Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す
(5)“効率的に”
◇ ◇ ◇
「見事な首尾でしたね」
帰ってきて車に乗り込んだ三条弁護士……ではなく、牧ノ瀬覇華と美湖を迎えてシュウは言う。
耳に装着した盗聴機で、会話は一通り聞けていたようだ。
覇華はひっつめ髪のかつらを外して頭を振った。
「化粧は仕方ないとして、どこかで着替えられるかなぁ、この格好……蹴りが使えない」
ぐいぐいタイトスカートの裾を引っ張る覇華の横で、美湖が恥ずかしそうに、クレンジングシートで化粧を落とす。
それにしても……。
覇華は、シュウを横目で盗み見る。
二人が学校を欠席したのは大目に見るとして。
この青年の住所を彼が突き止めたのは、たったの1日たらず。
一体、何をどうやってシュウは住所を突き止めたのだろう?
「ちなみに、牧ノ瀬さんの、三条っていう偽名はどこから?」
「あ。東京にいない知り合いから、名字借りたの」
「………そうなんですね」
こくり、と思うところあるように、シュウは頷く。
シュウは覇華の思いつきの偽名から、偽の名刺もあっという間に作ってしまったのだ。
「……で、さっきの彼から聞き出したことなんだけど」
「俺が調べていた業者『イノセントエデン』と、木暮の妹の画像をばらまいていた業者『XYZ』。
この二つの業者のレーベルは、売れっ子以外でもキャストや撮影場所がかぶることがある、と」
「そう、それ以外の複数の業者でもね。
まぁ、その、今日話を聞いてきた男性は、小児性愛系のブロガー仲間と、ジュニアアイドルの本名や住所、撮影場所なんかを推測しあっていて…」
説明していて吐き気が一瞬したが、覇華は、こらえた。
「どうやら『イノセントエデン』の動画に出てくる子供たちは、派遣らしいと分析した」
罪悪感なのか、同情なのか。
青年は泣きそうな顔で、いや、途中から泣きながら、覇華にきかれたことを一生懸命答えていた。
それは、紛れもなくシュウのもくろみ通り『最短』で突き止めた情報だった。
膨大な時間を費やし、(そして良からぬ企みをもって)何百本と見て分析してきた愛好者の見解には……真面目な刑事がよってたかって捜査のために眉をひそめながら見ても、到底たどり着けなかっただろう…。
けれど、ブログを見ただけで、そんな青年を選定してみせたことまではまだしも、……美湖が訴えれば改心して聴取に協力すると、そこまでシュウは見越していたのか……?
「……そうすると、配信業者、撮影業者の他に、そういう、親元から離された子供たちを預かる専門の業者がいるってことになるのかな」
「まぁ芸能事務所みたいなものでしょうか。
木暮の妹がそこに一緒にいるなら、同時に解決できるんですが…」
「……効率的に解決したいんだ」
「なにか?」
「ううん……」
覇華は思わず口にしかけたモヤモヤを飲み込んだ。
本当に彼は……言葉の面では気遣いというものが無さすぎる。
これでよく、あのたくさんの女の子たちがついてくるものだ。
「話を聞いていた限りですが……その、性犯罪者予備軍の連中は、子供たちを派遣してる業者の方の所在はわからなかったんですか?」
「推測はしたけれど……その、掲示板上で上がってきたのは『失敗報告』ばかりみたい」
「『失敗報告』
……つまり、狙った子供を襲えませんでしたってことですね」
「…………うん」
覇華がわざとぼかしていたせいで今まで少し話についてこれていない顔をしていた美湖が、目を見開いた。
そう、掲示板上でAV出演の子供たちの住所を特定しようとした連中のうち……
いくらかの者は、その子供たちに実際に歪んだ欲望を向けようと考えていたのだ。
昨今『こどもを守る』という名目で親世代の話題に上ったのは、美少女絵の絵本がいかがなものかという議論。少女にも人気の美少女キャラへの批判。人気キャラのフィギュアの下着がどうかという議論。
心のなかは自由。議論ももちろん自由。
だけど。なんだか、同じ国に住んでいるとは、時々思えないときがある。
「もちろん、彼らも捜査対象にするけど。
今回の件が片付かないうちは大きく動けないのがつらいね…。
あ、そうだ、コレ」
覇華はバッグの中から複数枚のディスクを取り出した。
「配信はしていない、通販限定の内容のDVDだって。
何かの参考になればってことで、最近のものをくれた。
あとから、私の偽事務所あてに、家にあるDVD全部送ってくれるって」
「……通販限定?
いまどきアナログなことしますね?」
「そうでもないでしょう。内容的に……より、酷いものの場合」
「いずれにしろ捕まる代物ですけどね。
まぁ、それで値段を釣り上げるということもできるんでしょうけど……」
そう言ってなんでもないことのように車内のノートパソコンにDVDを挿入しようとするシュウに、覇華は慌てて手を掴んで止めた。
「何やってるの、美湖ちゃんがいるのに……」
「再生するわけじゃありませんよ。情報を見るんです」
「情報?」
シュウが少しキーボードをいじくると、画面にぞろぞろと数字と文字列が並んだ。
「撮影された時の位置情報を見るの?
でもさすがに、GPSはオフにしてるんじゃ……」
最近のカメラにGPS機能がついていて、動画や静止画に位置情報をつけることができるのは覇華も知っている。
とはいえ、さすがにこんな業者がそんなヘマはしないのではないだろうか?
「位置情報がなくても、他にも色々と情報ってついてくるものですよ。
  ほら撮影日時、カメラのメーカーに機種、最終更新日時に加工したソフト、作成者の名前まで」
「作成者の名前……、これ?」
「そうみたいですね」
その名を口にするのをはばかった覇華は、ちらりと美湖の方を見るが。
ためらわず美湖はシュウの手元の画面を覗きこんで。
「作成者……"kogure"」
そこに表示された作成者の名前を、驚くほど淡々と読み上げた。
「見事な首尾でしたね」
帰ってきて車に乗り込んだ三条弁護士……ではなく、牧ノ瀬覇華と美湖を迎えてシュウは言う。
耳に装着した盗聴機で、会話は一通り聞けていたようだ。
覇華はひっつめ髪のかつらを外して頭を振った。
「化粧は仕方ないとして、どこかで着替えられるかなぁ、この格好……蹴りが使えない」
ぐいぐいタイトスカートの裾を引っ張る覇華の横で、美湖が恥ずかしそうに、クレンジングシートで化粧を落とす。
それにしても……。
覇華は、シュウを横目で盗み見る。
二人が学校を欠席したのは大目に見るとして。
この青年の住所を彼が突き止めたのは、たったの1日たらず。
一体、何をどうやってシュウは住所を突き止めたのだろう?
「ちなみに、牧ノ瀬さんの、三条っていう偽名はどこから?」
「あ。東京にいない知り合いから、名字借りたの」
「………そうなんですね」
こくり、と思うところあるように、シュウは頷く。
シュウは覇華の思いつきの偽名から、偽の名刺もあっという間に作ってしまったのだ。
「……で、さっきの彼から聞き出したことなんだけど」
「俺が調べていた業者『イノセントエデン』と、木暮の妹の画像をばらまいていた業者『XYZ』。
この二つの業者のレーベルは、売れっ子以外でもキャストや撮影場所がかぶることがある、と」
「そう、それ以外の複数の業者でもね。
まぁ、その、今日話を聞いてきた男性は、小児性愛系のブロガー仲間と、ジュニアアイドルの本名や住所、撮影場所なんかを推測しあっていて…」
説明していて吐き気が一瞬したが、覇華は、こらえた。
「どうやら『イノセントエデン』の動画に出てくる子供たちは、派遣らしいと分析した」
罪悪感なのか、同情なのか。
青年は泣きそうな顔で、いや、途中から泣きながら、覇華にきかれたことを一生懸命答えていた。
それは、紛れもなくシュウのもくろみ通り『最短』で突き止めた情報だった。
膨大な時間を費やし、(そして良からぬ企みをもって)何百本と見て分析してきた愛好者の見解には……真面目な刑事がよってたかって捜査のために眉をひそめながら見ても、到底たどり着けなかっただろう…。
けれど、ブログを見ただけで、そんな青年を選定してみせたことまではまだしも、……美湖が訴えれば改心して聴取に協力すると、そこまでシュウは見越していたのか……?
「……そうすると、配信業者、撮影業者の他に、そういう、親元から離された子供たちを預かる専門の業者がいるってことになるのかな」
「まぁ芸能事務所みたいなものでしょうか。
木暮の妹がそこに一緒にいるなら、同時に解決できるんですが…」
「……効率的に解決したいんだ」
「なにか?」
「ううん……」
覇華は思わず口にしかけたモヤモヤを飲み込んだ。
本当に彼は……言葉の面では気遣いというものが無さすぎる。
これでよく、あのたくさんの女の子たちがついてくるものだ。
「話を聞いていた限りですが……その、性犯罪者予備軍の連中は、子供たちを派遣してる業者の方の所在はわからなかったんですか?」
「推測はしたけれど……その、掲示板上で上がってきたのは『失敗報告』ばかりみたい」
「『失敗報告』
……つまり、狙った子供を襲えませんでしたってことですね」
「…………うん」
覇華がわざとぼかしていたせいで今まで少し話についてこれていない顔をしていた美湖が、目を見開いた。
そう、掲示板上でAV出演の子供たちの住所を特定しようとした連中のうち……
いくらかの者は、その子供たちに実際に歪んだ欲望を向けようと考えていたのだ。
昨今『こどもを守る』という名目で親世代の話題に上ったのは、美少女絵の絵本がいかがなものかという議論。少女にも人気の美少女キャラへの批判。人気キャラのフィギュアの下着がどうかという議論。
心のなかは自由。議論ももちろん自由。
だけど。なんだか、同じ国に住んでいるとは、時々思えないときがある。
「もちろん、彼らも捜査対象にするけど。
今回の件が片付かないうちは大きく動けないのがつらいね…。
あ、そうだ、コレ」
覇華はバッグの中から複数枚のディスクを取り出した。
「配信はしていない、通販限定の内容のDVDだって。
何かの参考になればってことで、最近のものをくれた。
あとから、私の偽事務所あてに、家にあるDVD全部送ってくれるって」
「……通販限定?
いまどきアナログなことしますね?」
「そうでもないでしょう。内容的に……より、酷いものの場合」
「いずれにしろ捕まる代物ですけどね。
まぁ、それで値段を釣り上げるということもできるんでしょうけど……」
そう言ってなんでもないことのように車内のノートパソコンにDVDを挿入しようとするシュウに、覇華は慌てて手を掴んで止めた。
「何やってるの、美湖ちゃんがいるのに……」
「再生するわけじゃありませんよ。情報を見るんです」
「情報?」
シュウが少しキーボードをいじくると、画面にぞろぞろと数字と文字列が並んだ。
「撮影された時の位置情報を見るの?
でもさすがに、GPSはオフにしてるんじゃ……」
最近のカメラにGPS機能がついていて、動画や静止画に位置情報をつけることができるのは覇華も知っている。
とはいえ、さすがにこんな業者がそんなヘマはしないのではないだろうか?
「位置情報がなくても、他にも色々と情報ってついてくるものですよ。
  ほら撮影日時、カメラのメーカーに機種、最終更新日時に加工したソフト、作成者の名前まで」
「作成者の名前……、これ?」
「そうみたいですね」
その名を口にするのをはばかった覇華は、ちらりと美湖の方を見るが。
ためらわず美湖はシュウの手元の画面を覗きこんで。
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そこに表示された作成者の名前を、驚くほど淡々と読み上げた。
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