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スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。

真曽木トウル

第3話 僕が素材だともっと限界がある気がしたけど。

「うん、やっぱあかんわ。
 ちょっとうちら、いろいろ間違えてる」




 ……しばらくして、腑に落ちたよ、という顔をして、水上先輩がうんうんうなずいた。




「いきなり知らんセンパイのうちに連れてくるのもあかんし。いきなり新ちゃんの持論に引きずり込むのも意味わからんし。新ちゃん、前段階から、ちょっとうちから話していい?」


「うーん……わかった、水上よろしく」




 カルトか過激派かはたまた、、、と警戒して新橋先輩から後ずさる僕に、ニコッと、水上先輩が笑顔を向けてくれた。


 和顔愛語わげんあいご、という言葉を、思い出す。
 優しい表情優しい言葉だけでも人を幸せにできるという仏教用語で、高校の倫理の授業で習った。
 一方、水上先輩の笑顔は、、、向けてもらえると確かに嬉しくなる。なのに、どこか不安にもなる。
 笑顔がかわいいから、好きになってしまったらどうしようと不安なのかも。やわらかくてふわふわな壊れ物みたいで、傷つけるのが恐いのかも。




「どこから話そうかな。
 ええとまず、新ちゃんはいま、結構モテるんよ」




 僕はうなずく。こんな陽キャな爽やか笑顔男子は、モテて当たり前だと思う。




「それはね、大学入ってからすごい努力してモテるようになってん」


「努力?」


「うん。
 うちの知るかぎり、スキンケアめっちゃしてニキビ治して美容院で髪型アレコレ試して、眉毛の形も試して、ダイエットして、ヒゲそりめっちゃいいやつ買って、服も……」


「ヒゲそり?」




 はて、と疑問に思った言葉を、僕はくりかえしていた。
 モテと、良いヒゲそり?
 なんの関係があるのだろう?




「あ、それね、ヒゲ嫌いな女子多いからねー。おんなじ顔でも、うっすらヒゲが残ってるか、ちゃんときれいに剃れてるかで印象が全然違うじゃん」




 新橋先輩が補足してくださる。
 ……そうなのか? 元々僕はヒゲが薄いので、あんまり意識していなかったけど……。




「あと、おっきい姿見、買ってたやんな」


「そう。かがまなくても全身見えるやつ!
 それで服と靴のバランスがしっかりわかるようになったんだよね」


「ファッション誌もだいぶ読んでたし」


「女子の意見も聞きまくったよー。ほんと、水上、あんときはありがとうね!」




(………………………………)




 段々僕の集中力が欠けてきたのだけど、それからも、新橋先輩は話を続けた。


 食事も規則正しく栄養バランスよくした!とか。
 爪の切り方も見直した!とか。
 足の爪もこまめに切るようにした!とか。
 病院にすぐ行くようにした!とか。
 風呂に入るときは必ず湯船にもつかるようにした!とか。
 睡眠時間の記録をつけて規則正しく寝るようにした!とか。


 それは、モテに関係あるのだろうか? と僕が疑問に思うようなことも含めて、新橋先輩がこれまでしてきたというたくさんの『努力』が、順次、新橋さんと水上さんの口から語られた。


「……まぁ、それで影響あったものもあり、なかったものもあり。色々試行錯誤した結果、いまの新ちゃんになってるわけやね」


「イケメンとまではいかないけどね」


 おっと、話が肝に入りそうだ。わりと聞きながしぎみになっていた僕は、あわてて意識を戻した。


「で、自分はそこそこモテるようになった新ちゃんは、ふと、思ったのね」


「『今の俺、他の男もプロデュースできんじゃね?』って。
 それで、『てゆうか、俺が素材だと限界あるけど、もっとのびしろある奴なら超イケメンにできんじゃね?』って、思ったわけ」


「……はぁ」


「そんなわけだ神宮寺くん。
 キミの見た目を俺たちにいじらせてくれ!!
 誰よりイケメンにさせてみせる!!!」




「…………………………………」




 えと。




 なんか聞いたことあるぞ、こういうの。
 芸能事務所のスカウトを装って、高額なレッスン料を振り込ませる……みたいな。


 ああ、そうか、単純な詐欺か。
 新橋先輩、いい人そうだったのに、残念だな――――。




「そこ、『詐欺か』って顔しない!」




 ぐにゅっ、と、僕の顔がゆがんだ。
 新橋先輩が、両手で僕の顔をはさみこんで自分の方を向かせたのだ。




「だって………」




 先輩、言っていることがおかしいです。
 僕の見た目を少しでもマシにするには、何よりも、僕の悪すぎる顔のつくりを、どうにかしないといけないはずなんです。


 決して形良くはない、犯罪者っぽいと言われる目とか。
 変に尖ったあごとか。
 我ながらため息が出るような鼻の形とか。
 キモいと言われる唇とか。


 新橋先輩がしたという努力は、何ひとつ、僕の問題を解決するものじゃない。


 身長が男のカッコよさ8割を占める?
 だったら、なぜ僕は、キモいと言われ続けたのでしょうか?




 ……先輩は、今までの僕が送ってきた人生のことを、何だと思っているのでしょうか。




「新ちゃん」




 水上先輩がたしなめるような声をかけた。




「え、あ!
 ごめん!
 泣くほど嫌だった!?」


「え……」




 いきなり、あわあわする新橋先輩。
 僕は、そのとき、自分の頬に涙がつたっていたことに気がついた。
 ごしごしと、自分の手で顔を拭く。そんな僕を見ながら、水上先輩がため息をついて、言った。




「まぁ、泣くほど嫌やったらしょうがないよ。
 新ちゃん。他の子に声かけよう?」


「うん。しょうがないな………」




(他の子?)




 水上先輩のその言葉を聞いた瞬間、ズキリと、心臓が突き刺されたような気がした。




「ごめんな、急に変なこと誘って……ん、神宮寺くん?」




 僕の心臓を突き刺した刃は、いつか僕が、誰かにかけた呪いだ。
 いつも。いつも。いつも。いつも。
 みんな、僕じゃない、他の誰かに、笑いかける。
 僕を、無視して。僕だけを無視して。
 他の誰かが、愛される。


 でも、ついさっきは違った。
 僕の、僕自身の選択で、僕じゃなく他の子に、と、決められた。




「あ…………」




 そうだ。新橋先輩も水上先輩も、他の子じゃなく、僕がいいと、声をかけてくれたんだ。理由はよくわからないけど、僕を、選んでくれたんだ。




「僕、あの…………」




 詐欺かもしれない。
 その疑いはまだ残っている。


 じゃあ、この人たちに騙されてもいいと、賭けられるか?


 いや、僕はもうすでに一度、サークルに入るという賭けをしたんだった。
 もう、賭けのテーブルに乗っているんだ。


 憧れた物語の主人公よりは、ずっとショボいけど、それでも、僕は、もう。




「今より、マシになりたいです」




 ――――そう言ったとたん、何故か新橋さんに抱きしめられた上においおい泣かれたのだけど、それには若干引いてたのは内緒で。


 それからゴールデンウィーク明け予定の新歓コンパを目指して、僕は毎日、新橋先輩と水上先輩に会い、『モテるため』ではなく、『見た目を今よりマシにする努力』を積み重ねることになった。




   ◇ ◇ ◇

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