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Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す

真曽木トウル

(11)契約

「…………終わりました」




 そう言ってシュウは、セッティングしていたタブレットやマイクなどを手早く片付ける。




「すみません、お待たせしてしまって。
 ですが、お話を聞いて大体は想像できるんじゃないでしょうか?俺の仕事が」




 想像できる範囲の仕事ではないように思うが、覇華は何となく推測したままに口を開く。




「交渉屋……かな。
 ヤクザや女衒ぜげんと交渉して、時には警察を利用して。
 人身売買をされている女性を取り戻して――――最終的に家族から謝礼を得ている、といったところ?」


「女性には限りませんけどね。
 正確に言えば、人身売買組織の解体です」


「……解体!?」


「文字通り、『解体』です」




 彼はごく何気ないことのように説明する。




「まずは、こちらの独自の情報網から……売られた人間たちの、家族、親類縁者や同級生、恋人などに複数、報酬を約束させます。
 一方で、バックのヤクザやマフィアに、金をちらつかせながら『業者』との縁を切るよう交渉。
 あるいは『業者』自身に、廃業・転業を促しつつ、『商品』としている人間を全部買い取る。
 業者自身にやめる気がない場合は、外堀を埋めて、警察に捕まえてもらいます」


「……タレこむの?」


「証拠とともにね。
 今回の件で言えば、海神組はもともと、あの若頭が、使えない上に言うことを聞かない人身売買業者にかなりいらだっていました。
 それでフロント企業にやらせる事業をいくつか提案しつつ、海神組のほうの女性たちの借金をまとめて払ったんです。
 六角組の分は払わずに済みました」


「なるほど……そうやって検挙につなげてきたから、結構な数の警察関係者と顔見知りなわけね」


「ええ。今まで試行錯誤してきましたが、人身売買を止めるには組織を『解体』するのが一番早くて効率的です」




 ため息をつきながら、覇華は考えを整理する。




「それで?
 報酬を払ってくれる身内がいる女性だけ、ヘリでこちらに連れてきたの?」


「いえ、一部、クライアントから希望のあった人だけです」




 ならば、普通に取り調べられた女性たちの中にも、親族が金を彼に払った者がいたということか。




「……まず、それが可能なの?
 家族がお金を払えるのなら、借金取りはわざわざ人身売買に手を出さなくても、そっちに行くでしょ?
 拉致のケースならともかく…」


「そうでもないですよ。
 親元にいくということは、弁護士や警察が介入するリスクが増すということですから。
 それに、たとえば絶縁している娘が借金で頼ってきても突き放す親でも、いざ、海外に売られようとしてみると違うものです」


「………………」壮絶な話に、覇華は唾をおもわず飲む。


「あとは、離婚して養育費を踏み倒している親は狙い目ですね。
 元配偶者にはびた一文払いたくなくても、我が子には罪悪感があるのか、意外と払いは悪くありません。
 もちろん、養育費を踏み倒してきたことが、我が子が売られる遠因になっているんですが」


「養育費とは、元配偶者に支払うものじゃなく、こどもを育てるために使うものだからね…」




 養育費を払わないということは、すなわち、こどもを捨てたに等しい。
 それはわかる。けれど。




「ちょっと待って。
 確かに、君の『仕事』は、『いま』売られようとしている女性たちを救っているのは確かだけど……
 そのせいで、バックにいた奴らを警察が捕まえきれず、奴らはのうのうと逃げ延びてしまう。
 それは、『根』を残すことになりかねないとは、思わない?」




 シュウは、覇華の疑問を予想していたようにうなずく。


 根が残る。
 すなわち、奴らは同じことを繰り返すかもしれない。
 さらに、資金まで得ている。
 それが新たな悪事を生む可能性もあるのに。




「では逆にうかがいますが……牧ノ瀬さんは耐えられますか?」


「え?」


「奴らを根絶できる『完璧な証拠』を集めるまでに、売られた人間たちが、どんな目にあっても?」


「………………」




 そう言われると、確かに弱い。
 寸刻を争う瞬間が確かにある。
 それはわかっている。
 けれど……。




「俺がさっき海神組の若頭に話したように、日本国内ではどんどん売春の相場も需要も下がっています。
 海外では売春合法化によって、性産業従事者の権利が保障され、裏社会の人間たちから見て旨味は減ってきています。
 ですが、裏の人間から見れば、少し、違う。
 そのあたりのご事情も、警察関係者の皆様はご存知かと思いますが」




 こくり、と覇華はうなずいたが、どうもこの少年に話の主導権を握られている感じが気に入らない。




「お互いわかっている話なら、省略しましょう。
 で、……君はそれを、私に話すことで、私をそちらサイドに引き込みたいと?」


「こんなに早いとは予想外でしたけど、牧ノ瀬さんはいずれここを突き止めるだろうと思ったので、そうしたらお話ししようと思っていました。
 元々は、警視庁の皆さんが、うまくあなたを説得してくださることを期待していたんですけどね」


「人任せにするからじゃない?」


「それは反省するところですね。
 ただ、やはり警察と連携できて、問題なく組ごと潰せれば、あとのトラブルのリスクも減りますし経費も抑えられる」


「経費……ね」




 それなら、救う相手を金が払われている相手だけに絞るという手もあるだろう。
 そうせず、被害者全員を救うのは、少なくとも彼の中に正義があると考えてよいのだろうか?


 海外では『武装解除』という仕事をしている人々がいると聞く。
 世界中で絶えない紛争。
 それを止めるために、武装組織や個人に、武器を手放すよう交渉に臨む人々だ。
 その際、殺戮者の過去を不問にせざるを得なかったり、元兵士にもとの生活に戻れるよう援助する場合さえある、という。
 一刻も早くそうしなければ、明日にも数多の人命が失われる現実があるから。


 ………現状の認識の違いか。


 正攻法の捜査で犯罪者を捕まえていく警察のやり方では、遅い、とシュウは判断したのだ。
 一刻も早く次々に手を打たないと次々に命が失われる紛争現場のごとく、時には悪と交渉も必要だと彼は決めた。そういうことか。




「オーケー。
 言いたいことはわかった」




 後手に回った自分に、彼を否定する権利はない。
 覇華はおとしどころを計算した。




「警察の職務に反しない限り、私は君の邪魔だけはしないと約束しましょう」

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