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スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。

真曽木トウル

第18話 真のイケメンがサークルにやってきた。

   ◇ ◇ ◇




 ――――その日は、あっけなく訪れた。




 新歓コンパから一週間が過ぎた月曜日。




「今日、お前がいるサークルに見学に行くから」




と、朝から同じ講義だった鈴鹿くんに、すれ違いざま、声をかけられた。


 一瞬で引き込まれる目力めぢから。低く心地よい美声に、神の奇跡としか言えない容貌。スクールカーストが黙視できれば有無を言わさず最上位に置かれただろう、彼。
 そして、最底辺以下に属していた、僕。




「……うん」以外、僕が言える言葉は何もない。




 鈴鹿くんは、僕に声をかけたあと、いつものように、彼をキャアキャア崇め奉る女の子に捕まって包囲される。その状態で、それ以上僕が彼に話しかけることはできなかった。


 ……以前、彼がサークルにきてくれれば、と声をかけたのは、僕のほうだ。
 本気で来てほしいと思ったわけじゃなく、ただ、いい奴だなぁと思い、ふっと、彼がいるといいなと思っただけ。
 でも、それからは鈴鹿くんと話していないし、仲が良いというほど近しい関係でもない。
 なぜ突然、鈴鹿くんが、うちのサークルに興味を持ったのか、わからない。


 いや、それより。




(……………鈴鹿くんが来たら)




 あんな、神の領域に達しているイケメンがやってきたら。
 サークルの女の子たちの目は、みんな彼の方に向くんじゃないだろうか。
 そうなったら僕の役目は?
 僕がいる意味は?


 にわかに、不安な気持ちが、僕の胸に広がった。




   ◇ ◇ ◇




 ――――反応は、僕が思っていた以上に露骨なものだった。




 まず、鈴鹿くんを見た新橋さんと主将が、即、VIP扱いし始めた。
 時代劇の人身売買の場面で、女性を指して、上玉じょうだま、と呼ぶ言葉がしばしば出てくるけれど、たぶん、彼もまた上玉だと思われたんだろう。




 練習時間が始まって、鈴鹿くんがみんなの前に紹介されると、女子たちの目が彼の方を向いた。
 この直後から、何人かの女の子は、わかりやすく、僕と物理的な距離を取りはじめた。


 たぶん、恋愛をしたいと思う相手が新たに現れたので、その相手=鈴鹿くんに、別の男=僕と親しいように見せたくなかったのだろうと思う。
 よそよそしいとか無視されるといったものじゃないし、笑顔を向けてももらうのだけど、これまでが露骨に僕をちやほやしていたので、差がすごく目立つ。


 それ以外の子も、自由に動ける時間になると一気に鈴鹿くんの周囲に集まった。
 えさに集まる魚みたいで、思わず笑いだしそうになってしまったほどだ。




(………………………)




 わかりやすい、なぁ。
 新橋さんと、主将、ほか、男子の先輩たちまで、鈴鹿くんを露骨にちやほやする。
 女の子たちは、鈴鹿くんに話しかけようとして、他の女の子に跳ね返され無理だったときに、僕のところに戻ってくる感じで。
 つまりみんな関心は明らかに、僕から外れていた。


 ついこの間、自分を好きになってくれる人たちから、好きになれる相手を探そう、とか思っていた自分を、心底笑いたくなる。


 もし誰かに自分を好きになってもらったって、その感情は永遠のものじゃない。
 それどころか、何かの拍子にあっけなく消えてなくなる、とてもはかないものだったんだ。




 ………これで、水上さんまで鈴鹿くんのそばに行ってしまったら?


 そんな心配をしている時に限って、水上さんは休みだった。




   ◇ ◇ ◇




「――――――入部するかは、まだ決めてません」




 初日のサークルの練習終了時。
 新橋さんはいきなり鈴鹿くんに入部の意思を聞いていて、僕は再び焦る。鈴鹿くんは淡々と答えていた。




「あ、そうかぁ~。
 でも、入部してくれたら嬉しいんだけどなぁ~」




 揉み手しながら、新橋さんが鈴鹿くんに問いかける。
 あれ、この人、こんな人だったっけ? とつい思ってしまった。
 なに考えてるんだ、僕は。新橋さんは恩人なのに。
 そう葛藤している間にも、ふたりの会話は進む。




「こちらも色々検討したいですし考えたいので、1か月ほど様子を見て決めようと思います」


「そうかー。
 じゃあ、その間も練習、来て来て!
 君がくれば女の子たちも喜ぶしさ!!!」




 何気ないテンションで新橋さんがそう言う。
 え?? ああ、それって僕がお役御免ってことじゃないか―――そう思った時、ピクッ、と、鈴鹿くんの眉が動いた。
 少し神経質にも見える、表情の動き。
 何か、怒っている?




「――――――それは、俺の仕事じゃないので」




 おさえにおさえたけれども、怒りがれ出てる。そんな口調で鈴鹿くんが言うと、新橋さんは、ビクッ、と引いた。


 スッと、鈴鹿くんはきびすを返して新橋さんから離れる。
 その時の僕は、なぜ鈴鹿くんが怒ったのかもわからず。
 これから先、自分がどうなるのかを、案じるだけだった。






 こんな日に、橋元サキさんと、明王寺まほろさん、それぞれから、会いたいと連絡が入ったけれど。
 これが、同じクラスの僕に鈴鹿くんの情報を聞き出すためとかだったら立ち直れない、と思って、断った。




   ◇ ◇ ◇

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