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Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す

真曽木トウル

(5)天使とクソショタ

   ◇ ◇ ◇




 ――――――――2年前。








(……天使?)


 雨にけぶる視界に、すごく綺麗な女の子が入ってきたとき、冗談抜きにそう思った。


「……大丈夫?」


 自分が濡れるのもかまわずこちらに傘を差し出して、女の子は心配げにこちらを見つめていた。
 肩で行儀よく切り揃えた栗色の髪、大きな瞳。
 優等生ぽいし、化粧はしていないかもしれないけれど、息を飲むほどかわいい。


 季節は冬から春に向かう途中。
 自分は、いつから雨にうたれていたのだろう。
 ぼんやり考えながら、女の子にコートをかけてもらっていたことに気がついた。それほど、肌にはもう感覚がなかった。


(ああ、あたし、服脱がされてたから…)


 裸の足や肩や脇腹が、泥まみれの地面にくっついてるわけだ。
 下着しか身に着けていなくて、それも意味もないほどにずぶ濡れになっている。


(いいの? 綺麗なコート、汚れちゃうよ…)


 それに、この女の子はカタギだ。
 自分だってヤクザなんかじゃないけど、こういう美人だけど処女っぽい女の子が、何を思って自分のような女に関わるのだろう。


 この子も、このままいたら私の仲間だと思われて、拉致られて、犯されるかも…?
 まっさらなものが、蹂躙されて、汚されて。そんな残酷な想像が、ぼんやり浮かんだり。


 そこには恐怖もなく、感情のスイッチが切れていて、自分が、あちこち大事なところがつながらなくなった壊れた機械のような感じがした。


「少し歩くと警察があるけど、そこまで行ける?」


 女の子に聞かれて、大きく首を振る。
 警察だなんて、絶対に嫌だ。


「そうだよね。男のひとばっかりだしね…」


 そういう理由ではなかったが、少し女の子は思案すると、


「ちょっと待っててね」


と、声をかけるなり、こちらに傘をかけたまま、雨のなかを上着もなしに走っていった。


 意識は、そこで一度途絶えた。


   ◇ ◇ ◇


 再びぼんやりと意識が戻ってきたとき、ああ、何か今暖かいなぁ、と感じた。
 着ているものも着心地がいいけれど、何か今、とても温かいものを抱き締めている気がする。


 すごく気持ちよくて、生気がよみがえりそう…
 優しいこの感じ…何だろう…


(………………)


(……あれ?)


 目を開いたとき、目の前10cmのところにあったのは、見知らぬ男の子の顔だった。


(!!!!!!!!!!)


 歳がいくつぐらいかも推定する余裕がない。
 いくらかわいい顔をしていても、男は男。今、 何よりも忌むべき存在。


 なのに、ふかふかのベッドの上で、少年の細い体を抱き締めているのが他ならぬ自分だと気づいたとき、戦慄し、




「いやあああああああぁぁぁっっっ」




声をあげるのを抑えることができなかった。




「どうかしたっ!?」


 聞き覚えのある声とともにあわてて部屋に入ってきたのは、あのときの天使……のような女の子だった。


「あ。……シュウ…くん?帰ってたの?」
「さなこ。誰だコイツ?」


 少年は声変わりの気配のない高い声で、こちらを不審げに指差してくる。


「えーと……池袋で会って……名前はまだ知らない…」
「あっそ」


 機嫌を損ねたように、少年はベッドから降りる。
 広い広い部屋の中で、細い体は小さく見えた。
 そう、とにかく部屋が広い。


 どこのナンバーワンホストの部屋、という感じの、黒とシルバーの、高そうな家具類で統一された空間。
 なかでも、大きなテレビに目を奪われた。


「ほいほい捨て猫みたいに人間拾ってくるのはいいけど、俺のベッドに寝かすなよ」


 捨て猫!?
 いや、暖かいところに連れてこられてありがたいのは確かだが、こちらからは頼んでもいないのに……。


「ごめんなさい。シュウくんのとこなら電気毛布があるから、体温回復するの早いかと思って…」


 天使の困った顔を見て、少年の表情がやや軟化した。


「確かに、電気毛布ついてたな。
 もぐってて気づかなくて、俺が布団に入ったら、いきなり抱きついてきた」


「そっ!それは…」


 声をあげようとしたが反論できなかった。


「……だって、意識、なかったし……」


 そう呟きながら、彼女は自分の状況を把握した。
 知らない間に、あったかいパジャマに着替えさせられている。
 パジャマの中に手をいれて確認してみる。下着も変えられたらしい。胸元は寝るとき用のブラ?のようなものが。


 少年は呆れたように肩をすくめ。


「こっちも疲れてて仮眠しようとして、確認せず布団に潜り込んだのは悪かったよ。
 まだ体冷えてる。寝てろ」


と、言いおいて、部屋を出ていった。


「…………ナマイキ」


 少年の、決して優しくない言葉の中に隠れた優しさのようなものがなんだか気持ち悪くて、思わず吐き捨ててしまった。


「アイツ、何様?中学生でしょ?」


「ああ。いま中1かな?」


 こともなげに天使は返す。


「中1!?」


 それは思ったより、若い。


「うん、もうすぐ13」


「え、……いま12!?」


 混乱していた彼女に、天使はにっこり微笑んで。


「起きたらご飯用意してるからね」


と言い残して部屋を出た。




   ◇ ◇ ◇


「…関わったらやばいとか思わないの?」
「ん?何が?」
「……なんでもない」




 りえるは、うつむいて米飯を口に運び続けた。
 温かいご飯がうまい、と思ったのは初めてだった。


 見た目通り、天使はとても料理がうまいようで。
 立派な対面式キッチンからモダンなデザインのダイニングテーブルに次々並べられたのは、天使の見た目のイメージ通り、和風の食事だった。


 米のご飯に味噌汁、焼き魚、野菜の煮付け2種、お浸し、あえ物、肉の野菜巻き、卵焼き。


 普通と言えば普通の内容ながら、一品一品のクオリティが非常に高く、さらに、こんな品数の食事は、いままで1度も食べたことがない。


 ちょうど心地よい空調といい、ここの家は、快適だと、認めざるを得ない。


 「…で、お前の名前は?」


 目の前に座った、えらい態度のでかい中学生男子を除けば。
 少しばかり顔がかわいいとか思ったのは、年が若すぎるからだ。
 女みたいな声のくせに、この上から目線って…。


 いや、さすがに答えないといけない空気かもしれない。でも。


「クゼ。久しぶりに勢いって書いて、久勢」


「下の名前は?」


「………………」やはり訊くか。


 今度は純粋に言いたくなかったので、そのまま味噌汁をすする方を優先させたのだが、隣の椅子に座った天使がにっこりとして、


「私、みたむらさなこっていうの。
 みたむらが、美しいに田んぼの村。
 で、早いに、那覇の那の、子って書いて、早那子」


「早那子…」


 ナハのナ、って、どんな字だっけ。


「久勢さんの下の名前は?」


「…………」

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