その理由は、記憶している限り、『自分には手が届かないから』だ。他の女の子には手が届くと思っていたのか、僕は?)。
あとは、少し親切にしてくれた女の子を好きになったり。
ほら、僕も外側ばかりだ。
相手が、どんな漫画やどんな小説を好きだったか、どんな芸能人が好きだったか、どんな科目が好きだったか。
そんなことも知らないくせに、何で好きになっていたんだろう?
絶望するほど単純な、性欲のせいなのか?
「………罪深い」
女の子たちの背中を見ながら、思わず僕が、以前に水上さんに言われた言葉をぽろっと吐くと。
「恋とは罪深いものだよ?」いきなり謎な言葉を隣で吐いている人がいた。
ものすごく特徴的なくせのある声なので、相手を見なくてもわかるのだけど、ただ、一応僕はそちらにゆっくり目を向けた。
僕の隣の席に、明王寺まほろさんが座っていた。
構造のよくわからない、ドレスとかメイドさんの服みたいな、大きな胸を強調するクラシカルなワンピース。長い黒髪を背中に流して、ぱっちりと大きな、猫のような眼でこちらを見つめる。
服装や見た目は、いつもお人形さんみたいなのだ。中身はアレだけど。
「…………なんでここに?
とってないよね、ここの講義?」
「何故か知りたい?」
彼女は、ニィッ、と、特徴的な笑いを浮かべた。
「おはよう、神宮寺」
朝、1限めの教室に入ったら、もう一番前の席に陣取っていた鈴鹿くんから涼やかに声をかけられる。
手元には新しい文庫本。
まだ、彼のファンの女の子たちは来ていないから、読書にいそしんでいるのらしい。
「………うん、おはよう」
あいまいにうなずいた僕は、そそくさと一番うしろの席を目指した。
あれから二週間。
サークルの見学に毎回来ている鈴鹿くんと、僕はほぼ会話をしていない。
鈴鹿くんも僕に避けられていると感じているだろう。
露骨なことをして、悪いと思う。
でも、会話したくない。
何か情けない、ひどいことを言ってしまいそうで、いやだ。
「おっはよー! 鈴鹿くん!!」
僕が席に着いたのとほぼ同じくして、彼のファンの女の子たちが教室に入ってきた。
「鈴鹿くん、あのね――――」
「7月の、祇園祭なんだけど――――」
口々に鈴鹿くんに話しかける、女の子たち。
毎日話しかけては、目も合わせない彼の生返事を喜んで拝受している彼女たちは、鈴鹿くんのことをどれぐらい知っているのだろう?
僕はぼんやり考える。
少なくとも僕は、同じクラスにいたけれど、サークルに彼が来るまで、出身もなにも知らなかった。
兵庫県西宮市出身、身長172センチ。
前に通っていた大学を何かの事情でやめ、この大学に入り直したので、本当なら3回生になっている年齢。
空手の黒帯。
どれも、サークルの中で人づてに聞いて、あるいは自由時間に先輩と組手してるのを見て、知った。
たぶん、彼女たちはそれを何も知らないはず。
何も知らない相手なのに、好きになるのか?
それでいいんだろうか?
いや、僕も同じだ。
中学高校の時の自分をおもいかえしたら、他人のことは言えない。
かわいい女の子に惹かれていたし、その上で、一定以上の美少女は好きにならないように最初から自分で戒めていたし(その理由は、記憶している限り、『自分には手が届かないから』だ。他の女の子には手が届くと思っていたのか、僕は?)。
あとは、少し親切にしてくれた女の子を好きになったり。
ほら、僕も外側ばかりだ。
相手が、どんな漫画やどんな小説を好きだったか、どんな芸能人が好きだったか、どんな科目が好きだったか。
そんなことも知らないくせに、何で好きになっていたんだろう?
絶望するほど単純な、性欲のせいなのか?
「………罪深い」
女の子たちの背中を見ながら、思わず僕が、以前に水上さんに言われた言葉をぽろっと吐くと。
「恋とは罪深いものだよ?」いきなり謎な言葉を隣で吐いている人がいた。
ものすごく特徴的なくせのある声なので、相手を見なくてもわかるのだけど、ただ、一応僕はそちらにゆっくり目を向けた。
僕の隣の席に、明王寺まほろさんが座っていた。
構造のよくわからない、ドレスとかメイドさんの服みたいな、大きな胸を強調するクラシカルなワンピース。長い黒髪を背中に流して、ぱっちりと大きな、猫のような眼でこちらを見つめる。
服装や見た目は、いつもお人形さんみたいなのだ。中身はアレだけど。
「…………なんでここに?
とってないよね、ここの講義?」
「何故か知りたい?」
彼女は、ニィッ、と、特徴的な笑いを浮かべた。
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