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Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す

真曽木トウル

(13)お説教

   ◇ ◇ ◇


「じゃあ、私はこれで」


「では、お気をつけて」


 広いエントランスを抜けていく牧ノ瀬覇華を、わざわざ一人エレベーターまで見送り、シュウは深く腰を折って礼をした。


 ドアが閉まり、一息ついてシュウが体を上げた途端、


「こらぁもう~! シュウってば嘘つきだなぁっ」


と、背中から飛び付いてくる女がいた。


「レイリ、重い」


「ええ? 嘘、シュウくん体調悪いんじゃない? 私が体温はかって、わぎゃっ」


 容赦なくシュウに振り落とされて廊下に尻餅をついていたのは、スーツ姿の30歳ぐらいの女性であった。
 一目で仕立ての違いがわかる高級スーツながら、巨乳で弾けそうなほどシワのよったシャツの上に、長い長い髪をほどいた姿は、デキる女というには少し色気がありすぎる。


「帰って早々のお前に嘘つき呼ばわりされる覚えはない」


「だって、ほら、さっきの話の中で、『確かに、彼女たちのうちいくらかは、俺に好意を持ってはいますが』って…………。
 いくらかって何よ、全員だよね?」


「……なん、お前、帰ってきて、そのまま刑事さんとの会話盗み聞きしとっと」


 あきれ顔で、西国の方言を漏らしながら、シュウはレイリに手を差し伸べる。


「たまに早く帰ってきたと思ったら盗み聞きの上ダイビングショルダーかましてくるし、お前は少しは落ち着かんのか」


「いやー……早く帰ってきたのはメールでさぁ」


「メール?」


 レイリがピンクのスマホをぱくりと開いて見せると、そこにはSOSを求める他の女子たちからの『強敵襲来!』というメールが表示されていた。


「……で、年少組の暴走止めるために慌てて帰ってきたわけ?」


「え、だってこんな面白そうなことに私だけ仲間はずれなんて絶対やだって思ってあわれれはえっへひへへ」


 台詞の途中から皆まで聞かずに左右に口を引っ張られるレイリ。


「……シュウ、いつにもましてひどくなーい?」


 ――――そのまま部屋の中まで引っ張って連れてこられて、美しい顔の両のほっぺをじんじんと腫らしながらうらめしげに、応接間のソファに足を組んで座ったシュウを見上げる。


「や、いつも通りやろ」


「あ。綺麗なお姉さんに『魅力的』とか言われて動揺しちゃったとか」


「お前の思考回路はほんと平和だな…」


「じゃ、『動揺』だけ正解?」


 あさっての方向にそらしていた目をシュウは、ぱっとレイリの方に戻す。
 さっきまでしょぼんとして見せていたレイリではなく、顔はきりりと引き締まり、すっと立ち上がってシュウの横に腰かけた。


「牧ノ瀬覇華が、ここに来ることになったのが不安?」


「……レイリ。知ってるのか?」


「それ本気で言ってる?
 『競技者』としての牧ノ瀬覇華は、知らない奴は女子格闘技界じゃモグリだよ」


 さらりと、あくまで一社会人でしかないレイリは言ってのけた。


「もちろん警察官として日本拳法や柔道もマスターしてはいるそうだけど。
 五歳から始めたITFテコンドーでは、全日本選手権で高校一年生から同階級十二連覇。
 組手の公式戦では結局、全試合無敗のまま競技から離れたとか。
 彼女の階級じゃ国際試合出られないからって、逆に体重増やす選手も多かったほどだって。
 もちろん国際試合でとったメダルも数知れず。
 オリンピック前になるたびに、期待をこめてネットでWTF転向の噂が流れるぐらい」


「……それはそれは」


 オリンピック競技として採用されているWTFテコンドーとITFテコンドーは、道着もルールもまるで違う。
 WTFはパンチが有効打にならないが、ITFはパンチが試合の中でかなり重要なファクターとなる。
 それだけでもかなり競技特性は違いそうだが。
 それだけ、牧ノ瀬覇華というアスリートが逸材だったということか…。


 31歳と比較的年長で、さなこ、りえると並んでリーダー格の一人であるレイリは、調子に乗るところもあるが、IQばかりで経験の足りないシュウの、ちょうどいい相談相手でもあった。


「そうだね、いまのITFだと、関西のライト級の三条和希が、ここ数年軽量級日本最強なんて言われて、男子より強いなんて言われてるけど…あれはやっぱり背が高くて手足が長いっていうアドバンテージがあるからで、技術も練習量も、全盛期の牧ノ瀬覇華をこえる選手は、日本のITFでは今までいないんじゃないかな…他匹敵しそうなのは、あとはMMAのIoRiイオリ選手とか…」


 ……時々暴走しがちな格オタ語りを除けば。


「女としての意見を言わせてもらうと…」


「ん?」


「どうしても、男子とか階級上の相手と戦うと、攻めるか守るか、どっちかしかできなくなっちゃうんだよね。
 力強い攻撃にびびって、完全に守りに入ってしまうか、捨て身でどうにか一矢報いるためにボコられてもボコられても攻撃に入るか。
 私はわりと後者になるかな」


「うん、大体想像がつく」


「でも、牧ノ瀬覇華は、その、守りから攻めへ、攻めから守りへの振れ幅の大きさ、切り替わりのはやさが魅力なの。
 不可能とも思える間合いを制して、自分の攻撃は当てるのに、相手の攻撃はまるで食らわないし鉄壁の守りを見せる」


「駆け引きのうまさ?」


「それもあるけど、頭の良さだけじゃ無理だよ。
 胆力も相当だし、体の力のオンオフや重心の位置が、尋常じゃない速さで切り替えれるんだと思う」


「なるほど…」


 警察関係者に聞いたが、牧ノ瀬覇華が格闘するときは基本、急所を狙って一撃で倒すという。
 男と闘うときは、長引かせるほど、性別の不利さが出てしまうからだそうだ。


「……それだけの逸材が、競技から離れた理由は?」


「うーん…それはよくわからないみたい。
 私と同い年だから、いま31歳でしょ。
 ITFのルールなら全然まだ第一線で活躍する歳だもん。
 警察の仕事がすさまじく忙しかったのかなぁ…?」


「そっか…」


 準キャリアならば警視への昇進は早くて35、6歳と言われる。
 31歳で警視の地位にあるというのは、キャリア並みのスピードだ。


 その一方で、警視庁内部では、手柄を立てすぎた彼女をある種扱いかねている気配がある。
 警察官は通常二人一組で行動するべきところを、今日も彼女は一人きりでここに来た。
 捜査一課の孤高のアンチェインド・クイーン。


「……うまく、利用だけできればいいと思ったんだけどな。
 ちょっと、一筋縄じゃいかなそうだ」


「まぁ、ほら。名馬は簡単にはのりこなせないものですよ。赤兎馬とか。
 今のところは味方なんだから良かったじゃない」


「……ありがとう、レイリ」


「どういたしまして。
 私たちはみんな、シュウを信じてついていくしかないんだからさ。
 大丈夫。うまくいくよ」


 す、っとレイリは立ち上がり、ジャケットを脱ぎながら、


「で、食事の支度は今日はペナルティ組がやってくれるとして…私は木暮ちゃんをお説教しとけばいいの?」


と、問う。


「あ。もう知ってるのか。まぁ、お茶の淹れ方は何回かやらせといて。今日のはわりと酷かった」


「了解」


 うなずいて部屋を出ていこうとしかけて、「あ、そうだ」ふと気づいたようにレイリは部屋を覗きこんだ。


「アイカが機嫌悪かったよ。
 今日は昼から自分の番だったから午後半休とったのに、りえるたちのせいでシュウくんが忙しくなっちゃったーって」


「わかった、ありがとう」


「今日は一緒にお風呂にはいって△△△×××してあげるといいと思うよ♪…わぎゃっ」


 最後に余計な放送禁止用語を発したレイリの顔面にクッションが見事にクリーンヒットした。


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第一章 了

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