スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。

真曽木トウル

第5話 客寄せパンダの初陣。

   ◇ ◇ ◇




「ごめん、もーちょっと、じっとしててな?」


「…は、はい……」


「うーん。
 意外と眉毛、太くて濃いんよねー」




 水上さんのひとりごとを聞きながら、冷や汗をかきながら、僕は、じっとしていた。


 なぜかサークルの部室の中、水上さんと僕の2人きりだ。
 目をつぶって座りながら、ただ時折眉に走る痛みに耐える。
 痛みがマシになるようにとのことで、お湯を絞ったタオルで温めてから眉毛を抜いてくれているのだけど、慣れないし、やっぱり痛く感じる。




「基本的に、眉毛って抜かへんほうがいいっていうけど、神宮寺くんの生え方ちょっと面白いから、まぶたとか、端のほうだけ抜いてくな?」


「はーい……」




 面白い生え方、って一体なんだろう?


 眉毛については、いままでいじったことがないわけじゃない。
 中学の頃、一念発起してがんばって整えようとしたことがあった。
 だけどそうしたら、突然担任の先生に呼び出しを受けて面談になってしまった。非行のきざしでは、と疑われたらしい。
 他にも眉を整えてる男子はたくさんいたのに、何で僕だけ、とか思ったり。やっぱり醜男がやると目立つのかなぁと、暗ぁい気持ちになったり。


 たまたま目立っただけだったのかもしれないけど、眉にしろ髪にしろ、校則で見た目をいじれないのは、僕のように生まれつきのものがダメな人間にとっては、人生への諦めを強くするものだったなーと、いまの僕は思う。




(……でも、水上さんや新橋さんは、僕のこと、肯定してくれる)




 特に水上さんと話していると、心が穏やかになって、なんだか、ふわっとこどもの頃を思い出したりする。


 そうだ、ずっと忘れてたけど、こどもの頃は、おじいちゃんおばあちゃんにかわいいって言ってもらえたんだった。
 小学校にあがったらうっとうしくて嫌だと言ってしまったけど、もっと素直にお礼を言っておけばよかった。。。
 僕の人生、黒歴史だけじゃなかった。




「抜くのは終わり。じゃ、次はブラシ」


「あ、はい……ブラシ?」


 髪じゃないのに、ブラシ?
 と、目をつぶったまま、僕が首をかしげると「目、開いて」と、水上さんが声をかけてきた。ゆっくり目を開くと、人形の櫛?のような小さなものを、水上さんが摘まんでいた。


「これで、眉毛の毛流れを整えます。
 で、ハサミで切って整えます」


「へ?は、はい……」


 眉毛の毛流れ。
 なんかすごいパワーワードを聞いた気がしながら、僕は、また目を閉じて、自分の眉毛を水上さんの手にゆだねた。さく、さく、と、確かに眉毛がとかされているのを感じる。なんだかマッサージみたいでとても気持ちいい。
 その後、ちょんちょん、と眉毛が引っ張られるのを感じる。ああ、これがハサミで切るってことか。


 ――――――あれ? もしかして、いまかなり水上さんと近いのでは?


 突然いまさらなことに気づいて逃げ出したくなるのを我慢したり。
 やっぱり、いくら信頼している相手とはいえ、ひとの前で目を閉じ続けるのは、ちょっと怖いなと思ったり。
 そんなこんなで、ずいぶん時間が経過したような気がしたとき。


「よーし、できたよー。
 目、あけてー」


 水上さんに声をかけられ、ちょっとおそるおそる目を開いた。


「見てみて」


 鏡を差し出され、ちょっと恥ずかしい思いで受けとる。
 不相応にカッコよく整えられた髪型が目に入る。
 そして、なめらかできれいな形にしてもらった、眉。


 あ、全然印象が違う。ずいぶんと切った?


「もともとの形はそんなにいじってないよ。
 はみ出してる毛だけ抜いて、骨格に沿って整えた感じ。
 ちょっと伸びすぎてたみたい」


「は、はい……」


 ずいぶんマイルドに言ってくれているが、要はゲジ眉だったということですね?


「あ、ありがとうございます」


「まだ、ちょっと待って。保湿保湿」


「ほしつ?」


「ちゃんとしたやり方を、今回調べてん。
 そしたら、毛を抜いたら保湿がいるねんて」


 そういって化粧水の瓶と保湿クリームをバッグから取り出す水上さん。指先に化粧水をつけて……
(いや、近い近い近い近い……)
 目の前に近づいていた水上さんに、僕は目を閉じる。
 指が僕の眉をぺたぺたと撫でていく。
 左右の眉が終わると、今度はまた違った感触が触れる。


「うん。保湿も終わり」
「ありがとうございました」


 ぱちりと目を開けると、水上さんはすでにある程度僕と離れていた。それを見て、やっと終わった、という解放感とともに、からだがどっと重くなった気がした。


 ―――――見た目をマシにする、というのは、試練の連続だ。




「じーんぐーうじー?」




 ぱたん、と部室のドアが開かれて、新橋さんが顔を覗かせた。


「今日、看板もちやってくれる?」


「あ、はい! 了解です」


 今日は、ゴールデンウィークの連休前最後の練習日。
 他のサークルはわりともう、新入生の勧誘活動を終了しているところも多かったけど、うちのサークルはまだ僕をいれて3人しか入部していなくて。僕は勧誘を手伝う側になっていた。


 新入生のための集合場所を設けて、SNSやチラシで告知、そしてその集合場所に、サークルの名前を書いた看板を誰かが持って立って目印とする。
 その看板もちを、今日は僕が頼まれた。


 大丈夫かなぁ、という心配もありながら、僕は、身長ほどの高さのあるサークルの看板を持って、体育館横の食堂の前へと向かった。


   ◇ ◇ ◇


(やってみると、これ、結構恥ずかしい…………)


 人通りの多い場所で看板を持って立っていると、大体通りすがりの人がこちらを見てくる。
 恥ずかしい。
 なんだか、めっちゃ恥ずかしい。。。


 新橋さんは横で、いい笑顔でチラシ配りしてたりするけれど、1回生と3回生の差というより、コミュ力の差だと思う。僕も、笑顔で声かけとかしたほうがいいんだろうか?


「神宮寺くん、背中」


 ぽん、と、水上さんに背中を叩かれた。「体に悪い姿勢になってんで?」


「………すみません………」


 猫背が体に悪い、と言われると、言い返しようもないのだけど。
 なんとなく、不細工がこんなとこ立ってんなよと思われてるんだろうなという思いが、目線を下に向けてしまう。
 ん、下に………


 目線を向けていたら、ふと、通りすがりの女の子と目が合った。
 しまった。キモがられる!
 まずい、と思いながら、ふいっ、と、横に目をそらす。


 そらした先で、また女の子と目が合う。え、何これ!?
 そうか。僕がやや下を見ているから近くの女の子と目が合うんだ。


(ああもう……)


 消えたい逃げたい死にたい消えたいと、頭のなかを今までの人生の恥走馬灯が駆け巡る。


 そのとき。


「……あのう………」


「ふぇ!?」


 目があった女の子に、声をかけられた。
 僕より頭ひとつぶん以上小柄な、かわいらしい子が頬を赤く染めて。


「見学、したいんですけど」


「ああ、はい!
 あの、ありがとうございます!」


 なんと、見学希望者だったのか。
 それならこっちを見ていてもおかしくないし、目もあうだろう。
 よかった。それなら、キモがられない程度に距離を取りながら親切にしなきゃ。
 和顔愛語、和顔愛語………。




「私も、見学したいです!!」




 ――――と、横から、元気のいい女の子の声が飛んできた。
 すごいすごい。
 ゴールデンウィーク前のこの時期に、ふたりも見学者がくるなんて。
 僕も、看板もちとして、役に立ったのかも。
 ちょっと嬉しくなった僕は、顔をあげた。


 その時、僕の視界に入ったのは。


 僕の前に並ぶ、10人近い女の子たちの姿だった。










 ――――――――はい?




   ◇ ◇ ◇

「スクールカースト最下層がイケメンに魔改造されたけど、恋愛スキルを誰かください。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く