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スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。

真曽木トウル

第11話 決して自慢じゃないんです。

   ◇ ◇ ◇




「――――ただ性別が違うだけの2者が、遅い時間に飲食をともにしたり家を訪問したからといって、性行為の同意として扱うのは違うんじゃないのか?」




 おぅ……めっちゃ予想外のド正論が鈴鹿くんからきた。




「厳密に言えば性行為の同意と言えるのは、明確に言葉で示した同意のみであって、あれを相手が承諾したから、こういう態度だった、だから性行為もOKだ、合意の上だ、っていうのは、よくある性犯罪者の常套句だろう?」


「うん……その通りですよ?
 その通りなんですけどね?」


「……………というのは一般論として。
 どこまでも、行きたければ誘いに乗ればいいし、行きたくなければ断ればいい。
 こちらが誘いに乗ったのだとしても、途中から相手が当初とは違う目的を出してきたら、その時点で断ってもいいし、それで相手が傷つこうと、こちらに責任は一切ない。
 ……としか、俺には言えんが」


「後者も一般論な気がします……」




 でも。話を真面目に聞いてくれただけ、他のやつよりは全然ありがたい。ありがとう鈴鹿くん。




 いま僕たちがいるのは、5限終了後の教室。
 僕が話しかけると、鈴鹿くんは、ぶあつい歴史小説を読む手を止めて、僕の目を見て話を真面目に聞いてくれた。
 漆黒のなかに紺碧が散っている、その不思議な色の瞳は、彼が考え出すと、さざなみのように、かすかに揺れる。
 観賞していて本当に飽きない。




 この前のサークルでの出来事から10日ほどたっている。
 サークルのなかでの女の子同士の牽制?とか、露骨な誘いはひどくなるばかりだし、毎日おびただしい数の連絡が、僕の携帯には入る。
 同時進行で何人もとSNSのやり取りをした日には、精神がひどく消耗したりする。


 一方、クラスの中では僕の扱いはなんとも平和だ。たぶん、ひとり飛び抜けてレベルが違う顔面偏差値の鈴鹿くんがいるからだろう、モテはしないけど最底辺扱いでもない、理想的な穏やかな生活。友達はまだできないけど、少しずつしゃべれる同級生も増えてきた。




 だから僕は、ここ数日、思いきって、男ばかり何人かに相談をしてみた。僕がサークルで置かれている状況についてと、好意を示されたり誘われたりしても女子とどううまく関わればいいかわからない、と。


 その結果。
 なぜかみんな、判で押したように、『え、それ自慢?』と不快そうな顔をして、僕は、おおいに落ち込むことになった。




 ――――確かに、自慢だと思われても仕方ないのかもしれないけど。


 ――――1か月前の僕が、同じことを誰かに相談されたら、まったくおんなじ反応する自信あるけど。




 もともと僕は豆腐メンタルだ。
(こうも続けて同性にトゲのある反応をされたら、心折れるなぁ……)
 そう考え始めた矢先、ふと、鈴鹿くんという選択肢が僕の頭に浮かんだ。


 鈴鹿尋斗という人は、繰り返すけれど、もはや神の領域に達しているイケメンだ。実際、教室のなかでさえ、けた違いにたくさん女の子に好意を示されている。それこそ、マンガの中の、意味わからないぐらいモテてるキャラみたいなレベルで。


 そんな彼なら、絶対『自慢か?』とは言わないだろうし、慣れている分、いい対処法も知ってるかもしれない。
 そう思って、僕は鈴鹿くんに声をかけてみた。




 返ってきたのが、冒頭の言葉だ。




「……正直なことを言えば、俺もどう対処していいかわからん。
 相手と自分が同じぐらいの、同じ種類の『好意』なら、苦労しないんだろうけどな」




 頬をかきながら、鈴鹿くんは考え、考え、言葉を続ける。


 ということは、鈴鹿くんも、僕と同じように困っているのだろうか?




「じゃ、僕も正直なことを言うね。
 女の子という存在に対して関心がないわけでも、下心的なものがないわけでもないし、かわいいなーとも思うんだけど。
 心の底からはまだ信じられないというか、その……」


「下手に手を出したら火傷しそう、とかか?」


「そうだね。
 まったく免疫がないんで過剰に意識してるだけなのかもしれないけど……。本当は、友達もほしいし、彼女もほしい」




 うなずきながら僕の勝手な話を聞いていてくれた鈴鹿くんは、またしばらく考えてからおもむろに「時間がほしいってことじゃないのか?」と言った。


「時間?」


「知っていく時間。
 見極める時間。
 考える時間。
 話を聞いている限り、お前、いままで男とも女ともあまり関わってこなかったんだろう。
 慣れていれば直感で判断できることも、慣れていないなら時間がかかるのは当然だ。
 その時間を与えようとしない奴らが悪い」


「う、うん…………」


「だから、待たせればいい。
 待てないやつは自分のことしか考えてないから、どのみちさっさと離れる」


「な、なるほど…………?」




 待たせればいい、って。
 それこそ『※ただしイケメンに限る』案件じゃないかと思ったんだけど。
 でも、僕に時間が必要なんだという鈴鹿くんの言葉は、すんなり腑に落ちた。
 ちょっと気持ちが軽くなる。
 鈴鹿くんて、良い奴だなぁ。




「ありがとう鈴鹿くん。ちょっと楽になった」


「そうか?」


「いやぁ本当に。鈴鹿くんがうちのサークルにもいればいいのにって思うぐらい」


「………いや、俺はサークルはちょっと………」


「そうなの?
 まぁ、面倒なときはあるけど、楽しいときは楽しいよ」






 ――――――そのとき、ただただお礼のつもりで言った言葉を、僕は後に、死ぬほど後悔することになる。






「もし気が向いたら、うちのサークル来てみてよ。
 歓迎するからさ」




   ◇ ◇ ◇

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