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Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す

真曽木トウル

(11)胸を張れ

「お前たち」


 声がわり前の、少年の高い声が響いた。


「その銃、この場で出してみろ。池袋が新宿に攻められて戦争になるぞ」


「はぁ?何を言ってんだ?このクソがき……」


「2つ先の通りを渡ると、新宿に拠点を置く島木組のシマだ。
 海神組の所属する松方会の中じゃ、海神組の兄貴筋に当たるはずだな。
 お前らがそいつをここで出すってことは、海神組が島木組にその銃口を向ける意思アリって見られるってことだろう?」


「じょ、上等だ!!」


「俺たちゃ、そこのクソあまのせいで若頭に見放され、親父に破門されたんだ!!
 海神組がどうなろうと知ったことか!!」


「……なるほど」


 パチッ、と、シュウが指を鳴らした。


 すると、どこに隠れていたのかあれよあれよと見る間に警備員が集まってきた。
 それもよく見かける軽装の警備員じゃない。防弾ベストらしいものを皆、着け、さらにはタテらしいものまで持っている?




「な、なんなんだテメエら……!?」
「どこのモンだ、こらぁ!?」


 一人あたり、実に五人以上かかり、タテで押さえ込みながら物理的に拘束していく。
 喚く、元海神組組員たちをあっさりと捕まえ拳銃を奪取して、警備員たちは悠然と、男たちを連行していった。


 ホテルのなかの客があっけにとられて見ていたが、それはありえるも同じきもちだ。


「………………」


 ざわついていたロビーが、しだいに静寂を取り戻していく。


 その空気の落ち着きを確認し、シュウはありえるをふりかえる。


「よし、終わったな。じゃあ次は靴を……」


「なんで、海神組ってヤクザ、知ってたの?」


 ありえるの声が、震える。


「一緒に住む人間に対して、身辺調査もしないと思ったのか?」


 事も無げに、言うシュウ。


「……身辺、調査? どうやって?」


 勝手に調べられたことを怒るより、何を知られたのだろうと、考えるだに恐ろしかった。


「バイト先に電話しただろう?」


「あ……」


 あの携帯電話の履歴から、アルバイト先を調べたのか…?


「……殺されるかもしれなかったのに。
 よく闘ったな」


 すこしシュウの声音が優しくなったが、そんなことはありえるの慰めにならなかった。


「じゃあ、もしかして……シュウは、海神組のヤツらに会ったの!?」


「ああ」


「なら、色々もう、知ってるんだ……」


 りえるは思わず顔を覆った。
 今さらトラウマもくそもないけど、ソレを知られることだけは嫌だったのに。


 唇を彼女が噛んだとき。
 ぐいっ、と、シュウが強引にりえるの手を下に押し下げた。


「顔をあげろ」


 くいっと、あごをあげられ、背中をぐいっと伸ばされる。


「背中を伸ばせ。胸を張れ」


「……なっ、なに……」


 折れそうに細いこの腕のどこにこんな力があるのか。男の子だから? 抵抗しきれないりえるの顔を、てのひらで両側から挟んで、シュウは至近距離で見つめてくる。


 いまさら彼の切れ長の目が魅力的すぎることに気づいて、胸の奥、鼓動が跳ねた。
 中学1年。こども、なのに。


「卑屈になるな、久勢人魚姫。
 自分が悪いことと悪くないことをしっかり線引きしろ。そうすればお前の度胸は生きてくる」


 シュウはりえるの顔から手を離した。
 冷たい手が、なぜか、なごりおしく思えた。


「ごめんなさいを言えない人間が、どうして言えないかわかるか?」


「…………?」


「言うのが怖いから」


 子供にしては鋭いシュウの目に、さっきから捕らえられて、ありえるは逃げられない。
 それは、怖いから? それとも、魅いられたから?


「つまり。
 ごめんなさいと言って、そのまま、何もかも自分が悪いと洗脳されるのが怖い」


 りえるの心臓が大きな音を立てた。


「ごめんと言ったのをいいことに、相手が要求してくるのが怖い。
 自分の非を認め、自分が悪いことをしたと、あるいは、無能な人間だという事実に直面するのが怖い。
 ……自分が下等な人間なんだと、思わされるのが、怖い」


 シュウの挙げた例は、いちいちりえるにとって心当たりのあるものだった。


 怖い。……だから、ごめんを言ったら最後だと、固く信じてきた。


「だけど、お前には度胸があるだろう。
 死を覚悟してヤクザにケンカ売れるほどの度胸が。もとからない人間、もう失ってしまった人間じゃない。闘う力がある人間だ。
 だったら、乗り越えられないわけはない」


「ほんとう?
 ……いま、ものすごくくだらないことに、つまづいてても?」


「脈がないと思ったらとっくに放り出してる」


「…………ナマイキ」


 本当に放り出すとは思わないけど、ありえるのためにそういう言い方をしたのだと、誰が言わなくても腑に落ちていた。


 もしも恋におちた瞬間があったとしたら、その時だったんだろう。


「ああ、それで、海神組に会った件で、話がある」


「え……!?」


「若頭に会って話した。
 お前が押しつけられた借金は、すでにお前の同級生たちから回収したらしい。
 お前については、釈放と行きたいところだが、風俗店で客に怪我させたぶん落とし前をつけろ、ということだ」


 そう言って、シュウはポケットから何か紙切れを取り出した。領収証と書かれたそれには、6桁の金額が記入されている。


「つまり海神組の体面上、俺が50万でお前を買ったという形になっている」


「…………50万も、あいつらに払ったの?」


「お前なら、まともに働けばすぐ返せる額だと思ったからな。服と化粧品代はおごる。
 明日から職を探せ」


「…………50万、かぁ……」


 援交だと、一回1万として50回ぶん。
 高校生じゃないという理由で値切ってくる客もいるから、実際にしてみたら、結構な回数ぶんに当たると思う。


 そんな金額を、自分ならすぐ返せると、しかもまともな仕事でだと言われても、りえるにはピンとこない。こないのだけど。


 妙に、シュウに言われるとやれる気になってきた。


 いや。
 いま、やる気にならなければならないのだと、肚が決まったようだ。


 りえるは、顔をあげて、胸を張る。


「わかった。今日の服とかエステのぶんも含めて、利子つけて返してやる。
 あんたの買った服は背中を丸めて着たりしない。約束する」


 シュウは軽く眉をあげ、「いい返事だ」と返しながらわずかに口の端を持ち上げた。


   ◇ ◇ ◇

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