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Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す

真曽木トウル

(3)再び女刑事

   ◇ ◇ ◇


『牧ノ瀬さんがマンションの前まで来てるから、俺が帰るまで2階のカフェテリアで応対しとって』


 というシュウの電話がかかってきて、慌ててりえるは着替えて化粧を直して階下に降りた。


 1階におりると、この間このマンションにやって来た(そしてりえるは腹を蹴り飛ばされた)警視庁の牧ノ瀬覇華という女性が待っていてこちらにほほえむ。
 りえるは彼女に会釈した。




「りえるさん……だっけ」




 ショートヘアの彼女は、気軽ににこにこ声をかけてくるが、刑事に名前を覚えられるというのはあまりりえるにとって好ましい気持ちにはならない。


「……シュウが戻ってくるまで時間が少しかかるので、その間お相手します」


「うん、了解」


 マンションのエントランスは3階位の高さまで吹き抜けで、エスカレーターで上がった2階スペースにシンプルなカフェテリアがあったので、そこに案内した。
 利益追求というよりマンション住人へのサービスのためのスペースだ。
 メニューがそこそこあって、このマンションの住人の収入からすると、だいぶリーズナブルな価格設定になっている。


 どの飲み物も飲んだことがあるりえるはカフェオレを選んだが、覇華は黒蜜きなこラテを注文し、きなこを多めに入れてもらう。


「……意外ですね」
「ん?」
「刑事さんて、基本コーヒーなのかと思ってました」
「ああ、たんぱく質と糖分が欲しくて」
「………………」


 ああ、きなこは大豆だから……って、そういう問題か?


「……で。どうして刑事さんがうちを見に来るんですか?」


 席につくなり、りえるは先制攻撃を繰り出した。
 牧ノ瀬覇華の意図は予想がついた。
 中学生とはいえ男一人とたくさんの女が閉鎖的な空間に住んでる構図が、怪しいから根掘り葉掘り聞かれるのだろう。
 シュウが、帰ってくるまでの間、彼女の応対をりえるに任せたのは、おそらく余計なことを聞き出されずに、そつなくシャットダウンすることを求められるからのはずだ。


 本当なら、年長で社会人経験が長く、いい会社に勤めているレイリが一番なのだろうが、こんなときに休日出勤している。


 先ほどりえるは精一杯機嫌悪そうな声にしたけれど、牧ノ瀬覇華は、特になにも感じないようにりえるを見返して。


「理由は……3つあるかな」と返した。


「3つ?」


「ひとつは木暮美湖ちゃんが心配だから。2つめは、これから協力していく情報提供者が信頼に値する人間なのか見極めること」


「はぁ……で、3つめは?」


「九鬼くんが潰れないか心配だから」


「!」


 思わぬ答えに、ガタッ!!と音を立てて、りえるは思わず立ち上がりそうになった。
 覇華は小さく笑う。


「…………あ。りえるさんもそう思ってた?」


「……な、なに、言って……」


「あ、まあこれは余計だったね。とりあえず気にしないで」


「………………」


「九鬼くんまだしばらく帰らないみたいだし、良かったら、お互いの話でもしない? 今の段階だと共通の話題何もないしね」


「あたし、自分のこと話すつもりないんですけど」


「了解。じゃあ私のことを話させてもらうね」


 よどみなく会話をつなぐ。こちらに準備する間をおかせない。
 うまいな、この女。これは刑事としての技能なのか。


「私は9年前に大学を卒業して以来、9年間ずっと警察にいるんだ。
 まず、最初は6か月警察学校に通ってそのあと配属が決まって。地域課の交番勤務。交番にいる、いわゆるおまわりさんね」


 地域課、交番勤務……。
 そうか。刑事ドラマで見る刑事たちよりも交番にいる警官のほうが出世していないんだと勝手に思っていたが、そもそも『課』が刑事課とか捜査一課とかと違うのか。


「知ってる?交番で働いてるおまわりさんて、9時間勤務の『日勤』って日と、24時間勤務の『当番』って日と、非番の日がサイクルで回るんだ。生活のリズムを作るのが、結構大変で」


「ふ、ふうん……?」


 24時間勤務の日があるのか。それは知らなかった。


(……ん、9年……?)


 なんか目の前の女はたぶん20歳ぐらいかと思うんだが……聞き違い?
 あれ、大学って、何歳で卒業なんだっけ?


「ただ、いきなり配属された交番が繁華街ど真ん中で、連日事件に次ぐ事件でさー」


 下唇に人差し指をあてて回想しながら、かわいい口から何気なく物騒なことを言う。


「毎日わけもわからないうちに、指名手配犯捕まえたり、ヤクザのリンチ止めたり暴動止めたり暴漢とか捕まえたりしてたら、刑事部からお呼びがかかったみたいで、半年もいないうちに刑事課の選抜試験をうけることになっちゃって」


 思わずりえるは、覇華の蹴りを食らったお腹を押さえた。
 数々の手柄は、あの際立った戦闘能力ゆえということか。


「……バイオレンスなヤツだって、思われたんじゃないの?」


「やっぱりそうかなぁ。ほんとは生活安全部か組対に行きたかったんだけどね」


「……ソタイ……?」


「簡単に言えば暴力団対策の部署」


(ちょっと待て、暴力団相手が希望って……??)


「で、それから刑事部に入って。捜査協助課、捜査三課にそれぞれ少しだけいて。
 23ぐらいのときかな、知り合いを巻き込んだ大きな事件の捜査に当たることになって、それをきっかけにして捜査一課に移って、もう7、8年」


「へぇ……」


 内心で混乱しながらりえるは歳を計算する。
 23+8で31歳……え、シュウの倍以上!?
 ……なんだろう。この見た目、詐欺か?


「……でも、それって、もしかしてものすごいスピード出世です?」


「へ?」


「だって、……警視庁の捜査一課なんて、警察官がみんな憧れるわけでしょう。
 どの刑事ドラマでも、完全エリート扱いだし、ほんとにめちゃくちゃ手柄立てるか、キャリアとかじゃないと入れないんじゃ…」


 にこっ、と、覇華は笑う


「警察に興味ある?」


「…別に…普通に刑事ドラマぐらい、見るじゃん?
 本物の警察官は嫌いだけど…」


「こぼしてるよ?」


「へっ…?」


 ふとテーブルを見ると、うっかり揺らしてしまったか、カフェオレが染みを作っていた。


「…………………」やっちまった。

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