Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す
(9)突然の姫扱い
◇ ◇ ◇
「だから、なんでこんなシワになるんだって!?」
「干し方おかしいじゃんよ!?」
「おかしくない!?ちゃんとこれ拭いてんの!?」
「………………」
「なんだよ、お前がじょーしきないのが悪いんじゃん。ごめんなさいとかないの!?」
この家に住むのはシュウとさなこを入れてちょうど10人。
そとに出られず、家事をすることの多いありえるは、徐々にそんな感じで、他の女たちに詰め寄られることが多くなっていた。
家から親が出ていき、学費も家賃も払えなくなって高校をやめてからは、住むところもなくあちこち転々としてきたありえる。仲間のところに転がり込んだり、セックスと引き換えに男の家に住まわせてもらったり。
何人もの男に輪姦されることもあったけど、それを被害だと思っていたら生きていけなかった。
だから、自分が本当に常識がなかったのだということに直面して、自分より年下の女に指摘されたりして、恥ずかしくて死にたかった。
「………………」
ありえるは、人けがなくなった途端、壁を背にして、床に崩れ落ちた。
(……………)
家事などという、こどもが習うようなものすごく基本的なことであれこれ言われなければいけない自分。
それで、泣いている自分。
問題のレベルが低いほど、情けなくて。
こんなゴミみたいな女だから、何度も何度も肉便器にされるんだろうか。
鏡に映るすっぴんの自分の顔が、吐き気するほど不細工で。
こんな情けないことで泣いているところなんて、誰にも見せられない。
「…久勢?」
声をかけられて慌ててありえるは目元をこすった。シュウが、中腰でこちらを見下ろしていた。
シュウが、ありえるの横に座ってくる。
「……ち、近い」
顔を見せまいとシュウを押しのけようとする、ありえる。
シュウは気にせず、あぐらをかいた。
「久勢。
外、出ようか」
「……?」
急な言葉に、ありえるは戸惑った。
「私、すっぴんだし、服も早那子に借りてるし…、それに……」
「見つかりたくない奴もいるし?」
「…………!!!」
「中にずっといるだけだったら、服も化粧品もないままだろう?」
「……でもさ。お金……」
「大丈夫。生活費は全部早那子がつけてるから。
職についたら日割りで払え」
ぐいっ、と、ありえるの腕をつかんで、シュウは立たせる。
「行くぞ」
ありえるに拒否権はないようだ。
シュウの、すべすべした女よりも柔らかい手に、手を引かれ。
何日かぶりに外に…マンションの前に出て、ありえるは目を見張る。
テレビでしか見たことのない、艶光りする黒い大きな車が待っていた。
「…な、なに、これ……」
「ん、すっぴん気になるんだろ?」
「え……」
お抱え運転手っぽい制服を着た運転席の女性が、笑顔でシュウに会釈する。
「シュ……シュウ」
「…ん?」
「なに、この車?」
「ああ、少し大きなタクシーだと思え」
「いや……」
なるほど、シュウは、確かにものすごく金持ちのぼんぼんなのかもしれないが……
色々おかしくないか?
突っ込みたいことだらけで、感覚が段々麻痺してくる。
「で、化粧と服とどっちが先がいい?」
「……化粧……」
「了解」
◇ ◇ ◇
そのあとのことは、ひたすら突っ込みの嵐だった。
コスメショップか何かに行くのかと思ったら、いきなりエステにつれて行かれた。
すべてが艶ひかる高級サロンっぽい店内は、他に客がいなくて、びくびくと見まわしてしまったのだ。
全身エステの上、特に顔は念入りに、スチームをあてられ、じっくりじっくり、何かを塗られ触られマッサージなのかなんなのかされ。
次に鏡を見たときは、既に、え、誰コイツ? という感じに。
「若いのにずいぶん肌が荒れてたわねぇ。
十代のお肌なんて二度と戻らない宝物なんだから、絶対、ぞんざいに扱っちゃダメよ?」
そう、エステティシャンに諭され、ありえるはこくりとうなずく。納得したんじゃなく、圧倒されていたから。
その後、丁寧に顔の毛、眉を処理され、念入りに化粧を……された。自分で化粧はできなかった。
といっても、有無を言わさず上品な感じにされるのかと思いきや、いくつかの化粧のパターンを示されて選ばせてもらえた。結果、いい感じに濃く、かつ、ありえるがやるよりずっと綺麗にしあげられ、再び「え、誰コイツ?」感を味わうことになる。
次にそのまま、同じ建物の洋服の階に連れていかれた。
女性向けのいくつかのブランドのセレクトショップらしい。
確かに素材は上質そうで、ありえるが着るには少し大人っぽかったが、どれもオシャレで組合せしやすそう。
街中で着るにはこれはちょっと……っというものはひとつもなかった。
それはいい。
だが。
まったく値札がついていないという恐怖。
しかもそれで、まるで合計金額を気にせず、シュウは
「んじゃ、それとこれとこれとそれ」
「そこのハンガー全部」
とか簡単に言ってのけるので、ありえるとしては、非常に肝が冷えた。
◇ ◇ ◇
「ちょっとシュウ、これ…」
「ああ、買ったものは届けさせる。
荷物は気にするな。
ええと、次は…」
「じゃなくて…」
「あ、靴を忘れていたな」
「じゃなくて!!」
ありえるはシュウの顔をこちらに向けた。
「こんなに買っても、来ていくとこないっつーの。もったいないじゃん」
「こんなに?」
シュウは、買い物の山を見て首をかしげた。
「こんなに、っていう量か?」
「量だって!」
「そうか?
普通、女が家に置いてる服を全部引っ張り出したら、これぐらいは余裕であると思うぞ」
「…………」
それには同意しかねるけれど……。
そうだ。私、なにもかもまるごと置いてきたんだ…。
家はなくなって久しいけど、スーツケースとコインロッカーに詰めた服があった。
ああ、もう、コインロッカーのほうは捨てられてるんだろうし。
スーツケースも、いったいどこにいったかわからない。
「ゼロから生活してくためのものを揃え始めたらそんなものだって」
「……あたし、出ていく前提じゃないの?」
「出ていく前提だけど?」
こともなげにシュウは肯定した。
「いつまでもみんなうちにはいないだろう。
いられたら困る」
「いや、その…なんというか」
問題は期間なのだが。
「続きは飯食いながらでいいか?」
「………………」
シュウに手首を掴まれ、グイッと引っ張られて店を出る。
ありがとうございます、と微笑んであいさつする店員。
店を出てから、自分がその店のワンピースに羽織もののシャツを着たままだということに気がついた。
本当にお金は払ってしまったらしい。
手をグイグイ引かれ、また建物の正面につけた高級車まで連れていかれる。
完全にありえるは、彼のペースに飲まれていた。
今度は、どこにつれていかれるのだろう……。
◇ ◇ ◇
「だから、なんでこんなシワになるんだって!?」
「干し方おかしいじゃんよ!?」
「おかしくない!?ちゃんとこれ拭いてんの!?」
「………………」
「なんだよ、お前がじょーしきないのが悪いんじゃん。ごめんなさいとかないの!?」
この家に住むのはシュウとさなこを入れてちょうど10人。
そとに出られず、家事をすることの多いありえるは、徐々にそんな感じで、他の女たちに詰め寄られることが多くなっていた。
家から親が出ていき、学費も家賃も払えなくなって高校をやめてからは、住むところもなくあちこち転々としてきたありえる。仲間のところに転がり込んだり、セックスと引き換えに男の家に住まわせてもらったり。
何人もの男に輪姦されることもあったけど、それを被害だと思っていたら生きていけなかった。
だから、自分が本当に常識がなかったのだということに直面して、自分より年下の女に指摘されたりして、恥ずかしくて死にたかった。
「………………」
ありえるは、人けがなくなった途端、壁を背にして、床に崩れ落ちた。
(……………)
家事などという、こどもが習うようなものすごく基本的なことであれこれ言われなければいけない自分。
それで、泣いている自分。
問題のレベルが低いほど、情けなくて。
こんなゴミみたいな女だから、何度も何度も肉便器にされるんだろうか。
鏡に映るすっぴんの自分の顔が、吐き気するほど不細工で。
こんな情けないことで泣いているところなんて、誰にも見せられない。
「…久勢?」
声をかけられて慌ててありえるは目元をこすった。シュウが、中腰でこちらを見下ろしていた。
シュウが、ありえるの横に座ってくる。
「……ち、近い」
顔を見せまいとシュウを押しのけようとする、ありえる。
シュウは気にせず、あぐらをかいた。
「久勢。
外、出ようか」
「……?」
急な言葉に、ありえるは戸惑った。
「私、すっぴんだし、服も早那子に借りてるし…、それに……」
「見つかりたくない奴もいるし?」
「…………!!!」
「中にずっといるだけだったら、服も化粧品もないままだろう?」
「……でもさ。お金……」
「大丈夫。生活費は全部早那子がつけてるから。
職についたら日割りで払え」
ぐいっ、と、ありえるの腕をつかんで、シュウは立たせる。
「行くぞ」
ありえるに拒否権はないようだ。
シュウの、すべすべした女よりも柔らかい手に、手を引かれ。
何日かぶりに外に…マンションの前に出て、ありえるは目を見張る。
テレビでしか見たことのない、艶光りする黒い大きな車が待っていた。
「…な、なに、これ……」
「ん、すっぴん気になるんだろ?」
「え……」
お抱え運転手っぽい制服を着た運転席の女性が、笑顔でシュウに会釈する。
「シュ……シュウ」
「…ん?」
「なに、この車?」
「ああ、少し大きなタクシーだと思え」
「いや……」
なるほど、シュウは、確かにものすごく金持ちのぼんぼんなのかもしれないが……
色々おかしくないか?
突っ込みたいことだらけで、感覚が段々麻痺してくる。
「で、化粧と服とどっちが先がいい?」
「……化粧……」
「了解」
◇ ◇ ◇
そのあとのことは、ひたすら突っ込みの嵐だった。
コスメショップか何かに行くのかと思ったら、いきなりエステにつれて行かれた。
すべてが艶ひかる高級サロンっぽい店内は、他に客がいなくて、びくびくと見まわしてしまったのだ。
全身エステの上、特に顔は念入りに、スチームをあてられ、じっくりじっくり、何かを塗られ触られマッサージなのかなんなのかされ。
次に鏡を見たときは、既に、え、誰コイツ? という感じに。
「若いのにずいぶん肌が荒れてたわねぇ。
十代のお肌なんて二度と戻らない宝物なんだから、絶対、ぞんざいに扱っちゃダメよ?」
そう、エステティシャンに諭され、ありえるはこくりとうなずく。納得したんじゃなく、圧倒されていたから。
その後、丁寧に顔の毛、眉を処理され、念入りに化粧を……された。自分で化粧はできなかった。
といっても、有無を言わさず上品な感じにされるのかと思いきや、いくつかの化粧のパターンを示されて選ばせてもらえた。結果、いい感じに濃く、かつ、ありえるがやるよりずっと綺麗にしあげられ、再び「え、誰コイツ?」感を味わうことになる。
次にそのまま、同じ建物の洋服の階に連れていかれた。
女性向けのいくつかのブランドのセレクトショップらしい。
確かに素材は上質そうで、ありえるが着るには少し大人っぽかったが、どれもオシャレで組合せしやすそう。
街中で着るにはこれはちょっと……っというものはひとつもなかった。
それはいい。
だが。
まったく値札がついていないという恐怖。
しかもそれで、まるで合計金額を気にせず、シュウは
「んじゃ、それとこれとこれとそれ」
「そこのハンガー全部」
とか簡単に言ってのけるので、ありえるとしては、非常に肝が冷えた。
◇ ◇ ◇
「ちょっとシュウ、これ…」
「ああ、買ったものは届けさせる。
荷物は気にするな。
ええと、次は…」
「じゃなくて…」
「あ、靴を忘れていたな」
「じゃなくて!!」
ありえるはシュウの顔をこちらに向けた。
「こんなに買っても、来ていくとこないっつーの。もったいないじゃん」
「こんなに?」
シュウは、買い物の山を見て首をかしげた。
「こんなに、っていう量か?」
「量だって!」
「そうか?
普通、女が家に置いてる服を全部引っ張り出したら、これぐらいは余裕であると思うぞ」
「…………」
それには同意しかねるけれど……。
そうだ。私、なにもかもまるごと置いてきたんだ…。
家はなくなって久しいけど、スーツケースとコインロッカーに詰めた服があった。
ああ、もう、コインロッカーのほうは捨てられてるんだろうし。
スーツケースも、いったいどこにいったかわからない。
「ゼロから生活してくためのものを揃え始めたらそんなものだって」
「……あたし、出ていく前提じゃないの?」
「出ていく前提だけど?」
こともなげにシュウは肯定した。
「いつまでもみんなうちにはいないだろう。
いられたら困る」
「いや、その…なんというか」
問題は期間なのだが。
「続きは飯食いながらでいいか?」
「………………」
シュウに手首を掴まれ、グイッと引っ張られて店を出る。
ありがとうございます、と微笑んであいさつする店員。
店を出てから、自分がその店のワンピースに羽織もののシャツを着たままだということに気がついた。
本当にお金は払ってしまったらしい。
手をグイグイ引かれ、また建物の正面につけた高級車まで連れていかれる。
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