Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す
(8)少年が牙を剥くとき
◇ ◇ ◇
「埼玉県警の最寄りの署の夜勤の人たちに連絡が取れた。
大人がいないということは夜中のうちに動きはないはずだから、朝一でやってくる応援を待って、彼らと接触しましょう」
車のなかに戻り、必要な手配のためとおぼしき電話を終えた覇華は、二人にブランケットを手渡して、カーナビのスイッチを入れて検索に入る。
「この近くに、朝まで少しでも横になって休めるところがあるといいんだけど……カラオケとかなら大丈夫かな」
「今から運転する気ですか?」
「ん?だって、一般人を車のなかで寝させるわけにもいかないでしょ」
「牧ノ瀬さんも少し休んだ方がいいんじゃないでしょうか?」
首筋にヒヤリと当たる感触に驚いたのか覇華は後ろを振り返り、シュウが差し出していた缶コーヒーに気づいたようだ。
「疲れているでしょう?」
「あ、うん、ありがとう……いつの間にコーヒーなんて」
覇華は缶コーヒーを受け取って、前に向き直る。「頂きます」と言って飲み始めた。
シュウは美湖にも缶コーヒーを渡し、自分でも1本、開けた。
「……噂には聞いていましたが、本当にすぐに協力を得られるんですね」
「ん?」
「牧ノ瀬さんが手柄を立てられるのは、個人のスタンドプレーじゃなく、各部署との情報共有と協力を誰よりスムーズに行えるからだと。
それは都内だけじゃなかったんですね。
こんな深夜に、現行犯でもないのに協力を依頼して朝に手配できるなんて人は、他にいないでしょう?」
「……んー。それは誉め言葉じゃ、ないな」
「え?」
ごくん、とまた覇華が一口缶コーヒーを飲む音がした。
「警官だって人間だよ。
ふつーの会社で考えてみてよ。
みんな仕事終わって、それぞれ、明日はどういう仕事をしなきゃって、スケジューリングとか心づもりとかして帰るでしょう。
自分が眠ってる夜中に急に事情が変わって、起きるなり上司からの指揮で駆り出されるんじゃ、キツいよ。
そのぶんすべきだった書類仕事なんかは、深夜まで残って処理しないといけなかったりするからね」
「……なにそれ。……警官のくせに」
美湖が呻く。「今ひどいめに遭ってる人間がいるのに……!! のんきすぎるよ!!」
そういう言葉も言われなれているのだろう。
軽くうなずいて、覇華は続ける。
「もちろん、警察官だっていう使命感はそれぞれにみんな持っている。
だけど、同じ意識を、そのままみんなに当てはめられる訳じゃない。
みんな家族もいる。人間関係もある。赤ちゃんがいたり、子供のお迎えが必要な人もいる。親の介護が必要な人もいる。
警察官なら、その使命のために自分の人生を犠牲にしろ……なんて、誰にも言えないんだよ。本当はね」
「……………」
美湖は返す言葉が見つからず、うつむく。覇華は続ける。
「縦割り構造や無駄な縄張り意識を何とかしたい、そう思っている人たちはたくさんいるけど。
何とかしようと動き出せば、その少数の人たちに負担がかかる。
私の班の部下の子たちや、私が声をかけて協力してくれる人たちは、少なくとも、色々なものを犠牲にして、……上司に睨まれたり部下に恨まれたりしながら助けてくれる。
人を助けることができれば、……犯人をあげることができればそれでいい、ってね。
……助けてくれた人たちに何も返せていない若輩者の私が、誉められる理由は、何もないよ」
「だからって、非番の日にこんなところまで来ていただけるなんて」
シュウが口を挟んだ。
「俺からすれば、ありがたいとしか言えませんが」
「まぁ、……部下には、恨まれてるね、私も」
ふふ、と笑いながら覇華の上体がうつらうつらと揺れ始め、不意に、体がシートに沈んだ。
「な、何!?」
動揺して腰を浮かしかけた美湖を、シュウが手で制した。
「眠ってるだけだ」
シュウは、そう言いながら上体を、覇華のしなやかな体越しに運転席に伸ばし、運転席のキーを抜き取った。
「さ、行こうか」
「…………え?どこへ……」
「校舎だ」
美湖の手を掴んで、ぐっと引っ張って車外に引っ張り出す。
「手配は済んでるから、1時間と少しで俺の部下の方はここに来れる。
依頼のあった子供たちのうち該当する者がいたら、最短で交渉を終えて、俺が保護する。
皆、依頼は警察沙汰じゃなく、直接の保護だからな」
「……シュウくん……」
「妹の顔はお前が見て連れてくるんだ。他の兄弟もいればそのまま連れていく」
「…………缶コーヒーに、何か、入れたの?」
シュウは足を止めて振り返る。
恐ろしいものでも見るような表情で、美湖はシュウを見つめていた。
だが残念ながら、その顔を向けられるのには慣れている。
「それが何か問題か?」
「だって、刑事に……薬盛るなんて」
「それが俺の仕事だ。
怖じ気づいたなら車のなかで牧ノ瀬さんと待ってればいい」
わざと無視するように目線を外してつかつか歩き出すシュウ。
しばしの躊躇ののち、たたっ、と、追いかけてくる美湖。
「……あたし、怖じ気づいてなんかないよ」
「ふーん」
もはや興味無さそうに、シュウはすたすた先にいく。シュウの後ろを、パタパタと美湖は追いかける。
「美湖とシュウくんとの二人で、莉乃を助けられるか、……ちょっと不安なだけ。
ねえ、一体、どうするの?」
「……言ったろ。交渉するって」
「交渉……そんなこと、できるの?
攻撃してきたりとか、しないの?」
「そこは祈ってるんだな」
シュウは先に進み、いまや校門は目の前だ。
正面突破で行くらしい……。
美湖は進むのを躊躇する自分の足を二度、三度平手打ちして、シュウのあとを走って追いかけた。
◇ ◇ ◇
「埼玉県警の最寄りの署の夜勤の人たちに連絡が取れた。
大人がいないということは夜中のうちに動きはないはずだから、朝一でやってくる応援を待って、彼らと接触しましょう」
車のなかに戻り、必要な手配のためとおぼしき電話を終えた覇華は、二人にブランケットを手渡して、カーナビのスイッチを入れて検索に入る。
「この近くに、朝まで少しでも横になって休めるところがあるといいんだけど……カラオケとかなら大丈夫かな」
「今から運転する気ですか?」
「ん?だって、一般人を車のなかで寝させるわけにもいかないでしょ」
「牧ノ瀬さんも少し休んだ方がいいんじゃないでしょうか?」
首筋にヒヤリと当たる感触に驚いたのか覇華は後ろを振り返り、シュウが差し出していた缶コーヒーに気づいたようだ。
「疲れているでしょう?」
「あ、うん、ありがとう……いつの間にコーヒーなんて」
覇華は缶コーヒーを受け取って、前に向き直る。「頂きます」と言って飲み始めた。
シュウは美湖にも缶コーヒーを渡し、自分でも1本、開けた。
「……噂には聞いていましたが、本当にすぐに協力を得られるんですね」
「ん?」
「牧ノ瀬さんが手柄を立てられるのは、個人のスタンドプレーじゃなく、各部署との情報共有と協力を誰よりスムーズに行えるからだと。
それは都内だけじゃなかったんですね。
こんな深夜に、現行犯でもないのに協力を依頼して朝に手配できるなんて人は、他にいないでしょう?」
「……んー。それは誉め言葉じゃ、ないな」
「え?」
ごくん、とまた覇華が一口缶コーヒーを飲む音がした。
「警官だって人間だよ。
ふつーの会社で考えてみてよ。
みんな仕事終わって、それぞれ、明日はどういう仕事をしなきゃって、スケジューリングとか心づもりとかして帰るでしょう。
自分が眠ってる夜中に急に事情が変わって、起きるなり上司からの指揮で駆り出されるんじゃ、キツいよ。
そのぶんすべきだった書類仕事なんかは、深夜まで残って処理しないといけなかったりするからね」
「……なにそれ。……警官のくせに」
美湖が呻く。「今ひどいめに遭ってる人間がいるのに……!! のんきすぎるよ!!」
そういう言葉も言われなれているのだろう。
軽くうなずいて、覇華は続ける。
「もちろん、警察官だっていう使命感はそれぞれにみんな持っている。
だけど、同じ意識を、そのままみんなに当てはめられる訳じゃない。
みんな家族もいる。人間関係もある。赤ちゃんがいたり、子供のお迎えが必要な人もいる。親の介護が必要な人もいる。
警察官なら、その使命のために自分の人生を犠牲にしろ……なんて、誰にも言えないんだよ。本当はね」
「……………」
美湖は返す言葉が見つからず、うつむく。覇華は続ける。
「縦割り構造や無駄な縄張り意識を何とかしたい、そう思っている人たちはたくさんいるけど。
何とかしようと動き出せば、その少数の人たちに負担がかかる。
私の班の部下の子たちや、私が声をかけて協力してくれる人たちは、少なくとも、色々なものを犠牲にして、……上司に睨まれたり部下に恨まれたりしながら助けてくれる。
人を助けることができれば、……犯人をあげることができればそれでいい、ってね。
……助けてくれた人たちに何も返せていない若輩者の私が、誉められる理由は、何もないよ」
「だからって、非番の日にこんなところまで来ていただけるなんて」
シュウが口を挟んだ。
「俺からすれば、ありがたいとしか言えませんが」
「まぁ、……部下には、恨まれてるね、私も」
ふふ、と笑いながら覇華の上体がうつらうつらと揺れ始め、不意に、体がシートに沈んだ。
「な、何!?」
動揺して腰を浮かしかけた美湖を、シュウが手で制した。
「眠ってるだけだ」
シュウは、そう言いながら上体を、覇華のしなやかな体越しに運転席に伸ばし、運転席のキーを抜き取った。
「さ、行こうか」
「…………え?どこへ……」
「校舎だ」
美湖の手を掴んで、ぐっと引っ張って車外に引っ張り出す。
「手配は済んでるから、1時間と少しで俺の部下の方はここに来れる。
依頼のあった子供たちのうち該当する者がいたら、最短で交渉を終えて、俺が保護する。
皆、依頼は警察沙汰じゃなく、直接の保護だからな」
「……シュウくん……」
「妹の顔はお前が見て連れてくるんだ。他の兄弟もいればそのまま連れていく」
「…………缶コーヒーに、何か、入れたの?」
シュウは足を止めて振り返る。
恐ろしいものでも見るような表情で、美湖はシュウを見つめていた。
だが残念ながら、その顔を向けられるのには慣れている。
「それが何か問題か?」
「だって、刑事に……薬盛るなんて」
「それが俺の仕事だ。
怖じ気づいたなら車のなかで牧ノ瀬さんと待ってればいい」
わざと無視するように目線を外してつかつか歩き出すシュウ。
しばしの躊躇ののち、たたっ、と、追いかけてくる美湖。
「……あたし、怖じ気づいてなんかないよ」
「ふーん」
もはや興味無さそうに、シュウはすたすた先にいく。シュウの後ろを、パタパタと美湖は追いかける。
「美湖とシュウくんとの二人で、莉乃を助けられるか、……ちょっと不安なだけ。
ねえ、一体、どうするの?」
「……言ったろ。交渉するって」
「交渉……そんなこと、できるの?
攻撃してきたりとか、しないの?」
「そこは祈ってるんだな」
シュウは先に進み、いまや校門は目の前だ。
正面突破で行くらしい……。
美湖は進むのを躊躇する自分の足を二度、三度平手打ちして、シュウのあとを走って追いかけた。
◇ ◇ ◇
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