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Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す

真曽木トウル

(12)りえるの今

   ◇ ◇ ◇


「………そんな風に、シュウに助けられて。
 それからはまず、えーと、バイトしながら高卒認定試験受けたでしょ?
 で、資格をとって就職」


 ありえる、改め、りえるからの、牧ノ瀬覇華への身の上話も、段々終わりに近づいている。
 覇華は終始うなずき、りえるの目を見ながら、しっかりと話を聞いていた。


「……へぇ。じゃあ、就職してからは、お金の価値が身に染みたんじゃない?」


「とか、たまに聞かれるけど、まったく逆」


「え?」


「どんだけ援交が割に合わない仕事かって身に染みた。
 そりゃ、多いときは2万とか、たまに3万とか、もらったりするけど、客のすっぽかしも多いし、金バックレられたり、襲われたりするし」


「う、………そういう事件も、あるね」


「刑事さんは事件として表に出たものしか知らないだろうけど、あたしはわりとひんぱんだった。
 普通にできたとしても、アレ超病むから、そのあと飲まないとやってらんないし、毎日とか絶対できないし。
 バイトは時給安かったけど、それでもふつーに8時間とか働けるし、体ダルくなかった。
 で、就職したら、こんな給料もらえんだ!?って、時給計算して驚いたもん」


「……………………」


 女刑事は突っ込みづらそうな顔をしているが、これはりえるの偽らざる本音だった。


 売春は、裸にさえなれば稼げる、ということではない。
(いや、そういう男女も、ある程度恵まれた環境であれば、いるのかもしれないけれど)


 多くの女にとって売春は、裸にならなければ稼げない、と、洗脳され、あるいは自らを洗脳することだと今は思う。
 それ以外の自分の可能性に目を閉じ耳をふさいでいく過程なのだ。


「……九鬼くんが、女は売春さえさせれば稼げるっていうのは間違いだって海神組の若頭に言ってたけど」


「事実だよ。
 それをシュウが証明していく」


 シュウは希望だ。
 少なくとも、ありえるの周りで唯一の、世界を変えられる男だ。
 だから、シュウは潰されちゃいけない。


「ほら、わかった? あたしは自分の意思でここにいて、シュウを守りたいって。
 外から見て、この生活は変に見えるかもしれないけど、洗脳とか何もされてないよ?」


 りえるが肩をすくめると、女刑事はこちらをじっと見てきた。


「……何?」


「警察行った?」


「え?」


 一瞬、覇華が何を言ったのかわからず、彼女の顔を見つめるりえる。


「強制性交の時効は10年。もう親告罪じゃないから問題なく引っ張れる。
 もし……私は許せないけど、九鬼くんの顔を立てて、海神組の奴らは見逃すのだとしても。
 今まで、不当にあなたを扱ってきた犯罪者たちを、裁かずにいて……
 ……あなたの心は悲鳴をあげないの?」


 意味がわからない。そんな過去のことで?
 りえるの思いを知ってか知らずか、覇華は淡々と続ける。


「それに、あなたは自分の心をケアしてあげてきた?」


「……っ、別に。フラッシュバックで暴れたなんていうのは作り話だし。
 トラウマなんかない」


「悔しくて許せなくて忘れられないとか、自分なんて価値がない、って気持ちが、拭えなくてぐるぐるしてることない?」


「………………」


「こうしたいのに脳がいうことをきいてくれない、脳がしんどい、そんな感覚とか」


「……!!!」




 怖さは今でも残ってる。


 殺人鬼になって、あいつら一人一人、むごたらしく殺せれば、きっと解放されるんじゃないかって、夢想したときもあったけど。


「……九鬼くんに迷惑をかけたくないなら、自分の心のメンテナンスを大事にした方がいいと思う。
 私は今まで、本当にたくさんの、性犯罪からのサバイバーに会ってきた。
 ひとつ言えるのは、その傷を甘く見てはダメということだよ」


「傷………」


「被害だと思っていたら生きてはいけなかった。だから前を向き続けてた。
 それはあなたの強さでしょう。
 でも、どんな人間でも、根性論や気を付けます注意しますですべてをうまくいかせることはできない。
 あなたに潰れられたら、それこそ九鬼くんがつらいんだからさ」


「…………」




 りえるは、深く息をついてうめく。


 お礼を言いたかった。
 だけど、親身すぎるアドバイスが、肌にまとわりついてくるような感触が気持ち悪くて。


「言うんじゃなかった。
 だから警察官は……」


 口はそんな言葉を吐いていた。嫌だ。なんでこんな言葉。ぐるぐるしかけた頭のもやをはらったのは、




「嫌ってもいいよ。私は九鬼くんのために言ったんだから」
という、牧ノ瀬覇華の言葉だった。




「………………」




 りえるは首を横にふる。
 これは、前を向くためのアドバイスだから。
 言おう。
 どうか、いうことを聞いて、この体。








「…………ありがとう、ございます」




 一番小さな、聞こえるかギリギリの声で、りえるはつぶやいた。




   ◇ ◇ ◇


第二話 了

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