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Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す

真曽木トウル

(4)《予備軍》の贖罪

   ◇ ◇ ◇


 平日の昼。
 お楽しみのDVD鑑賞中に、突然チャイムがなり、独り暮らしの青年は慌てて再生を停止し、テレビの電源を落とした。


 ちょうど画面の中の美少女が、悪漢の餌食になろうとしているところだ。
 ヒロインの泣き叫ぶ声がドアの外まで漏れていなかっただろうかと、ひやひやする。


「はい、ちょっと待ってくだ……」


 ドアの覗き穴から来客の姿を確認して、青年は言葉を失った。


 いままさに画面の中で処女を奪われようとしていた美少女が、そこにいる?


 思わず目を覗き穴から離して、そこからもう一度、おそるおそる目を近づけた。


 可愛らしい少女だ。
 よく見ると、先ほどのDVDに出演した美少女とは別人だ。
 より幼い感じ。


 それも12、13歳ほどだろうか…?


 もちろん、こんな美少女の知り合いなどいない。
 訪ねる家を間違えたのか、それとも……


 不審に思いながらも、健気にこちらが出てくるのを待っている美少女を無下にすることもできず。
(若干……の下心の存在も否定できず)


 青年はドアを開けた。


「あの……」


「なに?君は……」


「あの……お兄さんがブログに掲載した写真の件なんですけど」


「え!?」


 一瞬で警戒モードに入って青年がドアを閉めようとするのを、ガッ、とすごい力で止める手が、あった。


「!?」


 無理矢理ドアを開いた手の主を見ると、かっちりしたスーツを身にまとったうら若い女で、長い髪を後ろできちりとまとめ、眼鏡をかけている。


 ストッパーの如くドアにかけたハイヒールの脚線美がなまめかしいが、それだけに、彼女がただ者ではないと予感させた。


「こんにちは。
 私、松方会直系海神組の顧問弁護士を勤めさせて頂いております、三条花枝と申します」


 にこり、と隙のない笑みを浮かべ、三条を名乗る女が名刺を差し出してくる。


「こちらは組長のお嬢様です。少し、折り入ってお話が……」


 ずかずかと上がり込んだ女と、ちょこたりとついてきた少女を目の前に。


 自分の汚い部屋の畳に正座する女二人と、緊張のあまり目をあわせることもできず。


 ただ話を聞くまま聞くと……


 誰にも内緒でやっている、青年のブログに、一昨日掲載した、幼女の写真。
 あるアダルトソフトの購入特典。


 その被写体の女の子が、なんと、海神組よりも遥かに格上の、とある、やくざの超大物の孫なのだと言う。


「堅気の娘夫婦のもとにいたので会わないようにと気遣っていたのが、逆に仇になってしまったと言いますか……どうやらお嬢さんの夫がとんでもない男のようでして」


 『三条花枝』が切々と語る。


「その御仁は大変お怒りで、もう、その制作元だけじゃなく、販売業者や、画像を手元に持っている方を、探しだしてすべて皆殺しにせんばかり……
 まぁ、勝手にそんなことをしたら、こちらをシマにしている組と大戦争ですからね。
 どうか、指を詰めさせるぐらいで済ませてくださいと、いさめてはいるところなのですが」


 青年の、握りしめた拳の中に冷や汗がこもる。震えをごまかそうと足を崩すと、膝ががくがくとした。


「それに……早くその子を助け出してあげるのが先決だから…」


 美少女がおずおずと口を開いた。


「……私のお父さんも、そのおじいさんにはとてもお世話になっていて。
 その子とも昔遊んだこともあるんです。そんなことやらされてるなら、早く連れ戻してあげたいんです」


「……そ、そう……」


 そんなことやらされてるなら。
 切実な訴え。本当に。わかる。けど。


 青年からしてみれば………お前たちみたいな変態のせいでそんなことやらされてるんだと責められているようなこころもちで、いたたまれなくなってしまう。


(僕だって……もっと“普通”にうまれたかったんだ。けど……)


 きりきり心臓をカッターで切られるような痛みに耐えられなくて。




「……やらされてる、ん、だって。
 なんで、わかるの……?」




思わず言い返してしまう。


「……だ……だって、親が望んだことなんでしょう?
 親を喜ばせたくて、それに従ったなら、それは子供本人の意思なんじゃないですか?
 やらされてるなんて、そんな……」


 殺されるかもしれないと思いながら、口が勝手に言葉を吐き出していた。


 耐えられなかった。丁寧な言葉の向こうに隠された、『性犯罪者予備軍』の自分を責める視線が。


「え、AVが規制されてる国って性犯罪も多くなるって言うじゃないですか。い、いわば性産業はガス抜きなんですよ。
 この、少数の女の子たちが犠牲になってくれることで、もっと多くの性犯罪が未然に防がれて……だから僕も、……その……」


 だから自分はまだ、直接女の子に強制猥褻行為に及ばずに済んでいるのだと。
 そう、言おうとしたけど、続けることは出来なかった。


 大きな目に涙をためて、少女がこちらを見つめていたからだ。


 先ほど、この少女を、画面のなかで襲われている美少女に似ていると思った。


 あの美少女の涙は、かわいそうだけど、どちらかというとより倒錯した興奮を増すスパイスだった。


 けれど、今この目の前で自分に向けられたこの眼差しは……。


 耐えきれず目をそらしたとき。




「……本当に、そう、思いますか?」




 少女の震える声が、追い討ちをかけた。




(~~~~~~~~~~!!!)




 ああ、知っている。


 たとえばセックスや猥褻行為を本人が承諾したとして、だからそれが本人の意思だ、望んだことだなどと、暴論に過ぎないと。


 本当は、知っている。


 あのDVDの、1シーン1シーンを撮るためになされたことで……あの女の子は、きっと人生が変わってしまう。
 写真のあの子も、大きくなってからその意味を知るんだ。






「…………………………ごめん、なさい」








 口パクのような、蚊の鳴くような声で、青年は目の前の少女に呟いた。






「……僕に……出来ることなら、
 なんでも……協力、します……」






 うなだれ、両の手を床について、頭を下げる。
 精一杯の、懺悔だった。




   ◇ ◇ ◇

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