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Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す

真曽木トウル

(10)ヤクザの上前

(………それは………?)




 松山刑事が話していた、蛯原組の不可解な動きが覇華の中によみがえる。


 確かに……捜査を警戒して、稼ぎ頭の部門を早すぎる段階で切り捨てたのではなく。
 『切り捨てられた』から、あの段階で検挙できる証拠がそろったのだとしたら……?


 あるいは。
 ……考えたくないが、蛯原組と近しい警察幹部がいた場合。
 部門が組本体から切り捨てられたからこそ、捜査が進んだとしたら…?


 覇華が松山刑事の話と事件の概要を思い出そうと脳内を検索しはじめたとき。
 遠慮がちなノックの音が2回、鳴った。


 先ほどの、りえると呼ばれた方の少女が、大きなタブレット端末を抱えてドアを開ける。




「シュウ。スカイプ入ったよ、例の人から。マイクは切ってある」


「約束より15分も早いな」




 タブレットをりえるから受け取りながら、少年は舌を打つ。




「牧ノ瀬さん、すみませんが、少しお待たせしても良いですか?」
「私はここにいていいの?」
「ええ。会話中は声を出さずにカメラの死角にいてくだされば」




 そう言って、シュウは、タブレットに映っている相手の顔を覇華に見せた。




(…………!?)




 40になるかならないか、という歳の男。
 その、時代劇役者のような、鋭く端正な顔には見覚えがある。
 今回摘発した人身売買業者たちとも先日まで付き合いがあったとされる、関東で非常に勢いのある暴力団、海神組の若頭ではないか。




「今はカメラもマイクもオフになっているので安心して下さい。
 オンにしたら存在を気取られないように」




 そういってタブレットとキーボード、カメラに小型マイクを手際よくテーブルの上にセッティングしていく。


 覇華はうなずき、可能な限り、おのれの気配を消した。




「では始めます。
 ――――――こんにちは。お待たせをいたしました。若頭直々のご連絡、大変恐縮です」


『いや、こちらこそ。
 ご助言ありがとう。
 六角さんには悪いことをしましたが、お陰でこちらは新しい資金源を確保するめどが立ちました。
 礼を言いましょう』


(…………助言?)




 覇華と反対側にタブレットが向いているため、若頭の表情がわからない。
 相手の男の、敬語だが尊大な口調は、シュウの年若さゆえなのだろうか?




『ところで、さっき出た女ですが』




 出た女……タブレットを持ってきた、りえるという少女のことだろうか?




「ああ、お気づきですか?」


『……あれは元・うちの商品でしょう?』


(…………え?)




 商品? 彼女が?




『随分と言葉遣いも仕込んだものだ。あのどうしようもない、手のつけられないバカ女に』


「ええ。仕込んだ甲斐あって、しっかり稼いでくれていますよ」


『中古の家具も、綺麗に磨いた方が高く売れるというやつですか。
 何をやらせているのか知りませんが、女一人に手間のかかることですねぇ…』




 シュウは、タブレットに向けて悠然と微笑んで見せた。




「いいえ、それほどでも。
 強いて言えば、女は売春さえさせれば稼げるなんて考えが、すでに時代遅れだということです」


『また、持論ですか』


「持論ではなく、事実です」




 しれっと、シュウは言う。




「日本の男の性欲はどんどん低減の一途をたどり、さらにアダルトソフトや動画を見られる環境も整っている。
 男が売春や性産業に払う金の相場は、どんどん下がっていく一方でしょう。
 そこまでの金をセックスに払う価値を、若い男たちは見いだせなくなっているんです」


『だからと言って…いつの時代も性産業はなくなりはしない。そういうものでしょう?』


「そう、なくなりはしないかもしれませんね」




 そう、話を受けて。また彼はつづけた。




「ただ、それに加え、世界的な流れで、各国は性産業がどんどん、合法化されています。
 低料金になりながら、維持はされていくのでしょう。
 合法化すれば当然、裏にいたときのように女から『しぼりとる』ことはできなくなる。
 つまり今後性産業は、リスクを負ってうまい汁を多くすする仕事ではなく、どんどん、堅実な儲からない仕事になっていくということですよ」


(…………!!)




 覇華は、段々と話を聴いていて気持ち悪くなってきた。




(……この子、ヤクザに何を語ってるの?)




 倫理的な問題ではなく、性産業従事者を商品とみなし、『儲からない』仕事だと言う論理…。


 善悪の回路が、おかしい……?
 怒りさえ覚える。


 けれど。
 冷静になるべきだ。
 それでも、少なくとも、彼のおかげで海神組が人身売買業者を切り捨て、守らないという選択をした。


 つまり、それによって六角組から尻尾を掴むことができた。
 結果的に、木暮美湖をはじめとしたたくさんの女性たちが海外に売られるのを阻止できた。




(……それは、『結果的に』?)




「まぁ、それはともかく。
 借金のある女、売られた女だけでなく、路上で誘拐して商品を調達するような、ずさんなやり口の業者はすぐに足がつきますよ。
 早めに切り捨てて正解だったでしょう?」


『まぁねぇ……こちらも回収できるもんは回収したわけですから。
 しかし、あんたもエグい商売しますねぇ。
 ヤクザの上前はねるなんて、ヤクザよりたちがわるい』


 ククク、と若頭が笑う声が聞こえてきた。


『しかし、あんまり調子には乗らない方がいい。素人が派手に跳ね回ると大火傷しますよ』


「肝に銘じます」


 シュウもカメラに、にやりと笑って見せる。
 それは、到底、中学生には見えない顔だった。

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