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Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す

真曽木トウル

(7)刃の少女たち





 ―――――――飛び降り自殺の遺体の損傷は、飛び降りた高さの2乗に比例して酷くなる。




   ◇ ◇ ◇




 50メートルほどの高さから飛び降りた遺体を初めて見た時を、覇華はふと思い出す。
 20代の男性だったが、頭部は扁平し、脳しょうは飛散していた。
 それ以外の部分は、まるで皮膚という袋のなかで中身をぐちゃぐちゃにしたようだった。


 不謹慎だが、その時覇華は、飛び降りた故人に対して激しい怒りを感じた。
 まだ生きられる体を、こんなに粗末にするなんて、と。
 遺体を一緒に見た後輩は、PTSDで後に退職した。




   ◇ ◇ ◇




 30歳を過ぎた今なら、死を選ぶ人にほかの選択肢が見えていなかったこともわかる。
 今の自分なら、あの死者を心の中で親不孝者と罵倒したりはしない。




 ――――――入り口を探そう。




 高層階の住人が日常的にヘリを利用しているならば、どこか、楽な出入り口があるはずだ。




(ここ、かな)




 覇華が出てきた入り口の、ちょうど反対側に、エレベーターの出入り口がある。
 入り口のガラスに手を置いて、覇華は奥を覗き込む。いけそうだ。




(住人と出くわしたら真正面から聴取ってことで)




 エレベーターのボタンを押し、上がってきた箱に乗り込む。
 予想していた通り、壁についていたボタンは1階から43~45階と、屋上である。
 つまり、先程の隠しエレベーターと同一ということだ。
 この3フロアの住人は相当なVIP待遇らしい。


 覇華が43階のボタンを押すと、エレベーターはすっと下がり始める……。
 件の階に到着したとき、ベルが鳴った。




「――――――――――!?」




 ドアが開いた瞬間、覇華の顔面目掛けて『棒』が繰り出された。
 その『棒』は、首だけで避けた覇華の頬をかすめていく。


 直径、目算にして約一寸の六角形、長さは六尺。棒術の六尺棒だ。
 木製だが直撃すれば骨ぐらいは砕ける武器。
 さすがに2度は突かせない。


 相手が最も突き出しきり、棒が止まる一瞬に、棒の先端部を掴み。
 相手が引き戻そうとするのに合わせて、ぐい、と覇華の側でも引き寄せた。




 ちから比べは素早く重心を落とした覇華の勝ちで、相手は棒を引き寄せた自分のちからの分も、覇華に引っ張られてきた。




「うぐ…っ…!」




 そこはもう覇華の横蹴りの射程内。
 相手は18歳ぐらいに見える少女。
 腹に覇華のかかとを突き込まれ、息ができない苦悶の顔で、くの字に曲がって床に崩れ落ちる。




「……で。まだいるわけね」




 左右の壁に隠れた女の子たちがいるのを、覇華は視界の端でとらえていた。
 エレベーターを降りたところは、42階と同じような美しい廊下のような場所と思われた。
 しかし暗い。
 正面に広く続くホールのようなものが見える。
 意図的に光を遮断したようだ。


 どうやら、覇華がエレベーターの箱から出た瞬間に、挟み撃ちにしたいらしい。


 構わず覇華はつかつかと箱から歩みでる。




 右からは、ぎらついた刀(どこで買った!?)を振りかざした女が。
 左からはサスマタを突き出した少女が突進してきた。




 かわしざま、覇華は彼女らが武器を持っているその手を両の手で的確に掴み、足を払ってひねるように二人まとめて投げた。




(良かった、刃引きしたやつみたい。。。)




 銃刀法違反で挙げなくても良さそうだ。


 正面から分銅つきの鎖がとんでくる。
 蹴りあげて勢いを殺し、鎖を引きつかんで持っていた女を引き寄せ、前蹴りで仕留める。




 次に来たのは3方向からの木刀、グルカナイフ(これもどこで買った?)、特殊警棒。




(グルカナイフはアウトかな?)




 一番掴みやすそうな木刀を奪いとりざま、立て続けに他の二人の武器の持ち手を蹴り飛ばす。




「やば、コイツ強い…」
「……さなこっ!!」




 うめいている女の子たちの声に呼応するように、覇華の前にいきなり刃物の切っ先が突き付けられる。




「!!」




 何コレ。まるで気配に気づかなかった。
 ぐりん、と回る刃をギリギリでかわし、覇華は距離をとる。


 鼻先に痛み。ちょっと切れた?


 距離を取って全体像を把握した。
 ……それはなんと、薙刀なぎなただった。
 競技で使うそれではない。
 刃がつき、人を殺せる武器。刀よりずっと強いとされる、武器。




(動きが……きれい)




 自分を追って走る刃。
 それから逃げながらも、縦横無尽に回る柄に、一瞬覇華は見とれてしまう。
 驚くほど天井が高くホールまで広いこのマンションの仕様が、薙刀の使用を可能にしているということか。


 薙刀の使い手は、ごく普通のシャツワンピースに身を包んだ、肩で切り揃えたストレートヘアの娘だった。
 大人っぽく優しげな顔立ちの、美しい娘で、袴姿もきっと似合うだろう。


 そして。
 ここまでのなかでは、紛れもない一番の強敵だ。


 覇華は密かに、自分の胸が躍るのを感じた。

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