スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。
第1話 この世の地獄にいらっしゃい。
この世界には、見た目が10割という地獄がある。
◇ ◇ ◇
僕、神宮寺賢一郎は、物心ついた頃からその地獄の釜の底でジリジリと焼かれていた。
小学校。
中学校。
高校。
教室のなかのその地獄は、ずっと変わらなかった。
「この間、神宮寺に告られたんだけど、本当にキモくてヤバかったぁ!!」
「あいつ、あの見た目なのに、面食いだよねぇ。その上、見た目おとなしい系が好きってわかりやすすぎ」
「体大きいでしょ? 本当に恐くて、2人きりになんてなったら何されるかわからないから、友達3人ついてきてもらっちゃった」
「去年の○○さんの時は、明らかに告白だっていう呼び出し方されたから、無視していかなかったんだって。正解だよねぇ」
「同じ○組の陰キャだったらせめて、○○くんだったら良かったのにね」
気にしなければいい、とか、見て見ぬふりをすればいい、と、人は簡単に言うけれど。
どうしても聴こえてくるものを、どうしたら知らんぷりができるのか、それは誰も教えてくれない。
言葉にしてしまえば、きっとくだらない。
だけどどうしても消せない。
自分への絶望。
勝手に評価される憎しみ。
誰かへの嫉妬の炎。
どんなに勉強をがんばっても。
どんなに苦手な体育もがんばっても。
どんなに趣味を隠しても。
どんなに嫌われないように努力しても。
結局、僕よりも、容姿が良い誰かが選ばれる。
せめて、僕がもっと小柄であれば、恐がられることはなかっただろうか。
せめて、優しい顔立ちであれば。
せめて、もっときれいな二重まぶたであれば。
せめて、もう少し顎が短く丸ければ。
せめて、鼻の肉がもっと薄ければ。
せめて、唇がこんなに厚くなければ。
せめて、変なところにほくろがなければ。
せめて、髪にへんな癖がなければ。
朝起きたら、その、どれかひとつでも直っているような、奇跡が起きてほしい。
何度そんな不毛な願いをしただろう。
そのくせ、僕自身が惹かれてしまう。魅力的な女の子に。
自分が見た目で評価されて苦しんでるくせに。
恋なんて、厄介でどうしようもなく醜い。
消えてなくなればいいのに、消せなくて苦しい。
自分もまた誰かを顔で、見た目で判断してしまう。
そして、ふと、見た目で他人を選んでいる自分自身に、意識が戻った一瞬。
妬んだ誰かへの密かな呪いが、憎んだ誰かへの言葉にしなかった非難が、すべて僕自身に返ってくる。
ルッキズムの真の地獄はそこだと、僕は思う。
僕、神宮寺賢一郎は、キモい。
それは産まれてから18年間、動かしがたい事実だった。
そう、紛れもなく。動かしがたい事実のはずだったのに。
◇ ◇ ◇
5月のゴールデンウィーク明け。
18歳と4か月、大学1回生。京都の某大学。
スポーツサークルの活動中の、体育館の中。
いまの僕の目の前には、女の子たちがたくさんいる。
笑顔のキラキラした、かわいい女の子たちが。
本来は僕のことなど、視界の端に入ったハエぐらいにしか思わないはずの、かわいい女の子たちが。
「神宮寺くんって、本当に背が高いよねー」
「何センチあるの?」
「文学部なんだ! 何組? 私の友達と一緒かも!」
「どこ出身? わー近いよ! 高校時代にすれ違ってたかもね!」
「ねぇねぇ、第2外国語なににした? 同じ先生だったら一緒に勉強しない?」
悪魔に魂を売ったわけではない。
何か、おかしな薬で洗脳したわけでもない。
一体。
な に が ど う し て こ う な っ た 。
◇ ◇ ◇
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